[Analysis]

「Amazon Kindle」が革命的な理由

2007/12/18

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 「Bluetooth」という規格がある。チップコストを低減できる単純な通信方式によって微弱電波を用いた近距離通信を行い、通信デバイスやパソコンと各種デバイスを無線接続するための規格だ。煩わしい配線なしにキーボードやヘッドセットが接続できるわけで、これは便利そうだ。

 そんな理由から1999年の仕様書ver1.0の発表以来、私はことあるごとにBluetoothに基づいた各種デバイスを自腹で購入してきたわけだが、これが苦難の連続だった。便利にするはずの道具を購入しては、結局苦労するというITにありがちな結果になった。

 原因は明確である。アプリケーションレイヤでの相互接続やセキュリティ設定など、単純な機能のために越えるべきハードルが複雑すぎるのだ。私はキーボード、マウスなどで無線方式の製品を利用しているがBluetooth対応ではない。Bluetoothでない製品の方がはるかに安く、使い勝手がよく、電池が持つのである。エンジニアであれば熟知しているように、汎用性を高めて再利用性によるコストの低減を図るより、利用目的を限定してシンプルにする方がコストも使い勝手も高められるということである。

 複雑性を排除し、シンプルにするというこの視点は、コンシューマのユーザー層を拡大するためには極めて重要である。

特化型通信デバイス「Amazon Kindle」

 そうした観点から成り行きを注目している製品の1つがAmazonの電子ブックリーダー「Kindle」である。電子ブックの領域は、過去、国内ではソニーや松下電器産業が参入しながらも、なかなか立ち上がらなかった。提供されるコンテンツ自体が貧弱であったという問題もあった。しかし、最近の携帯小説のブームを見るとき、初期コンテンツの品揃え以上に、デバイスによるコンテンツ閲覧習慣を付けさせることに課題があったと思われる。つまり閲覧までの操作があまりに複雑だったのだ。

 Kindleは「EV-DO」、つまり携帯データ通信をサポートしており、PC経由のダウンロードなどの面倒な手順が不要。9万件以上といわれる豊富なコンテンツをKindleだけで閲覧可能なのだ。このシンプルさにより、利用意欲が高まり、電子ブック市場を立ち上げるのではないかと期待されているのだ。

Kindleが示唆する通信ビジネスの今後

 通信ビジネスの観点から見ても、Kindleは注目される。Kindleでは通信内容がアプリケーションレベルで決まっているためにセキュリティもシンプルにでき、事業者側からのトラフィック制御も容易だ。

 また通常の端末がヒトに紐付けられているのに対して、Kindleでは、サービスそのものから料金を徴収する。基本料を課金せず、さらに通信料がコンテンツ利用料に含まれているため、ユーザーに対して隠蔽(いんぺい)されていることも魅力だ。データ量当たりの販売価格が高い書籍データを扱うために可能になる手法である。

 次世代の通信方式によって帯域の利用効率は今後向上すると思われる。帯域利用の低価格化はさまざまなサービスを拡大する。現在、GSMのチップコストは数ドルのレンジまで下がっている。次世代無線機能の搭載コストも次第に下がっていくであろう。もしかしたら、次世代の「Wii」や「ニンテンドーDS」が出る頃には、年数ドル程度で低速な基本常時接続が可能になっているかもしれない。そうなれば、現在のWi-Fiにまつわる面倒な設定や知識が不要になり、ソフトを差し込むだけで友達と通信ゲームができるようになるかもしれない。画期的なことである。

 はたしてKindleは、個人が多様な無線デバイスを持つはしりとなるのであろうか? 米国市場での立ち上がりには要注目である。

(イグナイトジャパン ジェネラルパートナー 酒井裕司)

[著者略歴]

学生時代からプロエンジニアとしてCG/CADのソフトウェア制作に関わり、その後ロータスデベロップメントにて、1-2-3/Windows、1 -2-3/Mac、Approach、Improveの日本語版開発マネージメント、後に本社にてロータスノーツの国際化開発マネージメントを担当後、畑違いのベンチャーキャピタル業界に転職した異色のベンチャーキャピタリスト。2005、2006年度 IPA 未踏ソフトウェア創造事業のプロジェクトマネージャ



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