米HP、ALM 11で開発者、テスターの労力を大幅に削減開発関係者の情報共有で、開発の品質とスピードを両立

» 2010年12月02日 00時00分 公開
[内野宏信,@IT]

 米ヒューレット・パッカード(HP)が11月30日から12月1日にかけてスペイン・バルセロナで開催している「HP Software Universe 2010」で、米HPバイスプレジデントのジョナサン・レンディ氏が新製品/機能群の発表を行った。

 アプリケーションライフサイクルマネジメント製品の最新版「ALM 11」や、ALM 11に搭載される“革新的な新機能”「HP Sprinter」をはじめ、アプリケーションのパフォーマンステストを行う「HP Performance Center 11」、プロシェクト単位の負荷テストツールとして定評のある「HP LoadRunner 11」など、「バージョン11」で統一された開発・テスト支援の新製品群に3000人を超す来場者らは大きくどよめいた。

開発を大幅に効率化する新製品/機能群を発表

 今回、発表されたのは以下の製品/機能群。それぞれの概要を紹介する。

  • 「HP ALM 11」:アプリケーション・ライフサイクル・マネジメントの支援製品。旧米マーキュリーの品質管理製品「Quality Center」のヘビーユーザー版「Quality Center Premier」のバージョンアップ版。
  • 「HP Quality Center 11」:アプリケーション開発の品質管理製品「Quality Center」のバージョンアップ版。
  • 「HP Sprinter」:マニュアルテストの自動化により、その手間と労力を大幅に低減する。HP ALM 11、HP Quality Center 11に標準機能として搭載される。
  • 「HP Requirements Management 11」:テストサイクルの全工程における要件の把握、管理、追跡を支援する要件管理製品の最新版。
  • 「HP LoadRunner 11」:プロジェクト単位で行う負荷テスト支援ツールの最新版。テスターの作業負荷が高い、Ajaxを使ったリッチクライアントのUI負荷テストの高速化する「HP TruClient」を搭載。
  • 「HP Performance Center 11」:負荷テスト資産の共有を可能にする全社規模でのパフォーマンステストツールの最新版。
テストを支援する新製品/機能群を発表した米HP バイスプレジデントのジョナサン・レンディ氏
  • 「HP Functional Testing 11」:機能テスト支援ツールの最新版。
  • 「HP Service Test 11」:SOAアーキテクチャで構築したサービスの機能テストツールの最新版。
  • 「HP Unified Functional Testing 11」:SOAアーキテクチャで構築されるアプリケーションの機能テスト支援ツールの最新版。「HP Functional Testing 11」と「HP Service Test 11」を連携させた製品で、ビジネスプロセスから、プロセスを支えるGUIを持つアプリケーション、さらに各サービスコンポーネントまで一気通貫した機能テストを実現する。
  • 「HP Business Process Testing 11」:再利用可能なテストコンポーネントを使用して、ビジネスプロセステストのテストシナリオ作成を容易にする。

自動化機能でマニュアルテストの時間・労力を大幅に削減

 中でも、今回の発表の核となるのはHP ALM 11だ。一般に、アプリケーションライフサイクルというと「開発ライフサイクル」のことを指すケースが多い中、HPでは「開発フェーズ以前のプロジェクトポートフォリオ分析から、開発、その後の運用・廃棄までを含めたソフトウェアのライフサイクル全体」を指す概念としてとらえ、それに沿って戦略、開発、運用のための製品群をラインナップしていた。

キーノートセッションでは、ビジネスを支えてきた既存システムと、柔軟性の高い近年のIT資産の融合による革新を象徴するような、フラメンコとヒップホップを融合したオープニングが披露された

 今回は開発フェーズの核となる「Quality Center」を「ALM11」「Quality Center 11」にバージョンアップしたことで、ソフトウェアライフサイクル全体を支援する製品ポートフォリオとしながら、開発フェーズの支援能力を一層強化した格好だ。

 ALM 11には大きく2つの特徴がある。1つはマニュアルテストの負荷を低減する各種機能を提供する「HP Sprinter」を標準装備したこと。具体的には、アプリケーションに対して行ったテスト操作を逐一記録する「探索テスト機能」、アプリケーションのUI上に直接注釈を入れられる機能、単一のテストを複数の環境で同時に自動実行できるミラーテスト機能、あらかじめ作成した一連のテストデータをワンクリックでアプリケーションのUI上に挿入するデータインジェクション機能を持ち、マニュアルテストの作業負荷・時間を大幅に低減するという。

ALM 11は各種開発関連ツールと柔軟に連携。開発者やプロジェクトマネージャ、テスト技術者など、各関係者が情報共有するリポジトリとして機能する

 2つ目は各種開発関連ツールと柔軟に連携すること。ALM 11は要件管理/テスト計画/テスト実行/不具合管理機能を提供するモジュール群で開発を支援するが、これに要件定義を行うUMLツールや、マイクロソフト「Visual Studio」、フリーウェアの「Eclipse」などの統合開発環境などを連携できる。これにより、「開発にかかわるあらゆる情報を一元的に管理・把握できる開発プラットフォームとして機能する」(ジョナサン・レンディ氏)という。

 レンディ氏は、「アプリケーションがビジネスにとってミッションクリティカルなものとなっている現在、企業はビジネスニーズに即したアプリを迅速に構築できなければ競争に勝ち残ることは難しい。しかし開発チームが物理的に分散していたり、チームごとに開発環境が異なっていたり、仮想化、クラウドなどテクノロジも新たなものが登場し一層複雑になっている中、従来の開発アプローチではニーズに即した品質の高いアプリを迅速に構築することはできない」と指摘。

 その点、開発者やプロジェクトマネージャ、テスト技術者など、各関係者が情報共有するリポジトリとしてALM 11が機能することで、「開発の作業状況の確実な把握・管理・共有や、要件変更のトレーサビリティの担保、各種テスト資産の再利用などが可能になる」と解説。加えて、テスト自動化機能なども持つことから、「開発チームが物理的に分散していても、全関係者が状況を正しく把握しながら、迅速・確実に品質の高いアプリを開発できる」と力説した。

「JAZZプラットフォームとはコンセプトが違う」

 ただ、こうした開発支援ツールにはIBM Rationalをはじめ競合製品も存在する。これについてレンディ氏に直接話を聞いてみたところ、氏は「そもそもコンセプトが違う」と回答した。

 「IBMの製品は開発者の作業支援にフォーカスした製品。その点、ALM 11は、プロジェクト分析から開発後の運用までスコープに入れたアプリケーションライフサイクルの枠組みの中で、開発フェーズにフォーカスすることで、“ビジネス要件を確実に満たせるアプリケーション開発”を念頭に置いた製品。あくまで“ビジネスニーズの実現”を起点に開発品質向上を追求した製品だけに基本的な方向性が異なると言える」

「IBMのJAZZプラットフォームとはコンセプトが異なる。RationalやJAZZプラットフォームがデベロッパー向けを主眼としているのに対し、こちらは開発の作業効率向上、労力削減を果たしながら、ビジネスニーズを実現することにフォーカスしている」と語るレンディ氏

 だが、日本においては開発関連ツール分野におけるIBM Rationalのブランドネームも強い。特にJAZZプラットフォームも「分散した開発チームの共通プラットフォームとして機能する」点を特徴としている。この点についてもレンディ氏はALM 11のコンセプトをアピール。

 特に「開発」だけではなく「要件」「品質」の3つを管理するワークフロー、テンプレート、レポート機能などを装備しているほか、Eclipse、VisualStudio、CollabNetなど連携可能であることなどを挙げ、「開発者はタスクベースで作業している。その点、ALM 11は要件やその変更を“開発者のタスク”と連携させることで、ビジネスニーズを満たすアプリケーションを迅速に開発できる」と強調。実際、ベータ版を提供済みのユーザー企業をはじめ、すでに多数の企業から引き合いがあるという。

 ただレンディ氏は、「HP Softwareブランドの浸透という意味で、機能強化だけではなく、ユーザーコミュニティなどを通じてALM 11の利便性を積極的にアピールし、グローバルで8000社あるQuality Centerのユーザー企業にアップグレードを促していく」と述べ、機能強化を通じて、開発分野における一層のブランドロイヤリティ向上を狙う意向を示した。

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