クライアント側ソフトウェアの機種対応を進める理由

従業員の業務環境、利便性と統制は二者択一ではない、シトリックス

2011/06/07

 5月第4週に米国サンフランシスコで開催された「Citrix Synergy 2011」。米シトリックス・システムズの社長兼CEOであるマーク・テンプルトン(Mark Templeton)氏は、基調講演の最後に、「Two more thing.」といい、2つの実験的な取り組みをデモで紹介した。

「Mac上でMacのVDI」も将来は提供?

 1つはCitrix Receiverからの起動による、AndroidアプリのWindows PC上での利用。これにはWindows上でAndroidアプリを動かせるようにする米BlueStack Systemsの技術を使っているようだ。Citrix ReceiverのアプリケーションメニューでAndroidアプリのアイコンをクリックすると、Windowsアプリと同じように、Androidアプリの画面がWindowsデスクトップ上に直接表示される。

 もう1つは「Mac on Mac」とも呼びたくなるような仕組み。XenDesktopでは、Mac上でWindowsのVDI(仮想デスクトップ)を使えるようになっているが、このデモではMacBook上に、Mac OS XをVDIで表示した。しかもHD動画を滑らかに再生するなど、パフォーマンス上の心配もないことを示して見せた。

citrix01.jpg MacBook上でMac OS Xを仮想デスクトップ表示。遠隔操作ソフトと変わらないと思うかもしれないが、シトリックスはVDIとして実装したことでのパフォーマンスをアピールした

 シトリックスは、デスクトップOSおよびアプリケーションをサーバ上で動かし、これを遠隔利用するデスクトップ仮想化の分野で、精力的に各種の携帯電話端末やスマートデバイスへの対応を進めてきた。この点では、競合他社を大きく引き離している。今回のSynergyでも、Citrix ReceiverがBlackBerry PlayBook、HP TouchPad、Google Chromebookといった最新/未発売の端末を含め、1000種のPCあるいはMacの機種、149種のスマートフォン、37種のタブレット、10ジャンルのシンクライアントに対応、合計10億台をカバーできると発表した。テンプルトン氏は今回のSynergyの基調講演中に、さまざまなWebブラウザで動作するCitrix Receiver for the Webもデモで紹介した。

citrix02.jpg HPのTouchPadでCitrix Receiverを起動したところ

端末ソフトウェアの進化

 シンクライアントを実現するシトリックスの端末側ソフトウェアは、この2、3年間で役割が大きく変化した。当初はシトリックスのデスクトップ転送プロトコルであるICAのクライアント側モジュールに、ユーザー認証などのインターフェイスを付加したものでしかなかった。だが、ICAはグラフィックや音声処理をはじめとする処理最適化や、パフォーマンス管理のためのコード群「HDX」で拡張された。

 端末側ソフトウェアは「Citrix Receiver」と命名され、WindowsとMac以外の端末への対応が進められるとともに、新たな機能が盛り込まれるようになっていく。例えば2009年5月にシトリックスが提供開始した「Citrix Receiver for iPhone」は、iPhoneをシンクライアント化するとともに、iPhoneの使い勝手の良さを生かしてWindowsアプリを簡単に使えるようにした。WindowsアプリはiPhone画面上に自動的にリスト表示され、望みのアプリをタッチすることで起動できる。

 Citrix Receiverは、当初から多様な端末に共通のシンクライアント・ユーザーインターフェイスとして発表されたが、2010年秋発表の「XenDesktop 5」では、ユーザーがアプリケーションカタログから使いたいアプリケーションを選択できるセルフサービスツールの「Citrix Dazzle」がCitrix Receiverに統合された。ユーザーはCitrix Receiver上で、自分に利用の許されたアプリケーションのリストから、セルフサービス的に自分の使いたいアプリケーションを選択し、ドラッグ・アンド・ドロップすることで、iPhoneやiPad、Android端末などのように、自分のアプリケーションメニューをつくることができる。

citrix03.jpg Citrix Receiverの新しいインターフェイス。アプリケーションリストから使いたいアプリをドラッグ・アンド・ドロップし、自分のアプリメニューをつくれる

 Citrix Receiverはさらに、多様な端末に共通なアプリケーションのメニューから、各ユーザーのための「ワークスペース」に変化しようとしている。このワークスペースでは、まずあらゆるアプリケーションを統一的に利用できる。iPhone/iPadなどの新しい端末で、Windowsの古いアプリが書き換えなしに使えるだけでも大きな進歩だが、さらに今後、これらのアプリにタッチやピンチなどのジェスチャを適用できるようになる。社内外のWebアプリケーション/サービスもCitrix Receiverの画面から起動でき、今回のCitrix Synergyで発表されたNetScaler Cloud Gatewayを併用すれば、社内外問わず、さまざまなアプリケーションに対して社内のユーザーID/パスワードでシングルサインオンできるようになる。

 さらに、1人のユーザーのためにCitrix Receiverが提供する業務環境は、時と場合に応じて利用する端末が変わっても、まったく変わらないようになる。今回の基調講演でデモされた「Follow-me Apps」という機能を使えば、このユーザーが使うすべての端末で、Citrix Receiverへのアプリケーション登録情報は同期できるからだ。つまり、ユーザーAがWindows PC上で、Citrix Receiverのアプリケーションメニューに登録したアプリケーションは、このユーザーがiPhoneのCitrix Receiverにログオンした際に、まったく同じものが表示される。ユーザーは、どの端末を使っても、自分が一番利用しやすい業務環境を、いつでも活用できるようになる。

 もう1つ、テンプルトン氏が将来の機能としてデモで紹介した「Follow-me Data」は、Citrix Receiver間(およびサーバ)でデータを同期する仕組みだ。エンドユーザーは、自分がどの端末でつくったデータでも、あらゆる端末でこれを閲覧したり、編集したりできる。Dropboxに似た環境を自動的に提供するイメージだ。デモでは、企業として提供するデータ同期サービスだけでなく、DropboxやBox.netといったサービスも併用できる仕組みとして紹介している。

citrix04.jpg Follow-me Dataのデモでは、Dropbox、社内のデータ同期、Box.netを併用してみせた

 ここで見逃せないのは、エンドユーザーが社外の一般向けサービスを仕事に役立てることを、企業として許容しながら、セキュリティを担保できるようなメカニズムを用意していることだ。NetScaler Cloud Gatewayのシングルサインオン機能は、認証情報を企業側が管理できるし、Follow-me Dataについては、端末側に保存されるデータを自動的に暗号化する「XenVault」という機能が、すでにXenDesktopには備わっている。XenVaultは、端末でデータが保存された時点でこれを暗号化するため、Dropboxのようなサービスを使ったとしても、このサービスのサーバにデータが同期される際にも、暗号化された状態でこれが行われることになる。業務スタッフが仕事でDropboxを使いたいというなら、これを否定したり、黙認したりするのでなく、セキュリティを確保する仕組みを前提に、利用を許すべきだという考えがもとになっている。

業務の「新たな現実」を反映

 Citrix Receiverの進化により実現する世界は、以前のシンクライアントのイメージとは対極にある。ターミナルサーバ型のシンクライアントでは、動かせるアプリケーションの選択肢が限定されるなど、エンドユーザーにとっての自由度は低い。セキュリティのためにシンクライアントを導入した企業の中には、このことを逆手にとってエンドユーザーの行動を制限することに意味を見出してきたところもある。しかし、本来これはターミナルサーバ型のシンクライアントの欠点であり、シンクライアント導入の理由とはならない。だからこそ、シトリックスも仮想PC型のシンクライアント(いわゆるデスクトップ仮想化、あるいはVDI)を採用し、一般的なホワイトカラーが求める、より柔軟なアプリケーション利用環境を提供しようとしてきた。

 しかし、最近の業務における「新たな現実」は、急速な普及が進むスマートフォンやタブレット端末を、従業員が自然に仕事で使い始めているということだ。シトリックスは、個々の従業員の力を最大限に発揮させるには、端末からの自由、場所からの自由、利用アプリの制限からの自由を実現し、ユーザー中心のコンピューティングを実現すべきだと主張する。そして、これを実現するために、Citrix Receiverをあらゆる端末に対応させ、周辺のサービスを充実させようとしている。これは、これまでWindows環境に注力してきたシトリックスが、Windows以外の端末の増加を無視できなくなってきたということも意味している。

「Personal Cloud」という言葉を持ち出した理由

 米シトリックスのCMO(Chief Marketing Officer)であるウェス・ウェッソン(Wes Wasson)氏は、これらの取り組みの基盤となるコンセプトとして今回、同社が作った「Personal Cloud」という言葉につき、@ITの質問に次のように答えた。

citrix05.jpg 米シトリックスCMOのウェス・ウェッソン氏

 「(PCについて使う)「デスクトップ」という比喩は、私以上の年の、PCを初めて見たときに、どうこれとつきあえばいいのか分からなかった人たちのために考え出された言葉だ。『これはあなたの物理的な机ですよ』と説明するために、『デスクトップ』という言葉が使われた。問題は、今日、人がアプリやデータ、他人、自分の好みとつきあうやり方は、もはやこの物理的な机に限定されてはいない。これよりはるかに大きなものになっている。人はいつでも、都合に応じてどんな端末でもつかまえて、アプリやデータにアクセスし、一緒に働く人々とやり取りできなければならない。これらをだれが用意したのか、だれが配信したのか、どのプラットフォーム用につくったのかを気にすることなく、どこでも端末を手にして、仕事のために必要な人、アプリ、データにアクセスできなければならない。つまり、すべてがクラウド上にあるようだが、すべてが私のためのパーソナルなものとして存在する。われわれが『Personal Cloud』という言葉をつくったのは、世界がデスクトップよりもはるかに大きくなったということを示すためだった。つまり、この言葉は今日のITで語られる『「デスクトップ・コンピューティング』を究極的には置き換えるコンセプトとしてつくった。そしてシトリックスの役割は、あらゆるデバイスにCitrix Receiverを提供することで、IT部門がデバイスのことを考えなくて済むようにすることだ。各従業員のPersonal Cloud上で何が使われようと、IT部門はこれを高いセキュリティと品質で提供できる。そして、デスクトップやアプリをプライベートクラウドとして提供し、パブリッククラウドと接続し、ユーザーにとってすべてがただ存在しているかのように、Personal Cloudをつくるためのインフラを、われわれは提供していく」。

 それでも、Personal Cloudという言葉が、遊びを奨励しているのでないかと考える企業IT担当者は多いはずだ。ウェッソン氏は、「Personal」という言葉は「仕事以外のこと」(遊び)ではなく、「各ユーザーのためにカスタマイズされていること」の意味だと付け加えている。

(@IT 三木泉)

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