Analysis

2人の新任社長とパートナービジネス

2008/06/09

 管弦楽の演奏が行われる中、ホテルニューオータニ「鶴の間」に集った人々の視線は緊張の中でも笑顔を絶やさぬ新任社長に注がれていた。いまのIT企業が主催する社長就任パーティの部類では最大だろう。集まった1000人の中には国内、外資を問わずトップエグゼクティブの顔が目立った。日本オラクルの新任社長 遠藤隆雄氏は視線の中で「クロス・カンパニーのチームワークで顧客に最大の価値を提供したい」と抱負を述べた。

 オラクルのパートナー企業が多く集まった場所だけに当然と言えば当然の発言だが、改めてこう発言することはオラクルの現状を現している。米オラクルは2005年以降、40社あまりを買収してきた。日本オラクルは買収した製品を順次、投入。もしくは米オラクルの100%子会社である日本オラクルインフォメーションシステムズ(OIS)に買収企業の日本法人を統合し、一体的にビジネスを展開している。日本BEAシステムズもすでにOISと共に動いている。

 急激に拡大する米オラクルの影に恐れを感じるパートナー企業があってもおかしくはないだろう。買収製品によってこれまで日本で取り扱いがなかった製品が国内に紹介され、パートナーを潤すことは十分に考えられる。しかし、寡占ともいえる米オラクルの膨張を見ていると、国内のパートナービジネスとの齟齬を心配してしまう。「パートナーとはきわめてよい関係」(遠藤氏)という日本の状況を考慮して、米オラクルは買収戦略を組み立てているのだろうか。遠藤氏自身は「パートナーと成功を共有したい」と語る「熱血漢で涙もろい」(遠藤氏の日本IBM時代の先輩、倉重英樹氏)人物だ。今後、日本独自の戦略でパートナーを巻き込みながら、突き進む姿が見られる、と思っている。

 パーティには多くの耳目を集めた人物も参加していた。同じく今年、外資系企業の社長に就任したマイクロソフトの代表執行役 社長 樋口泰行氏。マイクロソフトもパートナーの存在によって成り立っている企業だ。売り上げの98%はパートナー経由といい、樋口氏は過去に「パートナー様の協力がマイクロソフトのビジネスの基礎」とも訴えている。7月に発表する予定のマイクロソフトの新年度事業方針でもパートナーとの協業が強調されることだろう。

 ただ、マイクロソフトも従来のパートナービジネスを考え直す時期にきているのではないだろうか。同社が進める「ソフトウェア+サービス」(S+S)戦略はこれまでのパートナーとの既存ビジネスを破壊しかねないし、ビジネスを破壊しないのなら、S+Sの存在意義はないだろう。マイクロソフトはS+Sのプラットフォームを構築し、そのうえでパートナーがビジネス展開できるようにしている。同社CEOのスティーブ・バルマー氏は昨年11月の講演で「マイクロソフトの製品、サービスを売ってくれた場合、S+Sでもマージンを得られるようにする」と語った。しかし、S+Sが成功した場合、マイクロソフト製品の再販、導入、カスタマイズ、サポートを行うパートナー各社はビジネスの転換を求められるだろう。

(@IT 垣内郁栄)

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