SaaSの国内覇権はどこが握るのか[Analysis]

» 2008年06月23日 00時00分 公開
[大津心,@IT]

 日本のSaaS市場が白熱してきている。経済産業省や総務省がガイドラインを策定し、支援を開始したことに加え、国内ベンダも続々とSaaSを開始している。2007年9月には日本郵政公社がSalesforce.comを4万5000ライセンス購入し、SaaSとして世界最大級のユーザーになったことが話題となった。今回は国内のSaaS・PaaS事情を考えてみる。

 SaaS市場をけん引しているのは、間違いなく米セールスフォース・ドットコムだろう。SaaS市場を作り出した功績は大きい。ただし、SaaSに限ったことではないが、米国市場の方が日本市場よりも数年ほど進んでいると感じる。例えば、Salesforce.comは米国ではSaaSからPaaS(Platform as a Service)へのシフトが進んでいるが、日本ではまだまだPaaSは聞きなれない言葉だ。しかし、このPaaSこそがSaaS市場において大きな役割を担うと思う。

 セールスフォース・ドットコムは、2005年9月にSaaS上でソフトウェアのマーケットプレイスとなる「AppExchange」を発表し、2006年1月にスタートさせた。AppExchangeは、SaaS版eBayやAmazonといった感じで、各ベンダが用意しているアプリケーションをユーザーが探し、気に入ったら購入する。まさにオンデマンドで必要な機能だけを利用できる点が大きい。多くのアプリケーションにお試し期間があるので、気に入らなければ課金前にやめることもできる。2007年9月にはオンデマンドプラットフォーム「force.com」を発表している。

 このAppExchangeやforce.comによって、Salesforce.comのユーザーは欲しい機能を手に入れやすくなり、アプリケーションベンダはビジネスチャンスが増え、Salesforce.comはユーザーとアプリケーションベンダの両方を囲い込め、Win-Win-Winの関係が築けている。特にSalesforce.comは囲い込みを意識し、PaaS市場のシェア獲得を目指していると思われる。実際米国のセールスフォース・ドットコムは、自社向けの開発言語や開発環境の提供、開発オフィスの提供まで行い、さまざまなアプリケーションベンダ囲い込み策を実施しており、現在AppExchange上では800以上のアプリケーションが提供されている。

 このように米国では着々とPaaS市場が形成されてきているが、日本はまだ始まったばかりという印象だ。米国が2006年1月スタートなので、2年以上遅れている。実際、AppExchangeの日本語サイトを見ると、アプリケーション提供数が米国よりもかなり少ない。しかし、日本における昨今のSaaS熱の高まりに伴い、国内各社もPaaSへの取り組みを発表し始めた。例えば、6月にはNECがSaaS支援サービスを開始したほか、日本ユニシスはPaaS事業を早急に開始すると発表している。

 特にSIerでもある日本ユニシスは、「SaaSの広がりでSIerとしての仕事が減る可能性がある。その打開策として、自社でPaaSを手掛け、攻めの姿勢を打ち出した」との見解を示している。日本でのPaaS市場は、まだまだこれからの状況だ。現時点では、やはりSalesforce.comが一歩リードの状況だが、早急にプラットフォームを立ち上げ、ユーザーやベンダを囲い込めば、逆転もまだまだ十分あり得るだろう。

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