継続的インテグレーション、アジャイル開発対応も進化

マイクロソフト、Visual Studio 11に関する最新情報を公開

2012/03/30

 日本マイクロソフトは3月29日、報道関係者向けに同社が開発に取り組んでいる統合開発環境「Microsoft Visual Studio 11」(開発コード、以下「Visual Studio 11」)に関する製品説明会を開催した。Visual Studio 11は、マイクロソフトが継続して提供してきたVisual Studioシリーズの次期バージョンに当たり、現在はベータ版が公開されている

 説明会ではリリース時期などの具体的なロードマップは明らかにならなかったが、同製品の戦略的な位置付けや強化ポイントなどが紹介された。

いま、開発者に求められていること

 日本マイクロソフト デベロッパー&プラットフォーム統括本部 開発ツール製品部長の伊藤信博氏は、現在のIT市場を取り巻く状況として、次のような要素が強く求められていると指摘する。

  • 魅力的なアプリケーション
  • 継続的なサービスの提供
  • 柔軟なプラットフォーム対応

 そして、この要求に対応していくためには、仕様に沿って要件定義を行ったうえで開発を進める従来型の手法がマッチしないケースもあると続ける。開発者には、変化の速いITのトレンドを確実に取り入れ、なおかつ高い生産性と品質を保持しながら、市場のニーズに合ったアプリケーションを開発することが求められている。Visual Studio 11では、そのことを強く意識し、開発者のニーズに応える新しい開発サイクルを提供するとのこと。

ALT 日本マイクロソフト デベロッパー&プラットフォーム統括本部 開発ツール製品部長 伊藤信博氏

 伊藤氏は、「Visual Studioは、これまでも時代に即した進化を遂げながら最高のユーザーエクスペリエンスを提供してきた。だからこそ、Visual Studio 11でも新発想のアプリケーション開発環境によって、開発者の皆さまに最高の体験を提供できると信じている」と語っている。

 伊藤氏は、Visual Studio 11の主な強化ポイントとして、以下の3つを挙げた。

  • アプリケーション開発者の期待に応える
  • 無駄を省いて開発に注力できる
  • 俊敏性の高いコラボレーション

 この3つのポイントに沿ったVisual Studio 11の新機能について、デベロッパー&プラットフォーム統括本部 開発ツール製品部 エバンジェリストの長沢智治氏がデモを交えながら紹介した。

アプリケーション開発者の期待に応える

 長沢氏によれば、Visual Studio 11は開発者のあらゆるニーズに対応することを目指して開発が進められているという。例えば、昨今では開発の対象としなければならないプラットフォームが非常に多岐にわたっている。マイクロソフトが提供するプラットフォームだけでも、次のようにさまざまなタイプのアプリケーションを考えなければならない。

  • デスクトップアプリケーション
  • DirectXベースのアプリケーションやゲーム
  • Webアプリケーション
  • Metroスタイルアプリケーション
  • .NET Framework 4.5サーバアプリケーション
  • Windows Azureアプリケーション
  • SharePointアプリケーション

 Visual Studio 11であれば、これらすべてのアプリケーションの開発に対応できる。それに加えて、レガシーな業務用システムの開発にも対応するために、.NET Framework 2.0以降のすべてのバージョンの.NET Frameworkをサポートするという。

 さらなる品質の向上もアプリケーション開発者に求められる要素の1つである。そこでVisual Studio 11では、従来の独自の単体テストフレームワークに加えて、オープンソースのNUnitをはじめとするxUnit系や、jQuery/JavaScript用のQUnitなどサードパーティ製のフレームワークもアダプタ経由で利用できるようにしたとのこと。複数のフレームワークを混在させて使うこともできるという。

無駄を省いて注力できる開発環境

 「長い歴史を持つVisual Studioは十分に成熟した開発環境といえる。しかし、いま求められていることに完全に対応できているかということは、常に自問しなければならない」と、長沢氏は語る。そして、いま求められていることは、“より優れた開発体験”ではないかと続ける。

 そこでVisual Studio 11は、「無駄を省く」「シンプル」「使い勝手」「フィードバック」という4つのキーワードを中心として、より開発体験を高められるように改善されているとのこと。長沢氏は、その主要なポイントとして、次のような機能をデモによって紹介した。

  • UI全体がよりシンプルに
  • その時点での「関心事」に焦点を当て、関係のある部分だけ見ることができる(その部分だけを独立したウィンドウで表示することも可能)
  • 1つのIDEで、同時に複数のインスタンスを持たせることができる
  • マルチモニタ環境で、異なるプロジェクトを同時に見ることが可能に
  • 検索が使いやすくなり、検索精度も向上
  • 作業の履歴保持機能
  • 作業対象のタブを直感的に選択できる

俊敏性の高いコラボレーション

 チームで開発を進めていくためには、デザイナや開発者、テスター、マネージャなどのコミュニケーションをどう確保するかが課題となる。これをサポートするために、マイクロソフトはVisual Studio 2005から「Team Foundation Server」を、そのファミリに加えている。Visual Studio 11では、これにさらなる改良を加え、開発者の直感的な操作によってコラボレーションできるようにするという。

 そのための中心となるのが「担当作業」ウィンドウである。チーム開発では、開発者は自分の作業がチーム全体にとって、どういう状況に置かれているのかを常に把握していなければならない。Visual Studio 11では、担当する作業や関連タスク、それらの進行状況などを一覧で確認できる。作業に対して必要な工数の見積もりや、チーム内にどの程度の余力があるのかなども確認できるようになっている。

Visual Studio 11 Betaの「担当作業」ウィンドウ Visual Studio 11の「担当作業」ウィンドウ

 さらに、現在の作業を一時“中断”する機能も備わっている。これは、割り込みで別の作業が発生した場合などに、現在の作業の状態を一時保存して、別の作業に専念できるというもの。元の作業を再開する際には、ソースコードやIDEのUIが、中断前とまったく同じ形で再現される。このように、Visual Studio 11では「そのときにやるべき作業に対して、フレキシブルに対応できる」(長沢氏)とのことである。

 テストマネージャとの連携も強力にサポートされるという。Visual Studio 11では、テストの計画や実績、分析などに必要な情報がすべて「コラボレーションマネージャー」の中に格納されており、チーム全体で共有できるようになっている。そしてテスターは、テスト時に実施した操作から、直接バグレポートやテストコードを作成できる。さらに、操作時のビデオキャプチャも自動で保存される。

 昨今のアプリケーション開発は、「製品をリリースしたら、それで完了」というわけではない。リリース後も、新しい要件を取り入れて、製品の改善につなげていかなければならない。そのような継続的な価値の提供をサポートしている点も、Visual Studio 11の大きな強みだ。

 例えば、Visual Studio 11のフィードバックツールは、開発チーム内だけではなく顧客とのコラボレーションも効果的にサポートするという。具体的には、開発者が作成したプロトタイプをいち早く顧客に使ってもらい、そのレビューをスクリーンショットやビデオ/音声キャプチャと合わせて収集できるようになっている。このような製品のライフサイクル全体をつなげる機能の提供によって、「開発者、テスター、お客さまを含めたコラボレーションを促進できる」(長沢氏)とのことだ。

Windows Developer Daysでの最新情報に期待

 前述のように、Visual Studio 11は現在ベータ版が公開されている段階である。その製品構成は下図のようになっている。

Visual Studio 11 Betaの製品構成 Visual Studio 11 Betaの製品構成

 また、個人や特定プラットフォーム向けの小規模開発を対象として、下図のような機能制限付きの無償版も提供される。無償版については、従来は開発言語別に提供されていたが、Visual Studio 11 Betaでは、Windows 8のメトロスタイルアプリケーション開発を対象とした製品と、Webアプリケーション開発を対象とした製品という形態になっている。

Visual Studio 11 Beta 無償版の製品構成 Visual Studio 11 Beta 無償版の製品構成

 日本マイクロソフト 執行役 デベロッパー&プラットフォーム統括本部長の大場章弘氏は、説明会の最後に次のように語った。

 「Visual Studio 11は単なるIDEとしてだけではなく、さまざまな拡張が行われている。それに加えて、マイクロソフトでは開発者を非常に大切に考えており、今後もオンライン/オフライン問わず、さまざまな施策を提供することで、開発者の方々を積極的にサポートしていく。具体的には、オンラインでは日本語による技術情報の提供を強化している。MSDNライブラリでは、すでにWindows Phone情報の日本語化率95%を超えているが、Windows 8でも同等以上の対応を目指す。オフラインでも、各種イベントやキャンペーンを積極的に行っていく予定だ」

 そのイベントの1つが、4月25日、26日に開催される。開発者向け技術イベント「Windows Developer Days」だ。今年のWindows Developer DaysはWindows 8に関する日本初の公式イベントに当たり、Windows 8およびVisual Studio 11に関する開発者向けの最新情報が公開される予定とのことだ。

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(有限会社オングス 杉山貴章)

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