Alchemyを取り込み、Windows 8には「AIR for Metro」もあり得る

3Dや64ビット、ネイティブ拡張に対応、Flash Player 11とAIR 3

2011/09/22

 米アドビ システムズ(以下、アドビ)は2011年9月21日(米国時間)、Flash PlayerおよびAdobe AIR(以下、AIR)の最新版となる「Adobe Flash Player 11」「Adobe AIR 3」を発表した。正式版の出荷は2011年10月早期を予定しているが、現在でも、Adobe LabsにてRelease Candidate版を利用できる。今回、日本において米アドビ システムのデジタル・イメージングプロダクト・マーケティングディレクタであるAnup Murarka(アヌップ・ムラルカ)氏がFlash Player 11およびAIR 3に関して発表を行った。

2年ぶりのメジャーリリースとなった、Flash Player 11とAIR 3

米アドビ システムのデジタル・イメージングプロダクト・マーケティングディレクタであるAnup Murarka(アヌップ・ムラルカ)氏。「Flash技術は最先端を走り続け、最終的にはオープンスタンダードとして広く普及する」(写真はAdobe MAX 2010の記者向けセッション時の様子) 米アドビ システムのデジタル・イメージングプロダクト・マーケティングディレクタであるAnup Murarka(アヌップ・ムラルカ)氏。「Flash技術は最先端を走り続け、最終的にはオープンスタンダードとして広く普及する」(写真はAdobe MAX 2010の記者向けセッション時の様子)

 Flash Player 11およびAIR 3は2年ぶりのメジャーフィーチャーリリースとなる。新機能の追加を主眼においたリリースだ。この2年間、アドビはFlash PlayerやAIRで対応するプラットフォームの増加に取り組んできた。WindowsやMac OS X、Linuxなどのデスクトッププラットフォームはもちろん、スマートフォンやタブレットデバイス、TVなど多種多様なデバイスへの対応を進めている。

 2011年中には、スマートフォン130機種、タブレット85機種に対応するとしており、カバーする範囲の広さは随一といえる。対応するデバイスの数でいえば、「2011年末には2億台、2015年末には10億台まで増える」(ムラルカ氏)と予測している。

 Flash Player 11およびAIR 3で注目なのは、ビジネスシーンの変化や顧客ニーズの変化をとらえ、時代に対応した機能を取り込んでいる点にある。ムラルカ氏は、現在コンシューマには次の3つのトレンドが存在すると説明。

  1. モバイルデバイスにおけるアプリケーションの利用。モバイルアプリに対して高い期待感が存在
  2. モバイルデバイスにおけるリッチさ、高性能さ、ゲーム機レベルのクオリティを求める傾向。もともと日本の携帯電話市場に存在していた、こうした要求が世界中で見られる
  3. どのデバイスでもHDレベルの高品質ビデオを閲覧したいという要望

 当初はコンテンツの制作に対する要望が中心だったが、それらは次第にコンテンツの配信や管理といったところに移っていき、現在ではモバイルデバイスが1つの大きな注目ポイントになっているという。Flash Player 11およびAIR 3には、こうした時代の変化に対応するための新機能を追加しているという。

ゲーム、ビデオ、エンプラに注力

 Flash Player 11およびAIR 3は特に次の3つのカテゴリに強く注力したものになっている。

  1. ゲームカテゴリ
  2. メディア/ビデオカテゴリ
  3. データ駆動/エンタープライズカテゴリ

 「ゲームに強くコミットしていることはiPhoneやiPad、Android向けに提供している人気ゲームの多くがAIRで開発したものであることを見れば自明だ。すでに数千本のAIR/FlashベースのアプリがiTunes App Store/Android Marketで提供されている」(ムラルカ氏)

ムラルカ氏が提示したAIRで開発されたゲームアプリの例 ムラルカ氏が提示したAIRで開発されたゲームアプリの例

 ビデオ再生プラットフォームとしての存在感を、より揺るぎないものにする取り組みを進めているのも、今回のリリースの特徴といえる。HTML5のvideoタグが普及を始めているとはいえ「依然として、Webにおけるビデオ閲覧ではFlashが代表的な存在であり続けている」(ムラルカ氏)

 データ駆動型アプリや、エンタープライズレベルで求められるアプリの開発ツールとしての位置付けを強化している点も、今回のリリースの特徴となるものだ。ムラルカ氏によると、「モバイルとエンタープライズという2つの方向に対して新機能の強化を図ったのが今回の新バージョン」としている。

開発者は3D、ネイティブ拡張、新パッケージ機能に注目

 Flash Player 11およびAIR 3の新機能の中でも、以下が特に注目に値するものといえる。

  • GPUアクセラレーション3Dエンジンの搭載
  • ネイティブ拡張(Native Extension)の導入
  • AIR実行環境同梱(Captive Runtime)機能の導入
  • コンテンツ保護機能が有効になったモバイル向けビデオ配信およびiOSのサポート
  • 64ビット版Flash Player(Windows版、Mac OS X版、Linux版)の提供

 GPUアクセラレーションについては、デスクトップのみならずスマートフォンやタブレットデバイスに対しても対応する。結果、「ゲーム機が提供するのと同じクオリティの3Dレンダリングが可能」(ムラルカ氏)としており、「ゲームプラットフォームとして魅力的なものに仕上がっている」。Flash対応3Dゲームのサンプルは、「Stage 3D | Adobe Developer Connection」で確認できる。

「AlternativaPlatform Adobe Flash Player 11 Molehill Tanki Online 2.0 “Crash” demo」の様子(Flash Player 11のRelease Candidate版をWindows 7 32ビット上で使用) 「AlternativaPlatform Adobe Flash Player 11 Molehill Tanki Online 2.0 “Crash” demo」の様子(Flash Player 11のRelease Candidate版をWindows 7 32ビット上で使用)

 「Native Extension」は、OSの提供するネイティブな機能をActionScriptから利用できるようにする拡張機能。これは「開発者から最も要望が多かった機能の1つ」(ムラルカ氏)と説明があった。具体的には、デバイス上へのデータ/ファイルアクセス、バイブレーション制御、磁気センサ、光センサ、NFC(近距離無線通信)などのハードウェアのAPIを利用できる。

 ネイティブ拡張を使うと、アドビが取捨する機能に左右されずに必要な機能を開発に取り込めるようになる。より開発者主体の取り組みを進めるうえで重要な機能だ。C/C++のオープンソースライブラリなどもAIRアプリ開発に使うことができる。

 「Captive Runtime」は、どのようにパッケージングするかを選択する機能。アプリとAIR実行環境を同梱して単一バイナリとして提供可能にする。これまでは、iOSアプリのみで行ってきたが(AIR for iOS)、AndroidやWindows、Mac OS Xでも対応する。これにより、開発者はユーザーがAIR実行環境を端末で使っているかどうかを意識せずアプリを提供でき、従来よりも配布と流通を簡素化する効果が期待できる。

 コンテンツ保護が有効になったビデオストリーミングが、デスクトップのみならずモバイルデバイスに対しても有効になったことも注目だ。特に、iOSへ対応したところは興味深い(参考:Adobe、「Flash Media Server 4.5」でiOSへのFlash動画配信を可能に - ITmedia ニュース)。

 デスクトップ向けには、64ビット版のFlash Playerを提供する点も注目だ。64ビット版のFlash Playerの不在が、64ビット版Webブラウザ普及の妨げになっていた側面があったため、今後Webブラウザの64ビット版採用普及の1つの足掛かりになるものと見られる。

Alchemyの機能を取り込むFlash PlayerとAIR

 アドビはFlash Player 11およびAIR 3を発表するとともに、AlchemyをAdobe Labsから取り消すことも発表した(参考:Updates from the Lab « Adobe AIR and Adobe Flash Player Team Blog)。Alchemyは、アドビが2008年に発表した実験的なプロジェクト。C/C++で開発したライブラリやアプリをFlash Playerで実行可能にする取り組みで、既存のC/C++コードをWebブラウザで活用する方法として注目された。

 ムラルカ氏の説明によれば、「Alchemyの機能は将来リリースするFlash PlayerやAIRに統合することになる」という。AIR 3で提供するNative ExtensionやCaptive Runtime機能などはAlchemyで培った技術が関連していると見られるため、このタイミングでの取り込みは合理的な判断といえそうだ。

「HTML5がFlashに置き換わる」に異議あり

 アップルやマイクロソフトのここ最近の動向からは、Webブラウザからプラグインを排除するといった取り組みが1つの方向性として浮かび上がってくる。特にモバイルデバイスのように、デスクトップほどは自由度が高くないプラットフォームで、その傾向を強く感じる。

 こうした議論では「HTML5関連技術がFlash技術に置き換わる」という意見を多く目にするが、ムラルカ氏はこの意見に対して真っ向から異議を唱える。「現在のWeb技術で実現できることは、これまでFlashがリード役として普及させてきたものだ。最初はFlash技術として実現しても、最終的にはオープンスタンダードとして広く普及している」

 「HTMLが3、4、5と進歩を重ねているように、Flash技術も常に最先端を走り続けているし、これからも最先端であり続けるように取り組んでいく。つまり、HTML5関連技術が実現できることよりも常に一歩先をFlash技術は提供し続ける。HTML5関連技術が完全にFlash技術に置き換わるということはあり得ない」(ムラルカ氏)

Windows 8のMetro UIにも対応

HTML5・Flash関連で最新の動向として気になるのはWindows 8/Internet Explorer 10(以下、IE10)だろう。マイクロソフトはHTML5によって、IE10で「プラグインフリー」のユーザー体験を提供することに労力を注いでいる。開発者に対しても「積極的にプラグインフリーのユーザー体験を実現すべき」と声を掛けており、その姿勢はだいぶ明確なものだ。

 最近マイクロソフトが提供を開始したWindows 8デベロッパプレビュー版では、従来のデスクトップ版と同様の「IE10プラットフォームプレビュー3」を提供するのみならず、タブレットでの利用を想定したMetroスタイルのIE10プラットフォームプレビュー3を提供。このMetroスタイルのIE10にはプラグイン機能を提供しないなど、プラグインフリーの姿勢を明確に示している(参考:IE10のMetroスタイル版はプラグインフリーでFlash非対応に - ITmedia ニュース)。

 こうした現状に対しムラルカ氏は、「Windows 8のデバイスが正式提供されていない現状で確定的なことはいえないし、Metroに対してFlash Playerをどう提供していくのかは、今後マイクロソフトと協議していきたい」と前置きしたうえで、「たとえ提供しないとしても、iOSと同じアプローチでMetroに対してもサポートを実現していくことは可能ではないか」とした。iOSと同じアプローチということは、「AIR for iOS」をMetroアプリに応用する「AIR for Metro」といったところだろうか。

 Windows 8のデスクトップ版IE10はプラグインに対応しており、こちらに関しては従来通りFlash Playerを提供することになるという。「最終的にマイクロソフトがどういった判断を示そうとも、アドビとしては顧客が必要とする技術を提供するまでだ」とムラルカ氏は説明した。

(有限会社オングス 後藤大地)

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