IT予算、2010年度で下げ止まりかJUAS、「企業IT動向調査2010」を発表

» 2010年04月09日 00時00分 公開
[内野宏信,@IT]

 日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)は4月9日、「企業IT動向調査2010」を発表した。一部上場企業を中心とする1026社のIT部門長、953社の経営企画部門、および追加調査として255社のIT部門長を対象に調査を行ったところ、IT予算の増加割合から減少割合を引いた「DI値」が1994年の調査開始以来、初のマイナスを記録、各社とも極めて厳しい経済状況にあることが分かった。また、サーバ仮想化に取り組む企業が全体の65%を記録する中、導入企業の8割が「コスト削減が目的」と回答するなど、コスト意識が高まっている姿が浮き彫りになった。

毎年増加してきたIT予算が09年度を境に減少へ

 調査は2009年11月24日〜12月11日、東証一部上場企業を中心とした4000社のIT部門長、経営企画部門にアンケート票を送付し、1026社のIT部門長、953社の経営企画部門から有効回答を得た。また、2010年3月5日〜11日に「2010年度のIT予算」について、866社のIT部門長に対し追加アンケート調査を行い、255社から回答を得た。

 この結果、2010年度のIT予算は、増加割合から減少割合を引いた「DI値」が、2009年度の「0」から「−4」に下落。毎年増加の一途をたどってきたIT予算は2009年度を境に、減少に転じたことが分かった。

写真 「DI値」が、2009年度の「0」から「−4」に下落。毎年増加の一途をたどってきたIT予算は2009年度を境に減少

 ただ、IT予算の「年度計画比」でみると、2009年度計画は、2008年度計画比で「減少」と答えた企業が47%、「増加」が33%、DI値は「−14」だったのに対して、2010年度は、2009年度計画比で「減少」が35%、「増加」が31%、DI値は「−4」と、“下げ止まりの兆候”が見て取れた。特に従業員1000人以上の大企業では、2009年度はDI値が「−18」だったのに対し、2010年度は「−4」まで持ち直しており、回復の兆しが顕著に表れた。

仮想化は順調に浸透。SaaS、クラウドはまだまだこれからか

 新規テクノロジの導入状況としては、サーバ仮想化が31%、ストレージ仮想化が13%、クライアント仮想化が10%を記録。導入を「検討中」と答えた企業も、それぞれ34%、34%、26%と、仮想化技術が着実に浸透しつつあることが分かった。

 ただ、その導入目的は、サーバ、ストレージの場合とも、「コスト削減」と答えた企業が80%にも及び、厳しい経済情勢を反映した結果となった。ハードウェアの数が多い大企業ほどサーバ仮想化に積極的な傾向もみられ、年間売上高1兆円以上の企業では実に73%が「導入済み」、24%が「検討中」と答えている。

 「SaaSまたはパブリッククラウドに対する見解」としては、IT部門長の回答では、全体の10%が「利用している」、30%が「検討中(利用時期未定)」と答えたが、52%は「利用予定なし」と回答。経営企画部門からの回答でも「利用している」は9%、「利用予定なし」が59%と消極的な姿勢が見受けられた。

写真 SaaS、パブリッククラウドに対してはまだ様子見の段階

 ただ、「SaaSまたはパブリッククラウドの魅力」として、「ハードウェア、ソフトウェアの購入・導入・保守が不要」「安価にサービスを利用できる」といったコストメリットを挙げる声が多く、IT資産調達、保守運用コストの低減に対する期待がうかがえた。半面、「SaaSまたはパブリッククラウドへの懸念事項」として、「セキュリティ対策が十分かどうか分からない」「本当にコストダウンするか分からない」など、自社で運用管理する場合と比べて“見えない不安”を挙げる声が多く、事業継続の観点から「災害発生時やクラウド事業者が倒産した場合」を懸念する声もあったという。

写真 SaaS、パブリッククラウドの懸念事項

 また、そうした中でも、実際に「SaaSまたはパブリッククラウドを利用した」企業の中では、セキュリティ、コストダウンできるか否かといった不安に加え、自社の既存システムとの「データ連携」に不安を感じている向きが多いことも分かった。

 「プライベートクラウドへの取り組み」については、全体では「導入済み」が5%、「検討中」が16%で、79%が「未検討」となったが、年間売上高1兆円以上の大企業では18%が「導入済み」、49%が「検討中」と回答した。なお、JUASではこの数値に関しては、(プライベートクラウドの実践が、多くの企業にとってまだまだハードルが高い実態を考えれば、)「プライベートクラウドという言葉の定義があいまいに解釈されている可能性も加味して解釈すべきだろう」と解説を加えている。

“任せ切り”のスタンスで良いのか?

 「IT資産の保有形態」では、サーバ、ストレージ、ミドルウェアとも、現在は半数以上の企業が「購入」と答えているが、将来の希望としては、それぞれについて約2割の企業が「クラウド」への移行を挙げた。特に、売上高が大きな企業ほどクラウドへの関心が高く、1兆円以上の企業では「サーバの所有形態」について34%が「クラウド」、20%が「ホスティング」と答えるなど、“持たない”選択に向かいつつある全体傾向が読み取れた。

 一方で、「システム開発の業務委託」についても調べたところ、ベンダと「契約書を交わさない」企業は全体の7%、大企業でも3%あったほか、契約書を交わしていても「内容はベンダ任せでよく分からない」と答えた企業が13%存在したという。さらに、IT関連の法務担当がいない企業が4割に上るなど、“持たない”傾向が強まっている中で、こうした“任せ切り”の傾向は1つの懸念事項として注目される。

写真 JUASの専務理事 細川泰秀氏

 JUAS 専務理事の細川泰秀氏は、「コスト削減を目的に仮想化技術が急速に浸透しつつあることは、IT予算が減少傾向にあることにも反映されている。しかし、仮想化導入によって、コストは下がっても業務上のメリットは現れたのか、それは今回の数値だけでは把握できないが、その点にも注目する必要がある」と指摘。

 また、ビジネスのグローバル化に伴い、ITシステムの集約や一元管理、海外拠点に対するガバナンスの徹底なども課題となっているが、こちらもなかなか解決できていない例が多いことを挙げ、「結局、システムを作る以前の問題として、企業としてどう戦っていくのか、どうビジネスを展開していくのかというところに、まだ未熟な部分が残っているのではないか」とコメント。「システム以前に、自社の業務はどうあるべきで、どう遂行すべきなのか、あり方を研究し、整理することも大切だろう」と、経済環境の変化、技術の急速な進展を受けて、目先の対策に走りがちな中にあって、根本的な部分を見失わないことの重要性を示唆した。

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