米SAS、「ビッグデータ活用は、十分に実用段階に入っている」ソーシャルメディアマーケティングには“分析力”が不可欠

» 2011年10月28日 00時00分 公開
[内野宏信,@IT]

 「ソーシャルメディアの活用により、自社は飛躍的に伸長する:69%」――米SASが10月26日(米国時間)から、米オーランドで開催している年次イベント「THE PREMIER BUSINESS LEADERSHIP SERIES」で、ソーシャルメディアマーケティングの話題が盛り上がっている。

 同社はイベント初日、パネルディスカッション「Executive Viewpoint」を実施。これにSAS CEO ジム・グッドナイト氏をはじめ、オーランドのプロバスケットボールチーム「オーランド・マジック」プレジデント、アレックス・マーティンズ氏、米国南部16州で店舗展開するデパート「ベルク」のCEO、ティム・ベルク氏が登壇。TwitterやFacebookを使ったマーケティング施策についての事例や考えを披露し、会場に詰め掛けた多数の参加者の注目を集めていた。

今、多くの企業の注目を集めるソーシャルメディアマーケティング

 冒頭のデータは、イベントの前日、米SAS CMO ジム・デイビス氏が記者向け説明会で紹介した「米SASとハーバードビジネスレビューの共同研究による調査レポート」の一部だ。この「ソーシャルメディアに対する企業の考え」を調べたデータは、「企業内のソーシャルメディア活用が進展する:57%」「マーケティング活動の中でソーシャルメディアが重要な位置を占める:46%」と続き、多くの企業がTwitterやFacebookを企業活動の重要なアイテムと認識していることを示している。

写真 「ソーシャルメディアに対する企業の考え」を調べた調査レポート。「ソーシャルメディアの活用により、自社は飛躍的に伸長する:69%」「企業内のソーシャルメディア活用が進展する:57%」「マーケティング活動の中でソーシャルメディアが重要な位置を占める:46%」と続き、多くの企業がソーシャルメディアの本格活用を考えている状況が浮き彫りにされた

 ただ、ソーシャルメディアを活用する目的は、単にリレーションを築くことではない。リレーションの中で顧客の志向、動向を読み取り、適切なアクションを起こしてブランド、収益の向上につなげることだ。そのためには顧客の声のリアルタイムでの分析が求められる。

 パネルディカッションではそうした認識に基づき、米オーランドのプロバスケットボールチーム「オーランド・マジック」のマーティンズ氏と、デパート「ベルク」 CEOのベルク氏、そしてジム・グッドナイト氏がそれぞれ視点から興味深い見解を披露した。

顧客接点やテクノロジの変容を知る上で、分析は不可欠

 まずその実体験から、「組織運営の上で、ソーシャルメディアが果たす役割がより大きなものとなっている」ことを指摘したのが、オーランド・マジックのマーティンズ氏だ。同チームは全てのプロスポーツチームの中で第3位のTwitterのフォロワー数を誇っているという。

 「人々はソーシャルメディアの向こう側に存在し、あなたの会社の製品について話したり、意見を交換したりしている。それもかつてないほど即時性の高いやり方でだ。われわれはTwitter、Facebookを活用してマジックの信頼感を保ち、タイムリーかつインタラクティブに、ファンと交流したり、オファーを提供したりしている」(マーティンズ氏)

写真 米SAS CEO ジム・グッドナイト氏を中心とした“CEOパネルディスカッション”「Executive Viewpoint」には多くの来場者が詰め掛けた

 特にTwitterは“最新ニュース提供メディア”として活用しているが、Facebookでもニュースを発信するなど、基本的には同列に扱い、今後台頭してくるであろうソーシャルメディアも進んで取り入れ、各メディアを組み合わせて活用していきたいという。

 「われわれは、そうした各種ソーシャルメディアを使っているファンがいる限り、全てのメディアを使ってコミュニケーションを取っていきたい。これはコミュニケーションを取ることだけではなく、“顧客の声に傾聴する”という意味で非常に重要だ」(マーティンズ氏)

 実際、iPhone、iPadに代表されるスマートデバイスの浸透により、これらと相性の良いソーシャルメディアは年々ユーザーが増えている。これは企業活動に対する顧客の反応、クチコミがリアルタイムかつ広範囲に伝播することを意味する。そうである以上、あらゆる顧客接点を確保し、その声を聞き漏らさないことが一層重要になるというわけだ。

 だが一方で、デパート「ベルク」のCEO ベルク氏は、「ソーシャルメディア活用にもROIの観点が重要」であることを指摘する。というのも、新しいメディアやそれを支えるテクノロジの活用は、ビジネスの在り方、進展に大きく影響する。特に流通・小売りはその傾向が顕著だ。「例えば、ブリック&モルタル(リアル店舗を持つ旧来型ビジネス)では、伸びてもせいぜい年に4〜5%ほどの成長率にとどまるのが平均的であるのに対し、Eコマースでは成長率が倍増する例も珍しくない」。

 この点を受けて、同氏は「今後ビジネスの在り方はどう変容し、モバイルデバイスやソーシャルメディアは、自社のビジネスにどう影響し、どう使えば顧客の関係性を強化できるのか、市場の動きや、テクノロジ、デバイス、メディアの変容に合わせて、われわれはたくさんの賭けをしていかなければならない」と指摘。

 そうした中、自社の収益を堅持しながら、顧客やステイクホルダーとのリレーションを強化し続けるためには、「そうした変容を効率的にマネージすることが求められる。すなわち“分析”が必要不可欠になる」と訴えた。

分析により、ユーザーエクスペリエンスをカスタマイズして提供

 事実、マーチン氏のチームでも、単にソーシャルメディアを通じてファンと交流するだけではなく、“分析”をビジネスに取り入れ収益の最大化を図っているという。具体的には昨年、チケット収入の最大化を狙ってSASを導入し、過去の販売履歴データなどから、1つ1つのゲームに対するファンの需要を分析。需要に即してゲームごとにチケット価格を最適化したことで、チケット収入を大幅に伸ばした。

写真 「ソーシャルメディアは“顧客の声に傾聴する”意味で非常に重要」「ソーシャルメディア活用にもROIの観点が大切」など、ポイントとなる意見が飛び出すたびに、多くの来場者らがうなずいていた

 さらに、マーチン氏はこの事例を基に、「今後は分析によって、顧客1人1人のエクスペリエンスをカスタマイズし、その顧客が必要とするオファーをピンポイントで提供していくことが大切だ」と述べる。

 例えば、「真のバスケットボールファンと、ソーシャル体験を求めて試合に来る顧客を見分けて、それぞれに適したサービスをソーシャルメディアでオファーし、個別に語り合う」といった具合だ。

 今後はペーパーレスのチケットシステムと、ファンIDカードの導入を予定。これにより、より多くの顧客データを得ることで、“ユーザーエクスペリエンスのカスタマイズ提供”を狙うという。

並列分散処理のメリットは膨大。ビッグデータは実用段階に入った

 以上のようなソーシャルメディア活用の話を受けて、テクノロジの観点から実現方法を説いたのが米SAS CEOのジム・グッドナイト氏だ。氏は「大量データの分析基盤として、ハイパフォーマンスコンピューティング環境が不可欠だ」として、10月25日に発表したばかりの超高速ビッグデータ分析アプライアンス「SAS High-Performance Analytics」にも搭載している技術のポイントを解説した。

 SAS High-Performance Analyticsは、TeradataもしくはEMC Greenplumのデータベース・アプライアンス上で、テラバイト単位のデータをほぼリアルタイムに処理し、SASの分析エンジンに処理結果を渡すことで、分析処理を超高速化する仕組みとしている。

写真 「顧客1人1人とのエンゲージメントを醸成し、ブランド、収益向上につなげるソーシャルメディア活用をはじめ、ビッグデータ活用は十分に実用段階に入ったことを語るジム・グッドナイト氏

 この点について、グッドナイト氏は「われわれは、ほぼ全ての統計モデリングとオペレーションリサーチを実行する上で必要な一連の手続き(プロシージャ)を超並列処理で行えるようにした。具体的には、データを全てI/Oメモリに入れ、各サーバの全プロセッサ・コアを最大限に使う仕組みだ」と説明。

 さらにTeradataを例に取り、「全データを単一のディスクファイルに格納するのではなく、複数のディスクファイルに拡散させる。このため、全てのプロセッサがデータの一部分を分散して処理することになる。その点、Teradataは、(データベースソフトウェアの処理を複数のノードに分散することで処理性能を向上させる)シェアードナッシング・アーキテクチャを採用したディストリビューションデータベース。SASを個別のノードから切り離し、ただノード上で処理したデータをSAS側に渡し、SASはその分析結果を返すことで分析の高度化・高速化を図るという仕組みを実現する上で大きなポイントになっている」と、より具体的な見地から解説した。

 「こうした技術が企業にもたらす変化はまさに膨大だ。大切な資産、すなわちデータを無駄にしてはならない。データをモデリング、予測、理解することは、企業のビジネスをより良いものへ転換してくれるカギとなる」――グッドナイト氏は最後にこのように述べ、大量データのリアルタイム分析、すなわち1人1人の顧客とのエンゲージメントを醸成し、ブランド、収益向上につなげるソーシャルメディア活用をはじめ、自社の目標を実現するためのビッグデータ活用が、技術的にも十分に実用段階に入っていることを力強く訴えた。

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