[Analysis]

グーグルも触手、急進するバイオメトリクス技術

2007/06/18

 アメリカ国立標準技術研究所(NIST)が発表した顔認証技術のベンダテストリポート「FRVT 2006 and ICE 2006」 が興味深い。

 バイオメトリクスではFAR(False Acceptance Rate:他人受け入れ率)とFRR(False Rejection Rate:本人拒否率)を指標として用いる。一般に両者は背反の関係にあるからだ。2002年の結果に比べると2006年はFRRの精度が20倍に上がっている。レポートによれば、従来の骨格に依存した顔面認証に加え、画像での光線の当たり方の補正や、皮膚の表面の特徴の活用により、顔認証技術は近年急速に進展しているという。すでに複数ベンダの製品で人間の識別率を上回る成績を残す顔認証技術もあり、人間には難しい双子の識別すら可能になっているようだ(レポート[PDF]はこちら)。

 グーグルによるNeven Visionの買収など、バイオメトリクスの注目が高まっていることもあり、今後数年で検索技術への利用も含めた応用事例が急増するかもしれない。

中期目標設定が巧妙な米国系機関

 こうした顔認証技術の急速な進展の背景としては、911テロ以後の米国政府系機関におけるニーズの高まりや、計算速度の向上がある。加えてNISTによるFRGC (Face Recognition Grand Challenge)プログラムの後押しも大きい。米国は、少し後押しすれば商業化に手が届く技術に対して、妥当な目標設定をし、オープン参加形式で行うコンテストのマネージメントがうまいように思う。

 NIST自身、しばしば、ニーズの高いセキュリティ技術に対する公募コンテストを開催している。DESの後継としてのAES(Advanced Encryption Standard)では、ベルギーの大学の技術が採用され、現在は新ハッシュ関数の公募が行われている。

 このほかにもDARPAによる自動走行ロボットを対象としたGround Challengeや、「Space Ship One」が優勝した民間の有人宇宙飛行コンテスト「Ansari X PRIZE」(X Prize Foundationが運営)など、どれも技術的に適度な困難性を持ちながら、決して不可能ではなく実用性も兼ね備えている目標が設定されているコンテストがある。

 最も重要なのは、こうした技術はニーズがあり、必要とされている点に出発点を置いていることだ。

標準化後に加速する日本のリーダーシップ

 対して、日本のIT政策は「海外で流行っている標準をいち早く普及」という形を採ることが多い。過去で言えば、CALS/EC、SGML、SIPSのほか、ADSLにみられるブロードバンド政策などだ。どれも米国で流行っているといわれていて、国内での取り組みが急に活発化したという経緯を持つ。特にSIPS、CALSのようにアメリカで流行っているといわれながら、アメリカでは実際はあまり聞かれなかったブームすらあったほどだ。

 最近でいえば世界でいち早く義務化に踏み切るといわれている金融庁による公開企業の財務データ開示のXBRL化(参考PDF)がその典型だろう。

 すでに決まっているものを率先して普及させるより、必要だけどないものを作り出した方が世の中は進歩する。日本もイノベーション立国を標榜するのであれば、ブランド志向の標準主義から脱却して、必要でまだ存在しないものを作るという原点に回帰するべきではないのだろうか。

(イグナイトジャパン ジェネラルパートナー 酒井裕司)

[著者略歴]

学生時代からプロエンジニアとしてCG/CADのソフトウェア制作に関わり、その後ロータスデベロップメントにて、1-2-3/Windows、1-2-3/Mac、Approach、Improveの日本語版開発マネージメント、後に本社にてロータスノーツの国際化開発マネージメントを担当後、畑違いのベンチャーキャピタル業界に転職した異色のベンチャーキャピタリスト。2005、 2006年度 IPA 未踏ソフトウェア創造事業のプロジェクトマネージャ



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