顧客満足度向上とコスト削減を両立するコンタクトセンターユナイテッド航空とシティバンクの事例から

» 2010年04月23日 00時00分 公開
[伏見学,@IT]

コンタクトセンターを“レベニューセンター”へ

 先週、イリノイ州シカゴで開催されたCTI(コンピュータテレフォニーインテグレーション)ベンダー大手・米Genesysの年次カンファレンス「G-Force Chicago 2010」では、ユーザー企業によるコンタクトセンターでの先進的な取り組みが紹介された。

 世界中で1日に3300便以上のフライトを運行し、年間乗客数が8142万6000人(2009年)に達する航空会社大手の米United Airline(UA)も、Genesys製品を活用するユーザー企業の1社だ。顧客が必要なときにコンタクトセンターのエージェント(オペレーター)からコールバックを求めるシステム「Click to Talk」をはじめ、IVR(自動音声応答装置)ソフトウェア「GVP(Genesys Voice Platform)」、CTIシステムなどを全世界にある12拠点のコンタクトセンターで導入しており、センターに寄せられる問い合わせの90%以上をGenesysのシステムで処理している。

United Airlineでマネージングディレクターを務めるブレア・コッチ氏 United Airlineでマネージングディレクターを務めるブレア・コッチ氏

 UAが現在のようなコンタクトセンターシステムを構築するに至った背景にあるのは、かつての深刻な経営危機である。同社は2002年に経営破たんし、連邦倒産法第11章を申請して運航を継続していた経緯がある。現在は経営再建を果たしているが、その過程においては収益性向上とコスト削減が必須だった。従来は“コストセンター”としての色合いが強かったコンタクトセンターにもメスが入り、顧客満足度を高めることで売り上げ増を図る“レベニューセンター”へ生まれ変わることが求められた。UAでマネージングディレクターを務めるブレア・コッチ氏は「ITによってコストを削減する一方で増収増益を目指すべく、フロント部門の構造改革に着手した」と振り返る。

 コンタクトセンターの構造改革を実現するに当たり、実績あるテクノロジーを採用し新しいチャネルを活用することや、リアルタイムでビジネスを遂行し利益改善を図ることなどのケーパビリティ構築に向けた計画を策定した。また、これまでは業務ごとにサイロ化されたシステムを構築していたために、電話やEメール、Webチャットなどのチャネルをまたいだ問い合わせのサポートが難しかったり、顧客データが重複したりしていた。孤立したシステムを統合することでこうした課題の解決につながった。

 これから先のステップでは、SIP(Session Initiation Protocol)サーバとコンタクトセンターシステムの統合や顧客情報システムの一元化によって、より効率的なオペレーションを目指すほか、顧客からの問い合わせの増減などを事前に予測し、業務の負荷に応じた精度の高いリソース配置を実現するコンタクトセンターを構築していく。

シカゴ・オヘア国際空港近くにあるUnited Airlineのコンタクトセンター シカゴ・オヘア国際空港近くにあるUnited Airlineのコンタクトセンター

いつまでも顧客は待ってはくれない

 フロントサービスの改善にとどまらず、企業のバックエンドである情報システムと連携させることで、コンタクトセンター全体の業務を最適化した企業もある。中南米のコロンビアに拠点を構えるCitibank Colombiaは、Genesysが提供する「intelligent Workload Distribution(iWD)」を活用してコンタクトセンターを変革した。iWDは、ERP(統合業務パッケージ)、CRM(顧客情報管理)、BPM(ビジネスプロセス管理)など企業内の情報システムとコンタクトセンターのシステムを連動させるコンポーネントで、すべてのチャネルで処理しているタスクや対話の優先順位をリアルタイムに評価して社内リソースを適切に分配する。

 同社のシニアバイスプレジデントで顧客サービス担当のアドリアナ・カストロ氏は「音声通話やIVRのことだけを考えていてもコンタクトセンターは成長できない。すべての業務プロセスを管理する必要があった」とiWD導入の背景を語る。

Citibank Colombiaのシニアバイスプレジデント、アドリアナ・カストロ氏 Citibank Colombiaのシニアバイスプレジデント、アドリアナ・カストロ氏

 導入以前の状況はどうだったか。サイロ型のコンタクトセンターシステムを構築していたため、それぞれの連携が図れず、顧客への回答に必要な情報のありかが分からなかった。加えて、顧客からのさまざまな問い合わせに対して、エージェントの業務の負荷分散ができずにいたため、リアルタイムでの回答はおろか、何週間もかかってしまうケースもあった。

 「顧客は適切な回答がすぐに欲しいから連絡してきているし、いつまでも待ってはくれない。顧客中心の差別化されたサービスを提供することが急務だった」(カストロ氏)

 iWDの導入によって、顧客からのコールに対して常に優秀なエージェントを割り当てられるようになったほか、電話やEメールといったチャネルを問わず、ばらつきのない一貫性あるサービスを提供できるようになった。その結果、オペレーション効率は導入前と比べて5%増加したという。

 「iWDによって顧客とWin-Winの関係を作ることができた。すなわち、顧客は(エージェントの迅速な対応によって)満足度を高め、われわれはコスト削減とビジネスの効率化を実現できたのだ」(カストロ氏)

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