GPUアーキテクチャ見限りか、買収前提の動きか?

Larrabee計画中止で盛り上がる「インテルがNVIDIA買収」説

2009/12/11

 インテルが第1世代の「Larrabee」GPUを断念したことで、同社がGPUでの戦いに戻るためにライバルのNVIDIAを買収するのかどうかをめぐる議論が起きている。

 インテル関係者は12月4日に、開発の問題から、同社初のGPGPU(汎用GPU)計画を中止すると発表した。このプロセッサは2007年に初めて明らかにされ、数度延期されたものの、2010年初めに登場する予定だった。

 Larrabeeは9月のIntel Developer Forum(IDF)でデモが行われ、11月のSupercomputer 2009でも披露された。この製品はAMDやNVIDIAの製品に対抗するものとなるはずだった。

 ブロガーのロバート・クリングリー氏は12月8日のエントリで、インテルはLarrabeeを中止したことで、NVIDIAを買収するほかなくなったと述べている。AMDが計画しているCPU-GPU「Fusion」に独自製品で対抗できないため、インテルはグラフィックスチップ分野に進出し、HPC(高性能コンピューティング)分野で勢力を拡大する手段として、NVIDIAに目を向けるだろうと同氏は指摘している。

 「今まさに、インテルとNVIDIAがファンキーなダンスを踊っている。両社が何を言おうと、最終的にNVIDIAはインテルに買収されると断言したい。両社ともそのことを分かっており、決まっていないのは金額だけだ。この駆け引きはすべて金額をめぐってのものだ」(同氏)

 インテルは、AMDが2006年にGPUメーカーのATIを54億ドルで買収した直後にLarrabeeへの取り組みを始めたと同氏は説明している。Larrabeeを断念したことで、インテルは難しい開発プロジェクトから脱するだけでなく、NVIDIA買収への障壁も取り除くことになる。インテルがGPU事業を抱えたままNVIDIAを買収したら、規制当局の独禁法違反の懸念は拡大するだろう。

 「Larrabeeを抱えたままなら、インテルは主要なライバルをつぶそうとしていると思われるだろう。Larrabeeがなければ、単に新市場への参入を図っているだけということになる」(クリングリー氏)

 インテルはまた、NVIDIAのモバイルプロセッサ「Tegra AXP」にも関心を引かれているという。クリングリー氏によれば、Tegraはインテルの「ポストAtomの省電力プロセッサMoorestown」より優れているという。

 「インテルは、AMDがATIを買収したときに何かしなければならなかった」と同氏。「Larrabeeを断念した今、インテルが競争を続けるために取れる現実的な選択肢は、ほかの企業の買収しかない。その目的にかなう企業はNVIDIAだけだ」

 すべての人がこの説を支持しているわけではない。Jon Peddie Researchのジョン・ペディー氏は9日のブログエントリで、インテルがNVIDIAを買収するという見方は「世間知らずな憶測」だとし、インテルはNVIDIAが必要だとは感じていないと主張している。

 「インテルはImagination Technologies、そして自社の研究部門から、必要なグラフィックス関連の知的財産をすべて得ている。インテルはGPUを開発できないのではなく、今現在のGPUアーキテクチャに長期的な持続性がないと考えている。同社は、今のアーキテクチャは拡張できないと思っている。MIMD(Multiple Instruction stream, Multiple Data stream)ができないのは確かだ。インテルにとってはデッドエンドだ。投資する理由があるだろうか? もう一度言わねばならないが、これは両社の基本的な哲学における決定的な違いだからだ。ここ1週間で起きたことは、ハードの設計とはまったく関係がない。確かにGPUの設計は難しい。CPUもそうだ。数十億のトランジスタもだ。インテルは単に、従来のSIMD(Single Instruction, Multiple Data)GPUアーキテクチャに将来性があると思っていないだけだ。正しいかどうかはともかく、同社は分析の結果その結論に至った。どんなに騒いでも、インテルはこの件については心変わりしないだろう」(ペディー氏)

 Larrabeeは死んでしまうわけではないと同氏は語る。インテルはx86アーキテクチャベースのGPU技術開発への投資を続ける。このような見解は、インテルの発表後、ほかのアナリストも示している。同氏は、いずれはLarrabeeプロセッサファミリーが登場すると予測している。

 インテルとNVIDIAの対立の歴史からも、両社の合併は想像しがたい。

 「インテルとNVIDIAの文化の違い、とげとげしい関係、紛争は非常に深まっているため、流血沙汰なしで両社を統合するのは不可能だろう」とペディー氏は述べている。「インテルにどれだけの資金力があろうと、両社が金額で合意することはあり得そうにない。NVIDIA(の取締役)とその株主はインテルによる友好的買収を絶対に認めないだろう。そしてNVIDIAには、どんな敵対的買収でも1年以上遅らせる複数回投票のテクニックがある」

 同氏はまた、インテルのNVIDIA買収をめぐる憶測を厳しく批判している。

 「コンピュータ業界をチェス盤のように見て、『白がビショップを取れば黒がクイーンを取る』と言うのは世間知らずというものだ。業界はそんなふうには動かないし、これまでそうなったこともない」と同氏。「PC業界はスポーツではない。業界を予想するなら、その機構部分、関係者の経歴、業界内の技術をもっと理解する必要がある」

原文へのリンク

(eWEEK Jeffrey Burt)

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