2万人の企業がOfficeの互換性検証にかかるコストは3億円MSがOffice導入時の課題を払しょくするための取り組み発表

» 2010年03月29日 00時00分 公開
[大津心,@IT]

 マイクロソフトは3月29日、報道関係者向けの説明会を実施。2010年5月に米国でローンチ予定のOffice製品最新版「Microsoft Office 2010シリーズ」に向けて、同シリーズへの入れ替えサポートなど、各種導入支援策として「企業向けOffice 2010導入支援策」と「Business Contact Manager」(BCM)の説明を行った。

Office 2010シリーズへのバージョンアップには3つの課題がある

 マイクロソフトは「Office 2010シリーズ」の新機能や生産性向上の効果は大きく、各種入れ替えコストを勘案しても十分に価値があるとしている。一方で、バージョンアップに関しては3つの課題があるとした。1点目は「互換性の検証」で、マクロの動作検証やレイアウトの確認などが当てはまる。この点を懸念するユーザーは60.3%に上る。2点目は、利用者の操作トレーニングやマニュアルの修正といった「トレーニング」で、52.4%のユーザーがこの点を懸念点として挙げた。3点目は、インストール作業やメンテナンスといった「導入・展開」で31.7%に上る。

松田氏写真 マイクロソフト インフォメーションワーカービジネス本部 Office製品マーケティンググループ シニアプロダクトマネージャー 松田誠氏

 マイクロソフト インフォメーションワーカービジネス本部 Office製品マーケティンググループ シニアプロダクトマネージャー 松田誠氏は、「Office 2010シリーズの導入支援には、これら3点の課題克服へのサポートが必須。バージョンアップに対するコストと工数をいかに低減するかを考え、取り組んだ。0ffice 2007のリリース時には、1万5000人の社員がいるある製造業者の場合、互換性検証コストに2億円。2万人の社員がいる金融機関の場合3億円のコストがかかったという。このコストを低減するのは非常に重要な要素だ」とコメントし、課題克服への意気込みを示した。

 まず、互換性検証コストの削減に対しては、「製品レベルで互換性検証コストを軽減」「互換性に関するマテリアルの提供」「パートナーによる互換性検証サービス」の3点を提供するために『Office導入支援センター』を設立した。Office導入支援センターは、マイクロソフトだけではなく、パートナー企業の「大塚商会」「CSK Win テクノロジ」「日本システムディベロップメント」の4社が共同で運営。パートナー企業がサポートしているエンドユーザーの実環境や実データを基に互換性検証と導入支援を実施して、ノウハウを集約し、各種コンテンツやドキュメントとして公開することを目的とする。

 「従来はマイクロソフト1社でこの作業を行っていたが、やはりベンダ側の視点中心だったため、不足があった。例えば、“Excelで文書作成”はマイクロソフトでは想定できない利用方法だが、一般によく行われている。この点、普段からエンドユーザーと接しているパートナー企業と共同で取り組むことで、このようなエンドユーザーの声を多く取り入れることができるようになった」(松田氏)と説明した。

 製品レベルでの互換性検証は、互換性に関する問題をマイクロソフトが製品レベルで修正する取り組み。互換性問題は大きく分けて「不具合」によるものと、「製品アーキテクチャ」に依存するものの2種類に分けられる。このうち、不具合によるものを可能な限り修正し、アーキテクチャに関しても必要であれば変更するというもの。

 「マクロの互換性に関しては、例えばOffice 2003向けの『セルを数えるマクロ』をOffice 2010で使うとエラーがでる。これは、サポートするシートの最大値が広がったためだ。このような互換性の問題に製品レベルで取り組んだ結果、2003→2007の移行時と比べ、マクロの互換性では約60%、レイアウトの互換性では約22%の問題を削減できた。特にレイアウトの互換性に関しては重要な互換性問題を14個にまで絞れたので、それぞれに対して詳細な対策方法を紹介して対応する」(同氏)とコメントした。

 そのほか、互換性に関するホワイトペーパーを複数作成し、導入全般について技術情報を集約した「Office 2010 導入支援サイト(仮称)」を設立する。また、パートナーが互換性問題に対応するために作成した独自の検証ツールを提供していく。

App-Vへ最適化したことで、アプリケーション配布工数を削減

 トレーニングの問題では、まずリボンUIを改善したという。Office 2007で採用されたリボンUIだがさらに生産性を上げるべく、「リボンのカスタマイズ」や「『ファイル』タブ」などを改良した。Office 2007では、リボンのカスタマイズができなかったため、一部のコアユーザーから改善要望があったことから、カスタマイズ機能を設けた。また、左上のOfficeボタンが分かりにくいという声が多かったため、以前の「ファイル」のタブへ戻したという。

 そのほか、トレーニング用コンテンツとして、アプリケーションごとにA4サイズ1ページで最低限知っておくべき内容を収録する「Office 2010 クイックガイド」、必要な操作方法やノウハウを紹介する「Office 2010 トレーニングビデオ」や「Office 2010 Tips集」を無償で提供する。松田氏は、「トレーニングキットはDVDに各種コンテンツを収録している。Office 2007の時にはリリース後1年半経過してから配布を開始したにもかかわらず、2万枚配布した。また、再配布自由なので、PCにプレインストールして配布している自治体もある。今回は前回の反省も踏まえて、リリース直後の2010年6月から配布開始したい」とした。

 導入・展開のサポートでは、アプリケーション仮想化技術「Microsoft Application Virtualization」(以下、App-V)に最適化し、仮想化によるソフトウェア配布を強化したという。App-Vは、各種アプリケーションをサーバからクライアントPCへストリーミング配信することで、クライアントへのインストール作業などをなくす仮想化技術。クライアントPCにキャッシュすることも可能なので、オフラインでも利用できる点がシンクライアントと異なる。

 「やはり、Office導入時の課題として『インストールに時間がかかる』という点が挙げられている。また、ユーザーにインストールに必要な管理者権限を付与することに、セキュリティの問題から抵抗を示す企業も増えた。これらの問題を解決する方法としてアプリケーション仮想化は非常に有効だ。サービスパックなどのアップデートも非常にスムーズに行える」(松田氏)と語り、メリットが多い点を強調した。

社員20名以下向けのCRM「Business Contact Manager」提供開始

 「Business Contact Manager」(BCM)は、Outlookのアドインとして提供されるCRM(顧客管理)ツール。多くのCRMソリューションは大企業向けで多額の投資が必要だが、BCMは社員20名程度までの企業や部署に特化したCRMツール。

画面イメージ 「Business Contact Manager」の画面イメージ。さまざまな指標をダッシュボードとして閲覧することもできる

 中小企業が使い慣れているOutlook内ですべての操作が完了するため、あらためてトレーニングを行う必要がなく利用できる点が大きいという。英語版はOffice 2003の時より提供されていたが、今回初めて日本語版の提供となった。ただし、「Office Standard 2010」と「Office Professional Plus 2010」のボリュームライセンスのみでの提供となる。

 具体的には、メールや電話などの顧客とのやり取り履歴などを共有できる「顧客情報の管理・共有」、確度をランク付けして潜在顧客を着実にトラックできる「営業活動の分析・共有」、テレマーケティングやDMなどをタブで一元管理できる「マーケティング活動の最適化」、メールやドキュメントなどを特定のプロジェクトに関連付けることでプロジェクト管理ができる「イベントなどのスケジュール管理」などを用意した。

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