ITアウトソーシングは再考段階に ガートナーベンダをいかにマネジメントするか

» 2010年05月31日 00時00分 公開
[伏見学,@IT]

 IT調査会社のガートナー ジャパンは5月31日から2日間の日程で、企業のIT部門担当者などに向けた年次カンファレンス「ガートナー ソーシング サミット 2010」を開催している。初日の基調講演では、同カンファレンスの座長を務めるガートナー リサーチの足立祐子リサーチ ディレクターが登壇し、日本企業がソーシング戦略を推進するうえでの勘所を語った。ベンダに対するマネジメントを見直すとともに、日本と海外でそれぞれ特性に合ったIT業務を分担する「国際分業型ソーシング」や、さまざまな地域のIT業務をシームレスにつなぐ「ハイブリッド型ソーシング」を選択することが望まれるという。

ガートナー リサーチの足立祐子リサーチ ディレクター ガートナー リサーチの足立祐子リサーチ ディレクター

 企業の情報システムの保守や運用を外部ベンダに任せるITアウトソーシングは、2000年前後に活発となり、その後、コスト削減の観点で広く注目を集めた。ガートナー ジャパンが同日発表した調査によると、2009年の日本企業のオフショアリング金額は3590億円に達している。ただし、運用管理のアウトソーシングは大企業において一巡した状況であり、今後は「実施するかどうかではなく、現在のアウトソーシング業務をいかに効率化するかが争点だ」と足立氏は述べる。加えて、SaaS(サービスとしてのソフトウェア)の利用や、不特定多数の人に業務を委託するクラウドソーシングといった、新しいデリバリーモデルへの移行を検討すべきだという。

 「特にクラウドベースの業務プロセスサービスやIT基盤サービスは、4〜5年後に一般にも普及する見込みであり、企業は今それに向けて新しい技術の習得や導入体制を整える準備段階にある」(足立氏)

 こうした変革期において足立氏が重視するのは、ベンダとの契約更新における交渉である。ガートナーが今年発表した調査によると、運用管理アウトソーシング契約の満了時に既存ベンダと引き続き契約更新した日本企業は調査全体の4分の3以上であり、その中でほとんどの企業が契約内容を変更せず、SLA(サービスレベルに関する合意)や保守期間などを現状のままに放置してしまっている。「ベンダとの契約期間は通常7〜10年だが、(クラウドなどの)トレンドを見据えて期間を短くするといった柔軟さが必要である。契約更新時こそベンダに対するマネジメントを強化し、ビジネスを効率化するチャンスなのだ」と足立氏は強調する。

ほとんどの企業ではベンダとの契約を更新 ほとんどの企業ではベンダとの契約を更新

ソーシング形態の再考

 ユーザー企業が主導権を握りベンダをうまく管理していくとともに、グローバル化を前提にソーシング形態を再検討する時期に差し掛かっている。日本企業のソーシングモデルは、(1)国内だけでIT業務が完結する「国内完結型」、(2)海外のベンダにシステム開発などを委託する「海外生産型」、(3)国際分業型、(4)日本のベンダに国内外でのIT業務を委託する「日本ベンダ依存型」、(5)海外のベンダに現地のIT業務を委託する「現地ベンダ依存型」、(6)ハイブリッド型に大きく分けられる。足立氏は、中長期的に(1)および(2)は国際分業型に、(4)および(5)はハイブリッド型に集約していくとみている。

ソーシングモデル ソーシングモデル

 ユーザー企業が国際分業型へシフトするに当たり、発注者およびベンダの日本側にいるエンジニアのスキルや経験が発展途上であること、最適な機能とロケーションの組み合わせが模索段階であることなどが課題として浮かんでいる。その解決策の一例として、海外から日本にエンジニアを連れてきて教育する従来のOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)ではなく、日本から海外へIT人材を派遣する、あるいは部門ごと海外へ移すという成功事例を足立氏は紹介した。

 ハイブリッド型については、ほとんどの企業が実現できていないのが現状である。ユーザー企業の課題としては、全体最適と個別最適のバランスが難しいこと、戦略を立案し地域間の調整能力に長けたグローバルIT人材が不足していることなどがあるという。

 では、グローバルIT人材はいかに育成できるのか。足立氏は必要な資質として、ビジョナリーシンキング、グローバル英語、コミュニケーション力、多様性への理解、自立性を挙げる。

 「気付きを与える意味では人材育成研修は必要だが、前提として物事の全体を俯瞰(ふかん)できる経験が必須であり、研修を実施した後にリーダーシップをとらせていくような組織作りが不可欠だろう」(足立氏)

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