米HP「ソフトウェアの品質管理が企業の収益を左右する」アプリケーションライフサイクル管理「ALM 11」の開発背景

» 2010年12月03日 00時00分 公開
[内野宏信,@IT]

 11月30日から12月1日に かけてスペイン・バルセロナで開催された「HP Software Universe 2010」で、米HPが発表したアプリケーションライフサイクル管理製品「ALM 11」がユーザー企業担当者の大きな関心を集めている。そうした中、米HPはアナリストやALM 11ベータ版のユーザー企業担当者らを交えたセッションを開催。米HPのバイスプレジデント、マーク・サビュースキー氏がモデレータを務め、「いま、アプリケーションライフサイクルマネジメントが求められる理由」と、ALM 11のポイントについて詳しく解説した。

開発案件の選定から、開発後の運用まで視野に入れるべき

 ビジネスにおけるアプリケーションの重要性はますます増している。ハードウェア製品でも組み込まれるアプリケーションが差別化の鍵を握っている以上、企業の収益はニーズの変化に柔軟・迅速に対応する高品質な開発が支えていると言っても過言ではない。

 セッションでは、調査会社、フォレスターのデイヴ・ウェスト氏がこうした状況を振り返り、「いまアプリケーションライフサイクルマネジメント(以下、ALM)が求められる理由」を4つに整理した。

 1つは経営層がビジネスに迅速な展開を求めている――すなわち、「市場ニーズに柔軟・迅速に対応できる開発体制が求められていること」。2つ目は開発を迅速・柔軟に行ううえで「開発にリアルタイム性や可視性が求められていること」。また、「企業のITインフラがマルチベンダ、マルチプラットフォームのヘテロな環境になっている」ほか、「分散したチームで1つの開発プロジェクトを推進するケースが増えている」という。これらもALMの必要性を一層高めていると指摘した。

モデレータを務めた米HPのバイスプレジデント、マーク・サビュースキー氏(左)と、調査会社、フォレスターのデイヴ・ウェスト氏(左から2番目)、ベータ版のユーザー企業代表者ら

 ウェスト氏はこうした理由から、ALMは『要件や変更のトレーサビリティ』をはじめ、テスト結果などの『レポーティング』『ビジネスに貢献する開発案件を取捨選択し、優先順位を付ける計画性』『分散したチームでも効率的に開発できるコラボレーション体制』の4つが成功のポイントになると指摘した。

 これを受けてサビュースキー氏は、「ビジネスで迅速に結果を出すためには、真に効果が望める開発プロジェクトに フォーカスすることが不可欠。また、アプリケーションは1つ作って終わりではなく、次から次へと開発するもの。よって開発案件を慎重に吟味するのはもちろん、バージョンアップなど開発後の運用の在り方まで考えておかなければ、市場ニーズに柔軟に対応できないほか、開発コストの浪費にもつながりかねない。すなわち、ソフトウェアライフサイクルをSDLC(Systems Development Life Cycle)――“開発フェーズのライフサイクル”ととらえるのではなく、プロジェクトの取捨選択、優先順位付けから、開発後の運用までを視野に入れた広いスコープでとらえることが大切だ。そのうえで、開発チームが分散していても情報共有しながら一元的に開発を進められる体制を作ることが不可欠となる」と解説を加えた。

チームを超えた、一元的な開発ワークフローを整備

 ALM 11はそうした考え方を反映して開発した製品だという。具体的には、要件管理/テスト計画/テスト実行/不具合管理機能を提供するモジュール群で品質管理を支援するほか、要件定義を行うUMLツールや、マイクロソフト「Visual Studio」、フリーウェアの「Eclipse」などの統合開発環境と連携可能とした。これにより「広いスコープでのソフトウェアライフサイクル」 の中で開発フェーズをとらえ、「開発チームが分散していても情報共有しながら一元的に開発を進める」体制を整備できるという。

 「具体的に言えば、要件管理ツールや不具合管理ツールなどは部分的なソリューション。よって、ニーズに合わせて要件が何度も変更されたり、何度も不具合が発生したりすると、ツール同士が連携していないと現状を正確に管理できなくなってしまう。その点、HPでは統合テスト管理ツール『HP TestDirector』という製品でそうした問題に対応してきたが、性能テスト管理ツールだけ含まれておらず完全とは言えなかった。だがALM 11はそうしたツール群をすべて連携できる。加えて、Eclipseなどの統合開発環境にも連携可能だ。すなわち、物理的に分散したテストチーム、開発チームのそれぞれが異なるツールを使っていても、ALM 11がリポジトリとして機能し、情報共有しながら一元的に開発を進められる」

ALM 11がリポジトリとして機能し、「開発チームが分散していても、異なるツールを使っていても、要件の変更などすべての情報をリアルタイムに共有しながら、一元的に開発を進められる」

 これによって“チームを越えたワークフロー”が実現することに大きな意義があるという。「例えば開発者は不具合を認めたがらない傾向が強く、テストチームとのコミュニケーションに時間がかかるのが常だ。その点、ALM 11ではスクリーンキャプチャ機能などを使って不具合に関する情報も正確・迅速に共有できる」。

 要件変更/テスト結果/不具合の記録について、リアルタイムにトレーサビリティを担保できることもポイントだ。「ある企業のCIOはそれらをExcelで管理していると言っていたが、詳しく聞いてみれば、毎週月曜日に開発作業を止めて、丸1日かけてレポートを作っているとのことだった。そんなことでは、とても市場ニーズに追従したソフトウェアを作ることはできない」(サビュースキー氏)。

リッチクライアントの負荷テストの労力も低減

 以上のような体制があれば、テスト資産の再利用や、変更の影響範囲の迅速な把握などが可能になることから、おのずと開発作業の効率は上がる。加えてALM 11は新機能「HP Sprinter」を搭載し、テスト操作を記録する「探索テスト機能」、アプリケーションのUI上に直接注釈を入れられる機能、単一のテストを複数の環境で同時に自動実行できるミラーテスト機能、あらかじめ作成したテストデータをワンクリックでアプリケーションのUI上に挿入するデータインジェクション機能なども利用できる。

ALM 11の注目の新機能「HP Sprinter」の概要。今回の発表の1つの目玉であり、イベント初日のキーノートセッションでは操作イメージ映像も流された。説明に聞き入っていた来場者からは“テスターのため息が笑顔に変わる”といったメッセージとそれを裏付ける操作イメージに、静かな歓声が上がっていた

これにより、「新規開発のときほど人やコストを割けないバージョンアップの際にも、テスト資産の再利用や、テスト自動化などにより、高品質な開発をスピーディに行える」という。

 さらに今回は、ALM 11に連携できる負荷テストツール「HP LoadRunner 11」も発表されたが、このツールはAjaxを使ったリッチクライアントのUI負荷テストを高速化する「HP TruClient」を搭載している。サビュースキー氏は、「リッチクライアントはエンドユーザーにとっては望ましいものだが、テスターにとっては悪夢。その点、TruClientなら複雑なAjaxアプリケーションのテストスクリプトをほとんどプログラミングせずに容易に作れる。こうした機能も使いこなせば、開発の品質とスピード、コストの問題に大きく効いてくる」とアピールした。

「ALM 11はSaaSでも提供する。アプリケーションライフサイクル管理を通じて、あらゆる規模の企業の競争優位獲得をサポートする」と語るサビュースキー氏

 なお、以上のようにさまざまなツール群と連携できるALM 11について、そのベータ版を使っているという化学メーカーのIT部門担当者は、「弊社では計1500の事業単位を持ち、それぞれがアプリケーションを開発しているが、QualityCenter 9、10と使い続けてきた視点で判断しても、開発の効率化、低コスト化をサポートしてくれる各機能から、ALM 11に正式にバージョンアップしたいと考えている」という。

 サビュースキー氏は、「ALM 11は、米HP自身でも2万5000ユーザーが使っており可用性に優れる一方で、最低5ユーザーからでも使えるほかSaaSでも提供する。これをさまざまな規模のユーザーに使ってもらうことで、ソフトウェアの品質向上――すなわち企業の収益向上をサポートしていきたい」と述べ、製品をアピールしながら、ソフトウェアライフサイクル管理の在り方が企業の勝敗の鍵を握っていることをあらためて指摘した。

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