厳しい経済環境下でも提案できることは多い、IBM日本IBM新社長が2009年の経営方針を説明

» 2009年02月19日 00時00分 公開
[西村賢,@IT]

 日本IBM代表取締役社長の橋本孝之氏は2月19日、東京本社で会見を開き、2008年の総括と2009年の経営方針を説明した。橋本社長は1月1日付けで専務執行役員から社長に昇格したばかり。2008年12月30日に前任の大歳卓麻社長兼会長から引き継いだ。

 橋本社長は日本IBMにとっての2008年を「(社会や顧客企業に)貢献していく基礎固めができた年」と位置付ける。企業が排出する産業廃棄物を一元管理する「廃棄物・資源循環管理システム」の開発・運用や、世界最大規模でSAP ERPを全面導入した日本航空の新整備業務システム「JAL Mighty」の本格稼働開始、三菱自動車との戦略的アウトソーシング契約の延長など、成功裏に終了した大規模プロジェクトに言及。こうしたプロジェクトを完遂する過程で、IBMのグローバルな協業体制が確立できつつあると強調する。全世界で39万2000人いるIBMの従業員のうち、米国に次いで比率が高いのがインドで約7万3000人いるという。「2008年は中国に続いてインドが本格的にスタートした年」(橋本社長)。インドIBMを、業務アプリケーションの運用・保守を行う開発拠点として活用できる体制を整えた。「世界がフラット化して自由貿易が盛んになってきた。それ以上に、若い優秀な労働人口がいろいろなところで使えるようになり、国を超えてそういう人たちが共存していく時代に入った」(橋本社長)。

日本IBM 代表取締役社長 橋本孝之氏

 橋本社長は2009年の経営方針として“自由闊達な企業文化の醸成”を挙げる。「では今の日本IBMが自由闊達じゃないのかというと、そんなことはないが、もっと元気にしたい」。企業文化醸成はリーダーシップからとの判断から、トップと現場の距離を近める施策を行っているという。イントラネットに経営層のプロフィールなどを掲載し、現場との双方向コミュニケーションを促しているという。橋本社長自らも今期中に最低7回の双方向コミュニケーションの場を設ける考えだ。“顧客第一”を実践したと周囲が認めた社員に対して、即座に記念品を出す仕組みも整えた。

 組織運営も顧客第一主義を徹底する。通常のミーティングは水曜日に集中させ、それ以外はなるべく顧客とのコミュニケーションなどに割く。就任後2カ月に満たないが、「すでに沖縄から始まって全国を回った。パートナーも含めると、60%ぐらいの時間を顧客に割いている」(橋本社長)

 経済環境の悪化によりIT投資の冷え込みが予想されるが、むしろ橋本社長は今後数カ月で「顧客の課題が明確になってくる」と読む。設備更新型の投資は冷え込むが、企業価値向上にITを積極活用する戦略的投資は増える。「こうした環境でも顧客に提案できることがたくさんあるのはIBMの強み。戦略的投資が増えるのに時間はかかるが、方向感は出てきていて、将来については確信している」(橋本社長)。“方向感”として橋本社長が考える今後の提案領域は6つある。「戦略的な利益向上」「バックオフィスやコールセンターの統廃合」「サーバ統合などによるITコスト削減」「新興市場へのシフトへ向けた海外拠点の配置の最適化」「グローバルキャッシュフローの一元管理」「M&Aによる事業シナジーの素早い創出」だ。実際、これらの提案に対する引き合いはすでに強いという。

“スマーター・プラネット”(賢い地球)で価値創造

 IBMは昨年から“スマーター・プラネット”(賢い地球)というスローガンを掲げている。交通、流通、医療、送配電網、サプライチェーン、国家や都市の運営管理など、多くの局面で物理的インフラをデジタル・インフラと一体化していくことで、より高い効率を実現するというビジョンだ。「すべてのモノをデジタル化し、それらを相互接続し、データを大量処理をして、ある洞察を導いて新しいビジネスを創造していく」(橋本社長)。

 「まだ緒に就いたばかりで事例を積み上げていく必要がある」としながらも橋本社長は、いくつかの実例で説明した。1つはスマートな交通システム。ストックホルム、ロンドン、シンガポールで実際にIBMが支援して運用している交通システムでは、都市部へ流入する交通量をコントロールして渋滞を緩和するために、課金システムを構築しているという。日本では高速道でETCがあるが、これと同等のものを一般道でも実施。ラッシュの時間帯に課金する。ICチップを搭載しない車両については、ナンバープレートをカメラで読み取って後日請求するシステムだという。「日本では渋滞によって1人30時間、全体で38億時間が失われている。これは12兆円、GDPの2%程度と推定されている」(橋本社長)。人手を介さずに課金システムをネットワーク化することで柔軟な課金体系を作ることができ、渋滞緩和と料金の負担感のバランスを取りやすくできる。

 同じスマートな交通システムという文脈では、2008年6月に同社は京都大学と共同で、数百万台規模でクルマの動きを1台1台ミクロにシミュレートする大規模マルチエージェント交通シミュレーションシステムを開発したと発表している。ドライバーの年齢によって運転特性をシミュレーションに組み入れるなど、精度の高い都市計画に活用できるという。

 ITで改善すべき社会インフラの例として電気料金の計算がある。日本ではデジタル化が遅れていて今でも検針員が視認でメーターを読んでハンディターミナルに入力している。すでに欧米ではネットワーク化されていて、「15分刻みでメーターを読んでいる。需給バランスを取りやすく、料金体系も非常にフレキシブルにできる」。

 日本IBMでは、3月に大和事業所に開設する「ジャパン・ビジネス・ソリューション・センター」を通して、グローバル経営管理に向けた提案や、各種要素技術の紹介を行っていくという。

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