クラウドEXPOで@IT副編集長が公開取材

「IaaSを圧倒的な低価格で」、さくら社長

2010/11/17

 11月12日、幕張メッセで開催されたクラウドコンピューティングEXPO展示会場内のさくらインターネットの展示ブースにおいて、同社代表取締役社長の田中邦裕氏と@IT副編集長の西村賢記者の2人による対談形式の“公開取材”が行われた(動画)。事前打ち合わせなしの、容赦のない質問やツッコミに対して丁寧に回答する田中社長の言葉から、同社のクラウドへの取り組みの姿勢が見えてきた。

コストダウンのための仮想化は評価しない

 まず最初に投げかけられた質問は、「これまでさくらインターネットでは仮想化はやらないと言っていたのではなかったか?」というもの。

photo01.jpg さくらインターネット 代表取締役社長 田中邦裕氏

 以前からさくらインターネットおよび田中社長はレンタルサーバ事業での仮想化技術の導入には否定的な発言を繰り返していた。実際、仮想化のために商用ソフトウェアを導入すればそのライセンスコストが発生するし、構成が複雑化することによる運用管理負担の増大もある。稼働中のサーバイメージの可視性が下がることによって状態把握に手間が掛かるという懸念もあるだろう。

 リソース利用効率を最大化してコストを下げることが仮想化のメリットだとするなら、物理サーバを仮想サーバと同等レベルの安価な価格設定で提供できればその方がメリットが大きいのではないか、という主張には説得力がある。実際、さくらインターネットでは専用サーバのレンタルでも十分に競争力のある価格設定での提供を行ってきた実績もある。にも関わらず、9月に仮想サーバのレンタルであるVPSを開始したのは、なぜなのか、というのが西村記者の質問だ。

photo02.jpg @IT編集部 副編集長 西村賢記者

 これに対して田中社長は、自身のユーザーとしての体験から「仮想サーバには物理サーバでは実現できないメリットもある」ことが分かったのが大きな理由だと語った。田中社長は、個人で一般向けのちょっとしたサービスを提供するWebサイトを趣味で構築しており、このとき、予想外のアクセスをさばくために、複数のAmazon EC2のインスタンスを起動して利用したという。アクセス状況に応じて柔軟かつ迅速に処理能力を増減するといったエラスティックな運用は、やはり物理サーバで実現するのは困難だったのだ。

 こうしたリアルユーザーとしての経験が自説を撤回する形でのVPS提供開始に踏み切った背景となっているのだという。田中社長は、さくらインターネットのサービスを自腹で契約して利用しているといい、まさに“ユーザー視点”そのもので、自社サービスの限界を感じ取ったということだ。

使いやすいWebインターフェイス

 さくらインターネットは、公開取材の前日にクラウドEXPOにおいて、さくらのVPSに続く、IaaS型サービスの「さくらのクラウド」(仮称)を発表している。

slide01.png 「さくらのクラウド」は12月頃にアルファ版サービスを開始予定という
slide02.png パフォーマンスによって最小で0.5コア、1GBのメモリのインスタンスから最大12コア、16〜32GBのメモリのインスタンスまで用意する。最小構成で1000円強という値付けになる見込み(クリックで拡大)
slide03.png さくらのクラウドでは、REST APIによるインスタンス管理や、サーバイメージの複製によるサーバコピー、サーバイメージの保存と、保存イメージのインスタンス化などの機能を提供する
panel01.jpg 「クラウド」の文字に妙な手作り感があるコントロールパネルは、すでにサービスインしている、さくらのVPSで開発したものに手を加えたという

 さくらのVPSや、さくらのクラウドでは、Webインターフェイスを介して使用リソース量の変更や稼働状況の監視が行える。このインターフェイスも元は田中社長が「個人用クラウド」のために自作したものだという。リソース量の変更はドロップダウンリストから選ぶだけの簡単さで、しかもメニュー内に料金も明示されているので、確認の手間もない。

panel02.jpg コントロールパネル上からは、インスタンスの管理ができる
panel03.jpg ディスクの追加も設定パネルから可能。容量のそばに料金が書かれていて分かりやすい

 ユニークなのは、システムコンソールがそのままのイメージでWebブラウザ内に表示されるスタイルを採っていることだ。一般的に使われているSSHによるリモートログインとは異なり、画面転送技術を応用したものだ。このため、サービスが稼働開始する前のブート状況などもすべて把握できる。いわば物理的なディスプレイそのものを仮想化した形になっている。例えば、シングルユーザーモードのような、本来の設定ではネットワークを介したリモートアクセス機能が提供されない動作モードも利用できるなど、ユーザーにとってはまさに物理サーバが手元にあるのとほとんど同様の操作感が実現されている。

 こうした特徴を同氏は「物理サーバをそのままクラウドに載せた」ようなものだと表現する。仮想サーバだから仕方ない、といった言い訳ではなく、物理サーバの使い勝手をそのままに、そこに仮想サーバのメリットを追加する、という形でのサービス実装が行われていると言えるだろう。

panel04.jpg ディスクの追加も設定パネルから可能。容量のそばに料金が書かれていて分かりやすい

何の変哲もないIaaSを圧倒的低価格で

 同氏は、IaaSに求められる要素は「CPU、ネットワーク、ストレージの3つ」で、この基本を重視すると語る。さくらのクラウドでも、この3要素をシンプルに提供することに徹するという。

 同社はクラウドサービスという観点では、すでに後発参入組だ。海外にも国内にもサービス提供の実績を積んだ事業者が複数存在している。その周囲にはISVや独自の付加価値サービス提供者などが集まり、独自のエコシステムを構築している。

 「国内ではNiftyクラウドの周囲に急速にエコシステムが形成されつつあるのではないか。このクラウドEXPOでも大きなブースを構えている」という西村記者の指摘に対して、田中社長は率直に「脅威だ」と認めた上で、最大の戦略は価格設定であるとした。

 「使い慣れた環境から移行するのは面倒だし、ちょっとくらい安い価格を提示する程度では移行する気にはならないかもしれないが、2分の1とか3分の1とか、そういう圧倒的な価格差があれば移行を促すことができる」(田中社長)

 「あれこれ余分なサービスを付けずにシンプルに安価に提供する」というのが、さくらのクラウドのコンセプトだという。

 この方針は、実はPaaSでいろいろな独自サービスの提供に取り組みたい、というプランと対になっている。プラットフォームとしてさまざまな独自機能を追加提供できるPaaSと、インフラのみのIaaSの性格分けを明確にする意味だと理解すれば、「何の変哲もないIaaS」という言葉の意味が了解されよう。

 なお、現時点では「さくらのVPS」や「さくらのクラウド」で利用予定のサーバは東京/大阪のデータセンターで運用されているそうだが、将来的には同社が現在建設中の石狩データセンターで運用される可能性もありそうだ。省エネルギーや経済性にも配慮した最先端のファシリティである石狩データセンターでは、「ラック1本当たりの運用コストが従来のデータセンターの半分になる」という。一方で遠距離であることに起因して、応答時間は東京/大阪がおおむね8〜9msecなのに対して15msec程度になるという。これはWebサーバへのアクセスなどでは問題になるレベルではないとしながらも田中社長は、「VPSで仮想サーバの配置場所に石狩を選ぶとさらに安くなる設定にしてユーザーに選択肢を提供することも考えられる」と話す。バリエーションが増えるのはユーザーとしても歓迎できそうだ。

コミュニティを形成するクラウド

 クラウドと銘打つサービスは、すでに多数展開されており、そろそろ目新しさも感じられなくなってきた感もある。

 田中社長が「圧倒的」と言う価格設定はもちろん、田中社長自身がユーザーとして次々と登場するさまざまなサービスを楽しんで利用していることがよい影響を与えているようだ。西村記者との話では、自社の事業とは直接関係のない、米国のクラウドベンチャーの新サービスの話で盛り上がるなど、最新動向に広く目を配っている様子も伺えた。

 また、IaaSサービスの利用者(開発者やサードパーティ)が作り上げるコミュニティのあり方に議論が及んだ際には、「データセンターのユーザー間を直接接続できるようにし、さくらのサービスを利用しているユーザーが他のユーザー向けのサービスをデータセンター内で提供する」といったアイデアも飛び出した。

(渡邉利和)

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