組み込み、新興市場で存在感

Chrome登場でダウンロード2割増! Opera創業者に聞いた

2008/12/26

 Chrome登場以降、日々のOperaのダウンロード数は20%アップしている――。こう話すのは、Opera Software創業者で現CEOのヨン・ フォン・テッツナー(Jon S. von Tetzchner)氏だ。Webブラウザ開発競争が活性化し、IE以外のWebブラウザに対して一般ユーザーの目が向き始めているようだ。

 デスクトップPC向けWebブラウザ市場で見ると、日本市場では存在感の薄いOperaだが、モバイル向けを始めとする組み込み市場や、新興国市場では圧倒的な存在感を示している。

 1995年の登場以来、常に“世界最速”(the fastest browser on Earth)を標榜してきたOperaはまた、高速な処理や使い勝手の工夫の数々でヘビーユーザーを惹きつけてきた。近年はアップル(Safari、WebKit)、Mozilla(Firefox)らとともに「Web標準」の重要性を訴え、HTML5の開発・策定作業で重要な役割を果たすなどWeb全体への技術的貢献でも注目されている。

operapc.jpg 2008年12月にリリースされたばかりのOpera 10.0アルファ版。新しいレンダリングエンジンでは互換性テスト「Acid3」で100/100のスコアを獲得した

 ノルウェーに本社を置く同社CEOのヨン・フォン・テッツナー氏と、同社コンシューマ製品事業担当上級副社長の冨田龍起氏に、同社の現状と戦略、今後のWeb技術の展望について話を聞いた(インタビューはテッツナー氏に対しては2008年10月10日、冨田氏に対しては同11月18日に行ったもので、この記事は両者の回答を編集して1本にまとめたものです)。

ロシアで30%のシェア、新興国で伸びるOpera

――FirefoxやChromeなどが話題となる一方、Operaの影が薄く、日本市場ではマインドシェアが低下しているように感じています。

冨田 日本でのシェアはあまり変わってません。PC向けは特にそうで、これはアメリカでも同じです。ただ、新興国のPC市場ではOperaのシェアが高く、特にロシアでは30%のシェアがあります。これはFirefoxよりも高いシェアです。

 国によってばらつきがありますが、グルジアなど旧ソビエト圏はたいてい高く、国名に「スタン」と付く国――、カザフタン、タジキスタンなどではOperaが広く使われていると言われています(笑)

――新興国のデスクトップPC向けでOperaのシェアが高いのは、モバイル向けのOpera Miniの影響でしょうか。

 それはあると思います。処理能力や通信速度が限られた端末の多い地域ではOpera Miniが普及しています。

――Opera Miniは日本ではほとんど知られていません。詳しく教えていただけますか?

冨田 Opera Miniはサーバ側でレンダリングした結果を圧縮してクライアントに送る、組み込み向けのWebブラウザです。サーバ側はOperaのレンダリングエンジンを使っています。OBML(Opera Binary Markup Language)というバイナリの独自マークアップ言語で、だいたいオリジナルの10〜20%に圧縮してクライアントに送っています。

opera02.jpg Opera Software創業者で現CEOのヨン・ フォン・テッツナー(Jon S. von Tetzchner)氏

――Opera Miniのレンダリング用のサーバ台数は?

テッツナー 正確な数は覚えていませんが、非常に多いです。現在Opera Miniには2000万人のアクティブユーザーがいて、オスロにあるわれわれのサーバから出て行くトラフィックが、ノルウェーという国全体のトラフィックと比べられる、というような規模です。

 Opera Mini 4.2を2008年11月末にリリースしたばかりですが、オスロのほかに、新たにアメリカの西海岸に1つ、中国に1つ、「サーバパーク」と呼ぶサーバ群を増やしています。特にアメリカのユーザーが国内のコンテンツにアクセスするときに速くなっていると思います。

――Opera MiniのJavaScript対応は?

冨田 JavaScriptも実行できます。マウスオーバーでドロップダウンリストを作るなどという使い方だと動作が変わってきますが、Opera MiniとOpera Mobileの違いは、ほとんど分からないと思います。

モバイル端末向けはMobileとMiniの2本立て

――Opera MobileとOpera Miniの違いは?

冨田 Opera MiniはJava VM上で動き、サーバ上でレンダリングした結果を表示します。一方Opera Mobileのほうはクライアント側で完結したWebブラウザです。Opera MobileはWindows Mobile上で動くほか、最新版ではSymbianのUIQやS60でも動きます。ただ、ダウンロード提供でやりづらいのは、キャリアが規制しているケースがあるのと、専用アプリを作らないといけないことです。日本でダウンロード型ですんなり動くのはWindows Mobileだけですね。

mini.png Opera Miniの画面例

 日本のようにフルブラウザがケータイに搭載されているところではOpera MiniのようなWebブラウザはそれほどニーズがありませんが、ネット環境が限定されているようなところ、例えばアフリカなどでは非常に伸びています。

テッツナー 極めて限定された処理能力の携帯電話端末ですら、いかに多くの人々がインターネットにアクセスしているか、われわれはよく知っています。小さなスクリーンで、タッチデバイスがないようなものでも、何もないよりはるかにいいのです。PCを持っているのは世界人口の20%に過ぎませんが、携帯電話端末は50%の人々が持っているのです。

冨田 世界で出荷される携帯電話端末の8割は高機能なスマートフォンではなく、普通のケータイです。こうしたリソースの限られた端末、例えばメモリが2MBしかないようなものですが、こうした端末向けではサーバ側での処理が向いていて、Opera Miniはそういう市場に向けて出していきます。

 日本については、PC向けのシェアは確かに伸びていませんが、ケータイやWiiなどの家電向け、組み込みでの採用が進んでいます。ソニーのデジタルフォトフレームでの採用事例もあります。

 auの端末には「PCサイトビューアー」という名称でほぼ全機種に搭載されていて、2007年4月時点で出荷実績が1000万台に達しました。その後1年半ほど経過していますが、順調に伸びています。

 ノキアのSeries 40ではOpera Miniをプリインストールしているものがほとんどです。韓国のキャリアもダウンロードできるようにしたり、プリインストールしたりしています。Opera Miniは月間2000万ユーザーにお使いいただいています。

opera01.jpg Opera Software コンシューマ製品事業担当上級副社長の冨田龍起氏

――日本市場でPC版でのOperaのプレゼンスを高める戦略は?

冨田 サブノートやモバイル環境は一般的なPCに比べてリソースが限定されるので、ほかのWebブラウザに比べたときのOperaの快適さを訴求していきたいですね。ボタン一発でウィンドウ幅ぴったりにコンテンツを再表示できるような機能も、サブノート向けだと思います。実際、EeePCではOperaが採用されています。今後は、特に解像度が低いMID向けに最適化したようなものをベンダと協業していく方向で提供していきたいと思っています。

 Operaが提供する「Opera Link」も、サブノートやケータイなどとの連携では便利です。これはサーバ上でブックマークやノート、履歴、カスタマイズした検索エンジンなどを管理できる機能で、複数のPCやケータイの間で同じものが利用できます。今後はOpera Linkでサポートするデータの種類を増やす予定です。

 いずれにしてもPCよりも、まずデバイスです。ほかの機器で使っているからPCでも使う、というようにデバイスでの利用をPC側につないでいければと思っています。

 もう1つ、Operaではケータイの組み込み需要を背景に、一時期B2Bのライセンスビジネスが伸びました。それに合わせた開発サイクルでプロジェクトを進めています。ただ、多くのコンシューマに使っていただいて、そのブランド力があって初めてライセンスビジネスも成り立つということも理解していますので、今はまたコンシューマ向けに力を入れ始めています。現在7対3程度の開発リソースの比率を半々程度に持っていこうといのが全社的な戦略です。

WAPは失敗、今後は日本もWeb標準への移行は不可避

――ノキアのSeries 40はWAP対応(モバイル端末向けにヨーロッパで策定された規格)ですよね?

テッツナー WAPは完全に終わっていますね。WAPフォーラムの創業メンバーでもあったOpenwaveも、すでにクライアント事業部を売却しています(参考リンク)。

冨田 全然コンテンツがないのでWAPは使われていないのが現状です。WAP 2.0ではWMLというXHTMLベースのマークアップ言語になり、少しインターネット標準に近付いたのですが、ときすでに遅しですし、そもそもXHTML自体あまり使われていませんよね。

 結局WAPにはコンテンツがないので、キャリアもOpera Miniを端末にプリインストールしてインターネットのコンテンツを見てもらおうというケースが多いのです。

テッツナー 何が起こっているかというと、人々がインターネットにアクセスしたいと思っているということです。Alexaのようなトラフィック調査サイトに行けば、Opera Miniで人々がアクセスしている人気サイトが、デスクトップのものと同じであることが分かります。ユーザーは、PCのWebと同じことがしたいのです。例えばオークションサイトを使っているとしたら、モバイルでもPCでも同じオークションサービスを使いたいと思いますよね?

 これはKDDIのPCサイトビューアーやウィルコムがやってきたことですし、ヨーロッパもそういう流れにあります。米国ではクローズドネットワークが多かったですが、ほとんどすべてのキャリアは公式にインターネットアクセスサービスを提供するとアナウンスしています。

――日本ではiモードやEZwebがあって、モバイル向けコンテンツも充実しています。ゲートウェイや変換サーバを通せば見られないものは、あまり多くありません。

テッツナー それは日本市場でだけ起こったことで、非常に例外的です。WAPは失敗し、ほかの国でも失敗しました。日本はモバイル向けコンテンツが豊富ですが、それでも時間とともに徐々にWeb標準に移行していくと思います。だからと言って、良質なモバイル向けサービスが提供できないわけではありません。独自言語や独自技術の代わりにスタンダードな技術を使えばいいのです。そのほうが簡単でコストがかかりません。一番簡単なのはスタイルシートを切り替えて、異なる画面サイズに対応させるやり方です。

 今後、人々がWebにアクセスするのはケータイからだけではありません。Wiiやテレビなどの家電からも使うでしょう。デバイスごとに少しずつ違った言語を使って特別なコンテンツを作っていたら、非常にコストがかかります。テレビの世界ではこれが起こりました。各国が違う標準を作ってしまったのです。この複雑さは悲惨です。

 Web技術を使えば、こうしたデバイスの違いを超えられます。しかもWeb技術というのは、人々が考えるより、ずっとリッチでパワフルなのです。

冨田 確かに日本ではケータイ向けコンテンツが充実していて、フルブラウザの出番があまりありません。ケータイコンテンツが発展している市場ではOpera Miniのダウンロード数が少ないということは一般的な傾向として言えると思います。ただ、コンテンツプロバイダにしてみれば、コンテンツを2つの異なるインターフェイスで維持するのは、ものすごく大変ですよね。ケータイのスペックは上がり、VGA化もしているので、プレゼンテーション(表示形態)はケータイに合わせて変えるけれども、コンテンツはPCもケータイも同じ、というふうになっていくと思います。Wii向けのコンテンツなどは、すでにそうなっていてCSSを使っています。日本を含めて、こうした流れはほかの先進国でも同じだと思います。

テッツナー コンテンツプロバイダなら、異なるブラウザ、異なるデバイスへの対応の労力は最小化したいですよね。コンテンツで勝負したいでしょうし、そこがやりがいのある部分であって、異なる規格や仕様の複雑さに取り組みたいなどとは思わないでしょう。

――iPhoneは独自規格と言える面もありますが、エコシステムが回り始めています。

テッツナー もちろんサービスやコンテンツの提供者は、どういうやり方を選んでもいいのです。もし、iPhoneに十分な数のユーザーがいると判断したなら、iPhone向けに最適化したコンテンツを作ってもいいと思います。ただ、リーチできるユーザーの数が限定されるということです。

 つまり、わずか3000万人に対してアプリを作りたいのかということです。PCなら十数億人、モバイル対応なら30億人です。たくさんの人に使ってもらおうと思ったら、標準技術を使う必要があるのです。

――iPhoneやAndroid向けにOpera Mobile、あるいはOpera Miniを提供する予定はありますか?

冨田 iPhone向けは開発できる環境が整えばやりたいですが、SDKのライセンスの問題で難しいです。

テッツナー Android向けのOpera Miniは2008年4月にプロジェクトとパッケージを公開しています

――iPhoneでタッチデバイスの良さが再認識されたと思いますが、Operaでマウス操作以上のことができるようなタッチデバイスのサポートは?

冨田 今はタッチデバイスと小さなスクリーンを使ったときのクリックの操作性の改善に取り組んでいたり、いろんなプロトタイピングをやっているところです。ただ、もともと組み込み向けでは、端末ごとにジョグダイヤルを使うなどデバイスごとの最適化はしています。

SilverlightやAIRではなく、HTML5をRIAプラットフォームに

――HTMLは十分にリッチでパワフルというお話でしたが、JavaScriptエンジンの改良について、Operaからあまり話が聞こえてきません。Firefox、Chrome、WebKitが盛んに最速の座を争っています。

冨田 現在のOperaのJavaScriptエンジンは第2世代ですが、次世代の開発は進めています。実装方法も含めて、どういう形にするかはまだ議論中です。高速化の議論の流れは、バイトコードではなく、ネイティブコードに落とす方向です。ただ、インテル向けはいいのですが、ケータイなどARMアーキテクチャを考えると移植しないといけないので、まだ分かりません。パフォーマンスは上がるので選択肢として考えていますが。

 もともとOperaはJavaScriptの処理が速いと言われていましたし、組み込みで使われている実績もあります。それにOperaは最速を掲げてきたので、JavaScriptについても「速くなければいけない」という考えが社内にありますね。プライドが許さないのです(笑)

――RIAプラットフォームとして考えると、HTML5は、まだ開発途上で使えません。Webブラウザでのサポートも進んでいません。例えば現状で映像を扱うとなれば、SilverlightやAIRになると思いますが。

テッツナー Silverlightのような独自技術を使うと幅広いユーザーにリーチできません。少なくともマイクロソフトがSilverlightを提供するプラットフォームにしかリーチできません。まだSilverlightは、多くのプラットフォームでサポートされていませんし、普及もしていません。テレビやモバイル環境はどうですか? Webの技術を使えばより広い層にリーチできます。Flashはデスクトップなら90%以上の普及率かもしれませんが、モバイルでは?

 プロプライエタリな(独自の)技術を使うと、その技術にロックインされてしまいます。ActiveXがいい例です。私が知る限り、ActiveXが広く使われている国が1つだけあります。韓国です。悪いことに、彼らはIE6の世界に閉じこめられています。IE7ですらありません。なぜなら、セキュリティ上の理由からIE7以降でActiveXを使うのは難しくなっているからです。

 私が指摘したいのは、オープンな選択肢があるときに、そうでないものを使う理由はないということです。

マイクロソフトのWeb標準準拠は十分?

――しかし、ほかのWebブラウザのようにIEがHTML5の機能を積極的に実装するでしょうか?

テッツナー 長い目で見れば、彼らもサポートするはずです。それまではFlashが使えます。彼らが実際にIEで何を実装するかは分かりません。しかし、彼らも規格策定に参加しているのですから、実装するべきでしょう?

opera03.jpg

――SVGのときはそうしませんでした。規格策定には加わりましたが、2001年の規格策定以来ずっと彼らはSVGを無視しています。

テッツナー われわれはマイクロソフトをもっと評価しなければなりません。Web標準準拠に対する改善が見られます。それが十分かといえば答えは「ノー」です。彼らが今でもWebの足を引っ張っているかといえば、答えは「イエス」です。しかし、少なくとも彼らは正しい方向に進み始めています。

――2008年8月にリリースされたIE8のベータ版で、Web標準に準拠して作成されたWebページを表示すると、ページが壊れていることを示すアイコンが表示されます。従来のIEのレンダリングモードに対して非互換という意味だと思いますが、これが正しい方向と言えるのか疑問です。

冨田 IE6で苦労してきた開発者やデザイナの方々は、IE8のベータ版が出たとき、失望したんじゃないでしょうか。マイクロソフトはWeb標準に準拠するといったのに、出てきたものが「これか!」という。

テッツナー 独自の、プロプライエタリな技術によって、これから大きな成功を得られるような企業があるか、私には非常に疑問ですね。

――マイクロソフトは過去10年以上成功しました。

テッツナー それはオフィス製品についてですよね。Webではうまく行っていません。ActiveXはどんどん減っています。Flashが唯一の例外です。振り返ってみれば、昔はOperaにもプラグインがたくさんありましたが、ほとんどすべて消えました。そして今、HTML5が出てきて、2次元ベクトルグラフィックのcanvasや、映像を扱うvideoタグなどが利用可能です。ほかの技術を使う理由がありません。

――HTML5のvideoタグはコーデックについては規程がありませんよね。ライセンスフリーの動画用コーデック「Theora」を採用するという話もありましたが、見送られました。互換性が心配です。W3Cの加盟企業の中にはコーデックを自社開発しているところもあるので、話が複雑です。

冨田 そこはまだ結論が出ていませんが、いずれにしてもオープンスタンダードで成り立つWebの世界が、RIA開発プラットフォームになれるのかが問われていて、そこが主戦場になるのかなと思っています。SilverlightやAIRが主流のRIAプラットフォームになってしまうと、今まで10年かけて培ってきたものが阻害されてしまう危険があります。

 AIRやSilverlightのようなものがプラットフォームになると、それなしでアプリケーションやサービスが使えないという状況になってしまいます。テレビはどうする、ケータイはどうするとなったとき、プラグインがないから再生できませんということが起こり得ます。

 ブラウザベンダが協力して、オープンスタンダードによって互換性を保ちながらRIAプラットフォームを実現していく必要があります。互換性を保ちつつ開発者のみなさんが求めるようなRIAプラットフォームになれるかどうか、それはHTML5に向けてわれわれブラウザベンダがやっていかなければいけないことです。

HTML5は段階的な進化

――HTML5について、もう少し教えてください。進捗は?

テッツナー HTML5はWeb標準に対して優れた付加価値を提供する技術に仕上がりつつあります。

――もともとWHAT WG(Web Hypertext Application Technology Working Group)で開発していたわけですが、どうしてW3Cに規格策定の場を移したのですか?

テッツナー われわれOperaとアップル、Mozillaが、どこか隅っこのほうに集まって合意するだけではなく、HTML5という標準技術をすべての人々にサポートしてほしいと考えたからです。われわれがWHAT WGというグループを作ったのは、その当時W3Cが新しいWeb標準策定に向けて前進していなかったからです。だからわれわれはW3Cの外で開発、策定を行い、それをW3Cに持っていったのです。彼らはそれまでXHTMLの開発をやっていましたが、われわれの提案を受けてHTML5の開発を再開しました。

――HTML5の開発作業はXHTML2.0よりも活発?

テッツナー ええ。XHTMLはある意味では美しいんです。でも、XHTMLは何も新しくないし、誰も使っていません。人々はHTMLを使っていて、ネット上にあるのはHTML文書です。これは厳然とした事実です。もしHTMLがXHTMLのような形でスタートしていたら違っていたでしょうけど、古いものを新しいもので置き換えるというのは簡単じゃないのです。HTML5のように、段階的に進化させて、少しずつ変えていくほうが簡単です。

 例えばWeb Forms2がそうです。これは現在使われているWeb Formsと互換性があります。Web Forms2で書かれたコンテンツは、古い規格にしか対応しないWebブラウザでも、ちゃんと表示されます。これはWebデザイナにとってはありがたいことでしょう。

 もう数年前のことになりますが(編注:正確には2001年)、マイクロソフトですらXHTMLに対応できていなかったことを示す事例があります。彼らはあるときポータルサイトのMSNからOperaユーザーを閉め出しました。そのとき、わざわざXHTMLの名称を出してWeb標準に対応していないからだとOperaを非難しました。われわれはXHTMLで書かれたプレスリリースも出したのですが、当時IEはXHTMLをサポートしていなかったし、そもそもMSNのサイトではXHTMLで書かれたドキュメントなどほとんどなかったのです。XHTMLをサポートする、対応するというのは簡単なことではないのです。

競争がないと製品は進化しない

――オープンスタンダード準拠がWebの世界で進むのなら、PC向けのレンダリングエンジンはオープンソースの実装が1つあれば済みませんか?

テッツナー いいえ、複数必要です。一般論として、競争により製品は進化します。もし1つしかなければ待っているのは停滞です。オフィス製品の状況を見れば分かります。IEだけでは全然何も起こりませんでした。われわれは、より良い製品を出すために争っていて、これがイノベーションや進歩につながるのです。

 過去10年間、有力なWebレンダリングエンジンは1つも新しく登場していませんが、少なくとも今は4つ存在しています。われわれOpera、Mozilla、WebKit、IEそれにACCESSも含めても良いでしょう。有力なエンジンが複数あって、選択肢があることが大事なのです。

 コントロールの問題もあります。WebKitの開発のすべてはアップルが行っていて、彼らのコントロール下にあります。WebKitはアップルのプロジェクトなのです。IEはもちろんマイクロソフトのもので、彼らはIEをすべてのプラットフォームに対して提供することはないでしょう。だからやはり複数あったほうがいいのです。

 競争があるとき、そこには必ず勝者がいます。それはエンドユーザーです。現在Webブラウザはどんどんよくなっています。開発者も、より良いプラットフォームでアプリケーションを走らせられます。

 標準的なWeb技術を使って作れないコンテンツやアプリケーションなど、もはやほとんどないのです。ローカルPCで使っているアプリケーションの数はいくつですか? ほとんどの人は5つ以下です。ほかはWeb技術に置き換えられているのです。

――ChromeにはDNSプリフェッチやマルチプロセスモデル、あるいは賢いスピードダイヤル機能など新しいアイデアがたくさんあります。こうしたものをOperaで取り入れる予定はありますか?

テッツナー われわれは、いろいろなブラウザの技術を見ていますが、何がいいかは必ずしも分かりませんよね。マルチプロセスは、メモリをたくさん消費しますから、よい面ばかりではありません。

 選択肢があるのはいいことです。例えば、Operaの平均的ユーザーは起動時に20個のタブを開くというデータがあります。最後に終了したときのタブが開くのです。こうした使い方に慣れた私にしてみれば、仕事に取りかかるときにゼロから再び必要なタブを開くというのは、朝起きて、昨日や一昨日とまったく同じ1日を繰り返し繰り返し生きなければならない悪夢を描いた映画のようなものです。

 確かに違うやり方が好きな人もいるでしょう。私は選択肢があることが重要だと思っていますから、それはそれでいいのです。マウス操作が好きな人もいれば、キーボードが好きな人もいます。ですから、Operaではマウスジェスチャーもできますし、キーボードショートカットも用意しています。そうした機能を使って、自分が最も効率よく仕事ができるようにすればいいのです。

 空白のタブを表示する代わりに、よく訪れるWebサイトを9つサムネイルで登録しておくという「Opera Speed Dial」のような機能は、もともとわれわれが最初に実装した機能ですが、Chromeではこれをユーザーに登録させるのではなく、サイト訪問の頻度によって自動的に登録し、並べ替えるようにしています。

 われわれの考えでは、いつも同じ場所に同じアイコンがあるほうが、ユーザーの行動に合っていると思います。脳がパターンを認知する仕方からしても予測可能性があるほうが使いやすいはずだからです。ただ、グーグルは違うやり方を選んだというだけで、2つの異なる考え、シナリオがあるということです。

 いずれにしても、われわれは他人のやり方をコピーするより、新しい技術革新を起こすことのほうが好きですね。

OSSかどうかよりも、オープンスタンダードが重要

――Operaをオープンソースにするという選択肢は?

テッツナー (即答で)ノー! (ソースコードを公開した)Netscapeは消え去りました。KHTMLチームはアップルのWebKitチームに乗っ取られました。KDEチームはWebKitに対してコントロール権を持っていません。

 理論的には、Operaをオープンソースとして公開することで、これら2つのことがわれわれにも起こり得ます。すなわち、コードを誰かが持っていき、われわれがコントロールできない別プロジェクトとしてしまうことです。

 WebKitもMozillaもオープンソースプロジェクトですが、実のところ、第三者は修正の提案はできても、コードの追加は誰にでもできるというわけではありません。

 われわれはLinuxを含む多くのオープンソースのソフトウェアを使っていて、非常にオープンソース的な会社です。Web自体が世界最大のオープンソースプロジェクトとも言えますよね。しかし一方で、われわれは継続可能なビジネスモデルを維持していかなければならないのです。

 私自身、Opera以前は「fm2html」というFrameMaker文書をHTMLに変換するソフトウェアの開発をオープンソースプロジェクトとしてやっていたので分かるのですが、ほとんどのオープンソースプロジェクトでは、それを抱える企業に雇われた人々が開発するものであって、外部からの貢献というのはきわめて限定的です。オープンソースにすれば外部の協力者を多く得られる、というのは理論でしかありません。われわれがOperaをオープンソースにしたからといって、外部の協力を現在以上に多く得られるとは思いません。それが現実です。

 オープンソースかどうかより、われわれが本当に重要だと考えているのはオープンスタンダードです。オープンスタンダードによって、それを採用する複数の製品、複数の選択肢が出てくるのです。オープンソースかどうかは関係ありません。たとえオープンソースでも、実装が1つしかなければ進歩は止まるでしょう。

 オープンスタンダードや互換性といったものが失われれば、Webの世界もオフィス製品のような世界になってしまうでしょう。私はOpenOffice.orgを使っていますが、これは頭痛の種です。人々はマイクロソフトのオフィス文書を送ってくるのですが、必ずしも開けるわけではありません。

――あなたはCEOなのですから、OpenOfficeの全社採用を決断すればいいのでは?

テッツナー 顧客にまで採用させることはできません。われわれは外部の顧客ともやり取りしていて、オフィス文書を読み書きしています。契約書などの法律文書では、赤線を引いたり、誰がどこを直したかということが100%、確実に再現されないと困ります。OpenOfficeでも、できる限りのことはやりましたが、やっぱり無理でした。Opera社内にも、実際には使いたくないのにMicrosoft Officeを使わざるを得なくなる人々がいて、そういう現実を私は理解しています。これはフォーマットのコントロールの問題です。

 ですから、誰もが採用できる標準的な技術、オープンスタンダードが極めて重要なのです。Webの世界でも、オープンスタンダードによる進歩を今後も維持していかなければならないのです。

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(@IT 西村賢)

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