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「連結先行」の議論を明確に

経産省委員会がIFRS適用の「連単分離」訴える

2010/04/21

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 大手企業のCFOらで構成する経済産業省の企業財務委員会 企業会計検討ワーキンググループ(座長:加賀谷哲之・一橋大学大学院准教授)は4月19日、日本のIFRS(国際財務報告基準、国際会計基準)適用について提言する中間報告書を公表した。金融庁を中心に行われてきたIFRSを巡る議論を補う内容といえるが、これまでの議論に疑問を投げかける指摘もある。

 中間報告の骨子は3つだ。

  1. 「連単分離」(議論を切り分け)。そのうえで「単体」について関係者が一体となった検討
  2. 開示制度全体の再設計
  3. 非上場企業のための会計

 2番目の開示制度全体の再設計は、2012年に金融庁が行う予定のIFRS強制適用の判断について、現行の四半期開示制度や内部統制報告制度、非財務情報、監査制度などの関係を整理することを提唱している。

 3番目の非上場企業のための会計では、確定決算主義の維持を訴え、会計の国際化とは距離を置いた「非上場企業の身の丈にあった会計基準策定に向けた検討が進められることを期待する」としている。非上場企業向けの会計基準については中小企業庁の研究会が議論を行っている。また、日本経済団体連合会や企業会計基準委員会(ASBJ)などで組織する「非上場会社の会計基準に関する懇談会」が2010年7月に基本的なフレームワークを公表する予定だ。

個別と連結の議論をいったん切り離す

 中間報告で興味深いのは1番目の「連単分離」だ。金融庁の企業会計審議会が2009年6月に公表した「我が国における国際会計基準の取扱いに関する意見書(中間報告)」では、「連結財務諸表と個別財務諸表の関係を少し緩め」て、連結財務諸表に先行してIFRSを適用する「連結先行」の考えを打ち出している。一方で、強制適用時の個別財務諸表へのIFRS適用については、「強制適用の是非を判断する際に、幅広い見地から検討を行う必要がある」として明確な姿勢を示していない。

 企業財務委員会の中間報告では、連結先行について「単体のコンバージェンスをどこまで進めるべきかについては、議論があいまい」と指摘。そのうえでIFRS適用は将来も上場企業の連結財務諸表にとどめて、「単体会計と連結会計の議論をいったん切り放して考えるという手続的な意味での『連単分離』方式を明確化し、採用することも合理的」と提言している。

 個別財務諸表に関する会計基準については、IFRSへのコンバージェンスを単純に行うのではなく、国内制度として会社法や税法との関係を整理する必要があるとの考え。中間報告では利害関係者による検討の場を設けることを求めている。

 連単分離を訴える理由は上記のように連結先行の考えが明確でないことに加えて、「連結は投資家への情報提供が最も重視されるが、単体については、他の国内制度との結びつきが強く、株主を含む幅広いステークホルダーとの関係において連結とは異なった役割が求められる側面がある」ことも挙げられている。上記の検討の場では「国内制度として日本の基軸となる重要な会計思想」ついて議論する必要があるとし、その会計思想を、個別財務諸表に関する会計基準に反映させるべきとしている。

 ここでいう「わが国にとって重要な会計思想」とは「財務体質の健全性を担保し、国際競争力・収益力の持続的強化を促すとともに、どの財務諸表利用者の有用性に偏ることなく、投資家、経営者、その他の幅広いステークホルダーにも企業価値や業績の評価指標として共有しやすい財務情報」。投資家を主な財務情報の利用者ととらえるIFRSと比較して、対象者の幅を広げているのが特徴だ。

包括利益表を巡っても連結先行が議論に

 金融庁が打ち出すIFRSの「連結先行」については、包括利益表示の基準化でも議論になった。包括利益表示は連結と個別の財務諸表に適用する予定だが、3月末の基準化を前に、連結先行のIFRSとの整合性を問題視する意見が企業会計基準委員会(ASBJ)で出た。結果的に3月末の包括利益表示の基準化は見送られ、連結先行について議論を深める場を設けることになっている。

(IFRSフォーラム 垣内郁栄)

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