ヴイエムウェアCTOに聞いた

NiciraはどこまでVMwareから独立でいられるのか

2012/07/25

 ヴイエムウェアCTOのスティーブ・ハロッド(Steve Herrod)氏は7月25日、アジア太平洋地域のジャーナリスト向けにNicira Networks買収について説明。10億ドルという買収金額は、ヴイエムウェアによる買収で過去最大であり、同社の戦略にとっての重要さを示していると話した。私の質問とハロッド氏の答えは次のとおり。

―― Niciraのオペレーションはどれくらい独立性が保たれるのか。もちろん、「独立性が高いほうが望ましい」というのがこの質問の前提だ。

 「ヴイエムウェアとしては非常に迅速に行動するということが重要だと考えている。このグループ(Nicira)はわれわれが最大限に迅速に行動することを可能にしてくれる。VMware以外のプラットフォームでも(VMwareと)同じように動作することは重要だ。買収が完了するまで、組織的な体制については発表しない」

―― NVPが独立した製品として提供され続けるのか、DynamicOpsやその他の管理製品とバンドルされることになるのかも言えないということか。

 「それについても、買収完了まで発表できない。VMworldまでに買収が完了し、当社の計画を共有できるようになると期待している。あなたはDynamicOpsについてふれたが、こちらはクラウドオーケストレーションに関するものながら、もう1つの面白い買収だといえる。この2つはどちらも、当社が今後進む方向を非常によく示していると思う。どちらも当社のSoftware Defined Datacenter戦略にとって非常に重要な要素だ。どちらもマルチクラウド環境で動作する。この2つにCloud Foundryを加えた3つはすべて、当社のマルチクラウド・サポート戦略の一部だ」

―― では、質問の表現を変えて聞きたい。あなた自身は、Niciraが少なくともヴイエムウェアからできるだけ独立しているように「見せる」ことが重要だと考えているか。Niciraはこれまで、VMwareを使うことにあまり興味のない人たちと一緒に活動してきた。

 「Niciraの主要顧客はすべて、ヴイエムウェアの顧客でもある。日本のNTTにしても、AT&T、Rackspace、eBayにしても、大規模なVMwareのリソースプールを持っている。もちろんあなたが言うように、VMware以外のプールも持っている。外見だけでなく、実際にVMware以外のハイパーバイザ環境のサポートについて、かなりの投資をしていかなければならないと思う。ただし、当社はこれまでこの点で、大きな成功を収めてきた。特に私が気に入っているのはオープンなPaaSであるCloud Foundryだ。vSphere上だけでなくAmazonやHyper-Vの上でも良好に動作することを証明してきた。DynamicOpsやそのほかのいくつかのプロジェクトについても、同様な証明をしていきたい。当社はうまくやれるようになってきているし、どんな環境でも同様にうまく動くと認識してもらうこと、そして実際にこれを実現できるように投資していくことが重要だと考えている。私はあなたに完全に同意する。(NiciraのNVPは)たしかにVMware以外の環境で使われているし、当社はこれに完全に対応し、引き続き素晴らしい存在であり続けられるように努力していく」

nicira01.jpg NiciraのNVPはVMware ESXへの対応も進められているが、Open vSwitchを通じたKVMなどとの連携が大きな特徴となっている。OpenStackのQuantumプロジェクトでの活動も同社にとって重要だ

 今回の質問では引き出しきれていないが、今後もVMware vSphere中心の世界だけでいいとヴイエムウェアが考えているのであれば、DynamicOpsの買収もNiciraの買収も不要だ。なぜならヴイエムウェアは、まがりなりにもvSphereベースのクラウドオーケストレーションの仕組みをすでに持っており、クラウドネットワーキングについても、vSphereの仮想スイッチにVXLANプロトコルを実装することで(接続管理を含めて使いものになるかは別として)、Niciraがやっているようなことを実現できるからだ。ヴイエムウェアがDynamicOpsとNiciraを買収したのは、異種のクラウド基盤を使った多様なパブリッククラウドサービスやプライベートクラウドが混在する今後の世界を前提とし、相互を接続して、それぞれのユーザー組織に専用の仮想的なデータセンターとしてまとめ上げる技術を、新たな事業分野として積極的に考えていることを意味していると解釈できる。

 そうであるならば、Niciraの製品であるNVPについては、現在とは異なる展開の仕方が考えられる。これまでNiciraは、NVPを主にクラウドサービス事業者に対して訴求してきた。しかし、将来企業が自社のデータセンター(プライベートクラウド)と、1つあるいは複数のパブリッククラウドサービス上に構築した自社用の仮想プライベートセグメントを臨機応変につなげて仮想データセンターを構築するようになったとき、NVPのコントローラによるITリソース間VPNの接続ポリシー管理は、ユーザー企業側で行いたい、というニーズが高まるはずだ。つまり、NVPの将来の主要ユーザーは、クラウドサービス事業者ではなく、クラウドサービスを使いこなす企業だということになるだろう。

 これまで語られてきたハイブリッドクラウドのイメージは、企業の社内データセンターと、「単一の」クラウドサービス事業者との間での役割分担だ。しかし、ハイブリッドクラウドを本当に構築しやすいものにするためには、利用するクラウドサービスを自由に選択し、場合によっては複数同時に利用して、一貫した方法で社内インフラの一部として取り込めるようにすること、そして何よりも、ユーザーである企業側がこのハイブリッドインフラを「コントロール」できるようにすることが求められるのではないか。ヴイエムウェアのいう「Software Defined Datacenter」の詳細についてはまだ説明されていないが、この言葉で同社が目指すもの、そしてNiciraの買収の目的も、ここにあるのではないだろうか。

(@IT 三木泉)

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