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国際動向、産業界が背中を押す

IFRS強制適用延期はなぜか、その背景を探る

2011/06/21

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 金融庁の自見庄三郎担当大臣がIFRS強制適用の延期を指示した背景には何があるのか。「政治主導として選挙で選ばれた人間がきちんとやらせていただく」という自見金融相の決断に至る背景を探った(関連記事:IFRS強制適用が延期、金融相が「2015年3月期の強制適用は考えていない」)。

 「国際的な基準の統一を目指すことはよいが、日本の産業界、特に製造業は、投資判断となる一時点の企業価値よりも、ゴーイングコンサ―ン(継続企業の原則)に重きを置いている。IFRS導入に対する米国のスタンスも変化してきていることもあり、わが国でも時間をかけて検討していく方向になっていることは望ましい」

 日本経済団体連合会の米倉弘昌会長が6月20日にこう発言した。これまで日本公認会計士協会(JICPA)や企業会計基準委員会(ASBJ)と共に日本のIFRS適用について筋道を作ってきた経団連は既にIFRSについて慎重姿勢に転じていた。米倉会長は20日、自見金融相とも会談し、産業界の意見としてIFRS強制適用の延期を伝えた。

 自見金融相は21日の会見で、IFRS強制適用の延期を決めた状況変化として以下の8つを挙げた。

 この中で、自見金融相の背中を押したのはIFRSを巡る国際的な動向の変化と、上記の経団連を代表とする産業界の意識変化だ。国際的な動向の変化について自見金融相は5月26日に公表されたSECの作業計画書に触れて、「前回はIFRSを適用するという内容だったのが、(今回の作業計画書は)非常に玉虫色の文書となり、結果としてはIFRS全面採用から後退したと私は思っている」と話した。

 また、IFRS適用を決めているインドの動向が不透明で、「2011年からの適用についてもぐらぐらと揺れている」(自見金融相、参考記事:IFRS適用――欧州、米国、インドから日本は何を学ぶ?)。これらの要素が日本もIFRS適用を急ぐことはないとの流れを生んだ。自見金融相は2012年の強制適用の是非判断についても「個人的意見では、極端な話、米国よりも先走って決めることはないと考えている」と話し、米国の動向に寄り添う考えを示した。

日本を代表する大企業が「要望書」

 「新日鐵、トヨタ自動車、パナソニック、日立、東芝、三菱電機……」。自見金融相は21日の会見で、IFRSの強制適用延期と米国会計基準の使用期限撤廃を訴える「要望書」を提出した企業の名前を1社ずつ挙げた。要望書は「産業界に不用な準備コストが発生しないよう、十分な準備期間(例えば5年)、猶予措置を設ける(米国基準による開示の引き続きの容認)ことなどが必要」と訴える。要望書を出したのは製造業を中心にいずれも日本を代表する大企業で、金融庁も軽々しく扱うことはできない。加えて与党民主党の支持組織である日本労働組合総連合会(連合)も6月に「IFRSの強制適用することを当面見送る方針を早期に明確にする」との重点政策を公表した(リンク)。金融庁は、産業界からも政治からも外堀を埋められた格好だ。

 一方で、IASB(国際会計基準審議会)のサテライトオフィスが東京に決定し、日本人の藤沼亜起氏がIFRS財団の副議長に就くなど、IASBの日本への期待は高まっている(参考記事:IFRS強制適用への期待の表れか――IASBが東京オフィス設置を発表)。2月に東京で会見したIASBのトゥイーディー議長は「日本がどういう決定をするかが中国、インドに大きな影響を与える」と話し、日本のIFRS強制適用決定に期待を示していた。

 6月末に開催される企業会計審議会総会・企画調整部会の合同会議では「さまざまな立場の委員」を9〜10人追加してIFRSの今後の対応を決める。単なる会計の技術論ではなく、「歴史、経済文化、風土を踏まえた企業のあり方、会社法、税制等の関連する制度、企業の国際競争力など」、これまでにない観点から議論するという。

(IFRSフォーラム 垣内郁栄)

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