SAP、HANA 2.0でOLAPとOLTPの共存を実現北京で「SAPPHIRE NOW in Beijing」を開幕

» 2011年11月16日 00時00分 公開
[大津心,@IT]

 独SAPは11月15日、中国・北京において「SAPPHIRE NOW in Beijing」を開幕した。アジア地域では初の開催となる「SAPPHIRE NOW」は、同社が成長市場として期待しており、2015年までに20億ドルの投資を約束した中国での開催となった。

 成長著しい中国国内におけるSAPの注目度も高く、中国メディア150名強が参加しているほか、来場者は8000名にのぼり、オンライン登録者の1万7000名を加えると2.5万人近い参加者を予定している。基調講演には、ホストとして米フォーチュンが「世界のビジネスウーマンTOP50」に選んだSAP中国社長のヘラ・シウ(蕭潔雲)氏が登場。ユーザー事例として、家電メーカー ハイアール(Haier)グループのCEO 張瑞敏氏やSAP共同創業者のハッソ・プラットナー(Hasso Plattner)氏が登壇した。

徹底した顧客志向で白物家電世界シェア1位を獲得〜ハイアールCEO

 ハイアールグループは、1984年創業の山東省青島に本拠地を置く家電メーカーで、2010年における冷蔵庫や洗濯機のブランドシェアは世界1位。売上高約2兆円を誇る世界的大企業だ。張氏は1984年に同社の社長に就任して以降、わずか17年間でここまで育てたたたき上げのCEO。2011年7月には、Panasonicから三洋電機を約100億円で買収して話題を呼んだ。

張氏写真 ハイアールグループ CEO 張瑞敏氏

 冷蔵庫メーカーとして創業した同社は、価格戦略に打って出ず、あえて生産量を抑え、サービス品質重視のブランド戦略を採用。「欠陥のある製品は廃品である」「顧客は常に正しい」「先に信用を売り、その後で製品を売る。配送はサービス」といった方針を打ち出した。これが成功し、ユーザーの評価を獲得。1990年代に中国国内シェアを拡大していった。その後、買収戦略で洗濯機などにも事業を拡大するとともに、1998年以降は積極的に海外に展開し、米国などでシェアを伸ばした。上述のように現在では、世界の白物家電ブランドシェアで1位となっている。

 張氏は、講演内でドラッカーの失敗に関する事例や「Marketing 3.0」を例示し、顧客志向の重要性や、付加価値の共有の重要性を説いた。そして、顧客志向を突き詰めた結果、組織構造変化の必要性を感じ、従来型のピラミッド構造の組織から、逆トライアングル型の組織へ変更したという。

 同社は2008年8月まで、顧客と直接接する草の根スタッフを底辺に、管理職、上級管理職、経営者と連なる正三角形型ピラミッドの組織構造を採用していた。この場合、企業にとって一番重要な“顧客の声”が、まず一番近い草の根スタッフに伝わり、そこからその声が要約されて管理職に報告される。管理職はさらに要約して上級管理職や経営者に報告する。そして、経営者はその要約された顧客の声を元に方針を決定し、それを上級管理職に伝える……といった形式となり、一番重要な“顧客の声”が“伝言ゲームのロス”によって価値を喪失していることに気付いたという。

 そこでハイアールでは、「研究開発」「製造」「マーケティング」の主要3部門を、1つの組織「ZZJYT」としてまとめ、顧客と直接触れることができるように組織変更。そこから経営陣へ伝わるように逆三角形の組織構造へ変更したという。ZZJYTは、それぞれが自立的に管理・行動するユニットで、全社で4100以上のチームができあがった。

 この構造変革によって、「ZZJYT」は直接顧客から否定的な意見や批判を受けることになるが、この意見を元に改良を加えることによって、顧客にさらに大きな価値を提供するというポジティブなフィードバックの循環を実現することが可能になった。張氏は、「このZZJYTの顧客志向の精神はバニヤンツリーの枝のように、樹全体へ広く深く浸透した」とコメントし、現在の成功の礎になっているとした。

 また、この顧客志向組織構造の場合、顧客のニーズに応じて製品開発を行うため、究極的には在庫なしも夢ではないという。実際に同社では、顧客の注文が入ってから24時間以内の配送を実施しており、在庫削減を実現している。最後に張氏は、「いったん自分たちで正しいと思った方法を見つけたならば、その方法の実現がどれくらい難しいかということは重要ではない」と語り、ある程度の困難があったとしても、信念を貫き通すことも重要であると説いた。

OLAPとOLTPの共存を実現し、既存DB市場を改革する

 張氏に続いて登壇したのはハッソ・プラットナー氏。同氏はSAPの共同創業者で、現在も監査役会議長を務めるなど、強い影響力を持つ。同氏が1972年にSAPを創業した当時に志したのが「Realtime Business」だという。その後、同氏がSAP ERPを開発し現在に至っている。そのプラットナー氏が「ここ5年間非常に注力している」のがDBだ。

プラットナー氏写真 SAP 共同創業者 ハッソ・プラットナー氏

 同氏によると、さまざまなビジネスアプリケーションが発達し、企業内で活用されているものの、いまだに創業時に目指した「Realtime Business」は実現できていないと感じているという。そのボトルネックが現在のビジネスの根幹であるDBにあると気付き、10年以上悩み続けた。そして、ERPを含むビジネスアプリケーションが真の実力を発揮してその利益を享受するためには、まったく新しい発想で作るDBが必要だと感じ、それを実現するために、大学や政府機関と次世代データベースアーキテクチャの研究を続けたという。

 そのような発想でデザインされたのが、昨年のSAPPHIRE NOWで発表された「SAP HANA」(以下、HANA)だ。HANAはインメモリ型のDBアプライアンス製品で、2010年12月よりIBMやヒューレット・パッカード(HP)、富士通、Dellなどから提供されている。SAPのHANAに対する注力度は、2010年12月の発売以降1年弱の間に、データウェアハウスをインメモリ上に載せることができるようになった「HANA 1.5」と、OLTP機能に対応した「HANA 2.0」をリリースした点からもうかがい知れる。

 また、HANAは導入状況も特徴的だ。ワールドワイドでHANAを最初に導入した企業は野村総合研究所(NRI)であり、その後もヨドバシカメラが導入するなど、日本市場での導入が非常に進んでおり、米国に次ぐ導入企業数だという。従来、SAPの製品はワールドワイドで発売された後、日本法人で製品やマニュアルを翻訳してから顧客にリリースしていた。このため、半年程度のタイムラグが発生していたという。HANAからは、顧客が早期導入を希望する場合には翻訳をせずに提供するケースも用意。この制度を利用してNRIは早期導入を実現した。

 プラットナー氏が40年来の志を実現するために開発したHANAだが、その最大の特徴は、OLAPとOLTP、構造化データと非構造化データという、対称的な2つの処理を共存させるコンセプトだ。2010年に発表された「HANA 1.0」の段階では、OLAPのみに対応していたが、2011年11月に発表された最新バージョンの「HANA 2.0」ではOLAPに続き、OLTPに対応した。

 従来、DBはその用途に応じて、業務系のOLTPと分析系のOLAPに分けて利用されることが多かった。ERPなどの業務系システムの場合、多数のユーザーが少ない種類のデータレコードの追加や更新を大量に行う。一方の分析系で用いられるOLAPでは、分析などを専門で行う限られた少数のユーザーが、広範囲のデータに対して検索や分析を行う。このようにOLAPとOLTPでは正反対の処理を要求されるため、統合が難しいとされていた。

 プラットナー氏はHANA 2.0でこの統合が実現したとし、実際に「SAP NetWeaver Business Warehouse」(SAP BW)への対応も完了。HANAをSAP BWのDBとして利用することが可能となったという。今後は、2012年を目途に「SAP Business One」と「SAP Business Bydesign」への対応を目指し、さらにその先には「SAP Business Suite」への対応も検討中だとした。

 同氏はHANA 2.0について「昨年は、『HANAを導入すると○倍高速化した』といったインメモリの高速化部分について多く語ってきた。実際、最近導入したヨドバシカメラは従来比で10万倍の高速化を実現したという。しかし、HANAの本質はOLTPとの共存を可能にするなど、従来のDBの構造的改革を実現する点だ。これにより、より多くのメリットをユーザーに提供できるだろう。例えば、OLTPに対応したことで、より幅広いデータソースに対応できた。企業内の構造化データだけでなく、TwitterやFacebookなどの非構造データにも対応できたうえに、Oracleなどの外部データにも容易に対応できる。このようなソフトウェアによる対応や高速化に加え、CPUやメモリの高速化などハードウェアの改良によって、今後ますます機能強化をしていくだろう」と語り、講演を終えた。

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