[Analysis]

Yahoo! Pipesとニコニコ動画の割り切り

2007/02/19

新しい技術やサービスが次々に登場し、技術者はうれしかったり、戸惑ったり。目新しさばかりに注目してしまいますが、その技術やサービスが登場した背景にはどんな意味や文脈があるのでしょうか? IT業界で幅広い経験を持つ酒井裕司氏がITのいまと今後を解説します。

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 「Yahoo! Pipes」の出来栄えがなかなかイイ。

 ちょうど数週間前にサイボウズラボの某氏とJapanizePlaggerに関する話をしつつ、「コンシューマージェネレイテッドテンプレート」みたいな、Plaggerよりもっとライトなユーザーが仕組みを作れるコンテンツとプログラミングの中間段階のマッシュアップ環境が出来たらおもしろいよねと話していたこともあり、Pipesを見たときは「そーそー、こんな感じよ。考えることは一緒だなぁ」といたく感じ入ったものである。

 某氏との会話では、Simile Projectを引き合いに出しつつ「アメリカ人は、ユーザーインターフェイス(UI)のベーシックな作り込みやるんだよね」などと話していたのだが、まさにPipesのAjaxを使ったUIの完成度は秀逸である。

 さて、ここからが本題。Pipesでやっていることが新しいのかというとそんなことはない。モデルベースのプログラミングツールの世界では見慣れた機能、UIだ。

「こんなの昔からあるよ」

 特にインターネットの大衆化が進展して以来、流行ネットサービスのほとんどはいつか見た仕組みの焼き直しだ。掲示板システムの流行、ブログ、ソーシャルネットワーク、音楽配信、動画配信。XHTML/HTMLだって、SGMLの拡張と称した簡略化に過ぎない。

 実はこれはいまに始まったわけではなく、1980年代にパーソナルコンピュータが普及し大衆化が始まって以来、一貫したトレンドなのだ。プロから見れば「昔からあるよ」だが、大衆化の過程で新しく触れるユーザーにとっては画期的なのだ。そして、ここが一番重要なのだが、そうしたデジャブ技術の普及のポイントは、昔、そしてプロユースの時には問題にならなかったような障害の克服だということである。

 「昔からあるよ」と指摘するプロが気がつかないポイント。それは、新たに対象としたいユーザーに向けた徹底的なUIの改善と簡略化、そして環境の制約の克服である。

 末端ユーザーを対象にするほど環境の制約は大きく、また、低いスキルレベルは、より明快なUIを要求する。ここが難しい。Ajaxの普及も、クライアントブラウザのスクリプト実行速度の向上と、スクリプト転送が障害にならないブロードバンドの進展の結果だ。そして、その上で普及を決定づけるユーザーレベルに合わせたシンプルUI。この割り切りを技術者はなかなか決断することが出来ない。

割り切りが普及の明暗分ける

 一昨年のIPA 未踏ソフトウェア創造事業で、「www.synvie.net」というビデオにコメントによるツッコミを入れるプロジェクトを指導したのだが、それもニコニコ動画(丁寧に謝辞が載っている)が出てから反省してみると、デフォルトで動画視聴の邪魔になる画面にコメントを流し、テキスト入力自体がコンテンツの改変の効果を産んでいるところに、ニコニコ動画が受けた理由がありそうだ。

 アカデミックなコンセプトを継承しながら、この最後のところで踏ん切る割り切り、ここが普及の明暗を分けるところだろう。正直、あそこまでの簡略化はIPAの枠内では踏み切れなかったと思う。

 さて、そうした視点からPipesに不満があるとすれば、それがAjaxとしてはよくできており、プログラマーにとっては見ればすぐに理解出来る仕組みなのだが、大衆化という視点からみると、もう一段低レベルの仕組みがあればなぁ、というポイントにつきる。

 願わくば、Pipesをヒントにして日本からそうした仕組みが出てくれればおもしろいのだがなぁ。

(イグナイトジャパン ジェネラルパートナー 酒井裕司)

[著者略歴]

学生時代からプロエンジニアとしてCG/CADのソフトウェア制作に関わり、その後ロータスデベロップメントにて、1-2-3/Windows、1-2-3/Mac、Approach、Improveの日本語版開発マネージメント、後に本社にてロータスノーツの国際化開発マネージメントを担当後、畑違いのベンチャーキャピタル業界に転職した異色のベンチャーキャピタリスト。2005、2006年度 IPA 未踏ソフトウェア創造事業のプロジェクトマネージャ



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