Qtソフトウェアの担当者に聞く

ノキアがQtを買収してLGPLにした狙いとは?

2009/03/17

 「ノキアを取り巻く競合の状況が変わってきました。以前はモバイル端末の製造業者が競合でしたが、最近ではPCやWeb、デジタル家電とケータイが競合してきています」。「Qt」(キュート)の位置付けを説明するに当たって、Qtソフトウェアの佐相宏尚氏は、背景をこう語る。

qt01.jpg ノキア Qtソフトウェア ビジネスデベロップメントマネージャ佐相宏尚氏

 QtはWindows、Mac OS X、Linuxに加えてモバイル向けでも対応プラットフォームを増やしつつあるクロスプラットフォームの開発・実行環境だ。もともとUNIX向けのGUIツールキットとして利用されてきたQtは、OperaのLinux版やSkype、Google Earth、Photoshop Elementsなどで利用されていたことなどから、PC向けとして知られていたが、近年は3つの方向で進化していた。1つはWindows Embedded CEやSymbian S60といったモバイルプラットフォームへの対応、もう1つはWebKitとの統合によるインターネットとの親和性向上だ。3つ目はオーディオやビデオといった各OSのマルチメディアライブラリを抽象化するAPIの提供だ。

 2008年1月、Qtを開発・販売していたノルウェーのTrolltech(トロールテック)社をノキアが1億400万ユーロ(約167億円)で買収すると発表。同年6月には公開買い付けを完了している。買収発表から約1年が経過した2009年1月には、それまでの「商用ライセンス+GPL」のデュアルライセンスにLGPLを加えることを発表し、同社がQtを戦略的に位置付けていることを印象付けた。

 ノキアにとってQtを提供する意味とは何か。日本でQt関連製品を担当する、ノキア Qtソフトウェア 営業統括責任者の池田清秀氏と、ビジネスデベロップメントマネージャ佐相宏尚氏、フィールドサービスエンジニアの朝木卓見氏に話を聞いた。

ライセンスの対価より、エコシステムの拡大を

――現在のQt利用者の数を教えてください。

池田 アクティブな開発者は公称で35万人です。これを2、3年のうちに10倍に増やしたいと考えています。ノキアというケータイ会社が買収したので、ケータイだけに使うと思ってらっしゃる方もいますが、それ以外のあらゆる製品に使っていただきたい。新しいライセンス方式としてLGPLを追加したことで、普及を促進できるのではないかと期待しています。LGPLでも、これまでと同様の有償サポートをご利用いただけます。

――ソースコードの開示義務が発生するGPLではなく、組み込みなどの商用でも使えるLGPLを追加すると、商用ライセンスではなく、LGPLを選択するユーザーも増えそうです。OSSで一般的なライセンスビジネスよりもサポートビジネスへ軸足を移すということでしょうか。

池田 単体で売り上げを立てる必要があるTrolltech時代に比べると、今はノキアの一事業部なので事情が違います。ノキアはQtの1ユーザーです。1ユーザーとして、Qtがより良くなるのは開発コスト削減という意味でメリットです。ライセンスの対価よりも意味があります。そしてこれはノキアだけではなく、Qtを利用して開発する外部のお客様にもメリットとなります。

佐相 ノキアを取り巻く競合の状況が変わってきています。以前はモバイル端末の製造業者が競合でしたが、最近ではPCやWeb、デジタル家電とケータイが競合してきています。そこで、QtをUIやアプリの標準と位置付けて、業界で広く使ってもらうため、「Qt Everywhere」の標語を掲げています。われわれノキアが使っていくだけでなく、より広く使ってもらえれば、クロスインダストリでエコシステムが大きくなっていくのではないかと思いますし、フィードバックやコントリビューションを受けながら、より速く洗練させていくことができます。

池田 エコシステムを大きくするという話に関連するのですが、コミュニティとの連携強化を目的としたサイトを4月に開設予定です。

――2008年11月には日本市場から事実上の撤退というニュースが流れましたが。

池田 携帯電話端末だけでなく、組み込み市場へもQtの利用を広げたいと考えています。大手のコンシューマエレクトロニクス製品など、あらゆるところに表示デバイスがあって、今はチャンスだと考えています。日本には多くの家電、デバイスメーカーがありますから重要な市場です。日本だとパナソニックのSkypeフォンや、ソニーのインターネット端末「mylo」などでQtの採用例がありますし、ヨーロッパではVolvoの路線バスの運行表示システムで採用例があります。

――例えばカーナビのような商品は?

池田 残念ながら自動車メーカー内部での採用例はあっても、カーナビのようなコンシューマ製品での利用例はありません。これは今後のターゲットとしていく領域です。

――日本での売り上げ規模、比率は?

池田 公開していませんが、ノキア買収前のTrolltech時代には、グローバルで50億円程度の売上があって、そのうち2、3割がアジアでした。

統合開発環境「Qt Creator」を新たに提供

――Qt 4.4ではWebKit統合が大きな変更でした(参考記事:WebKitと統合したQtをデモ、Trolltech)。2009年3月3日にリリースしたQt 4.5ではLGPLライセンスの追加のほかに変更点は?

朝木 まず、描画周りの性能がアップしています。プラットフォーム対応では、Windows CEへの対応や、Mac OS X向けでCocoaに対応したこともQt 4.5の新しい機能です。また、新たに統合開発環境の「Qt Creator」が含まれるようになりました。Qt CreatorはMac OS X、Linux、Windowsで動きます。

――統合開発環境といえば、EclipseやVisual Studioと競合しないのですか?

朝木 いいえ、Qt Creatorは小さくて軽いのでエディタ感覚で使える開発環境です。それに、Qt独自のC++のマクロ書式やスロットキーワードなどの補完機能では、ほかのIDEに対するプラグイン形式ではサポートが弱くなってしまいます。もともと持っていた画面設計のための「Designer」とヘルプ機能の「Assistant」が統合されているのも利点です。

qt02.png Qt Creatorの画面例(クリックで拡大)
qt03.png 補完機能はQt独自のキーワードやマクロにも対応するという

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(@IT 西村賢)

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