[Analysis]

ITベンチャー投資も博打ではなくなる

2010/04/23

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 2009年度の日本国内IPOは20社にまで減少した。ピークである2000年に比べると実に10分の1であり、ここ20年でも最低水準だ。ベンチャー投資はこのまま衰退してしまうのだろうか?

公開しないベンチャー

 さて、元来5社に1社といわれているベンチャー投資の成功率だが、ファンド運営の立場から見ると、実は重要なのは成功した会社以外の、ほどほどな会社の売却である。

 手間暇をかける育成型ベンチャー投資の場合、1人あたり担当できる案件の数が限られる。そこで、5社を担当し、5年程度で成功した1社の価値が5倍以上になり、1社が破たんしたとしよう。そうすると、その他の案件が投資価値と同程度で売却できて初めて、ファンド全体の年間利回りは10%を超える。出資者である機関投資家からみてリスクのあるベンチャー投資は、この利回りを安定的に出せることが資金を集める最低ラインである。ところが、日本市場においては、IPOしないテクノロジベンチャーの売却は難しい。

安定した米国ベンチャーM&A

 翻ってベンチャー投資が盛んな米国における、2009年度の統計(National Venture Capitalistが公開している資料)をみると、IPO数12社に対して、M&A数は271社に上る。つまり、米国のベンチャーファンドにとって、実はM&Aを通じた企業売却がメインの手段なのだ。

 この数値は年度によって異なるが、通例、IPOを達成した会社の3から10倍の数の会社が未公開の状態で他社に売却されていることになる。米国市場の場合、M&Aを通じた売却にも大成功案件が含まれはするが、こうした活発な中途売却が米国のベンチャー投資を支えているのだ。

 なにより株式市場の好不況の影響が少ない安定した売却先の存在は、ファンドの設立と継続的な運用を容易にする。そして、分野に精通した事業会社を主要な売却先とすることは“仕入れ”、つまり投資対象の選別にも影響を与える。

 どの会社がどんな技術を買いたがっているかという、買い手をイメージした投資は見通しが付けやすく、不確実性の高いマーケットリスクを避けたテクノロジビジネスやR&Dの動向に沿った投資は結果として安定な売却益をもたらす。これにより技術主体の投資も可能になってくるからである。

新興市場頼りの国内ベンチャー投資

 これに対して、日本国内の場合、テクノロジベンチャーの売却は、新興市場でのIPOに依存している。

 新興市場は機関投資家の参加が限定的であり、売買主体はほとんど個人投資家である。このことは、複数の理由により、技術系ベンチャーファンド主体の企業育成を困難にする。

  1. 「値がさ株」化するかどうかが高い利回りの決め手となるため「初物」や流行り物(今ならiPhone銘柄)、あるいは、著名な経営者の会社に投資が集中する
  2. 売却機会はIPO時の一時期に集中し、その間に処分できる株数には限界があるため、マイナー出資、小口分散投資が主流となりやすい。公開後も、薄い商いの時期が長期に続いた後に突発的な“材料”で高騰したり急落する。このため機関投資家も長期、ブロック所有をしたがらない。このため長期にわたって、安定的に資金を提供することは難しく、調達可能な資金にも限界ができる。
  3. R&Dを主体とした投資ではなく、売り上げを作りやすい日銭ビジネスに投資が傾斜する。

 ファンド成績は、市場での流行と好不況に大きく左右され、長期的な技術/ビジネス動向に従った投資は成立しにくく、売り上げ成長率の高い時々の流行サービス分野に傾斜することとなる。

ベンチャーを買わない大企業

 最近は、国内大企業もM&Aを盛んに行うようになってきている。しかし、現時点でも国内で開発型ベンチャーを買う企業は稀である。そもそも、国内に魅力的な開発型ベンチャーが育成されておらず少ないこともあるが、具体的な案件を交渉してみるとよく分かることなのだが、たいていの大企業は、似たような研究開発や事業を、すでに行っているのだ。

 解雇が容易ではない日本企業は、過剰な人員を養うために、採算性の低い事業や開発を多く抱えている。そうした企業体が、競合する外部ベンチャーを買うことは内部での軋轢を生む。「優秀な我が社の社員が取り組んで苦労しているのに、ベンチャーのよそ者にできるのか、買収などけしからん」というわけである。なにより、昨今の弱っている大企業にとっては、事業を買うことより、内部の非効率性をナントカする優先順位の方が高いのだ。

ベンチャーが買うベンチャー

 それでは、我が国のベンチャー投資には展望はないのかというとそんなことはない。

 少し前に関わっていたファンドでは、投資した案件のうち3分の1のIPOを達成していたのだが残りの担当案件の多くは未公開段階での売却ができている。買い手は、実は公開を達成した別のベンチャー企業である。

 公開したベンチャーも、ベンチャー故に、不足するものを自覚している会社が多い。また、ベンチャー故に、会社の買収や、「ヨソモノ」に対する抵抗感も少ない。今、ベンチャーを始めるのであれば、たとえばmixiや楽天、DeNAなどの企業が取得したがる分野を先行着手しておくことが、1つの安定的選択となりうるのである。

 2000年のITバブルでは、いかにもアヤシイ会社もIPOを達成し、新興市場は一種の賭博場の様相を呈した。しかし、少ないながらも、確実な収益モデルで成長を継続し旧来の大企業とは異なる文化を持つ一部の企業群を作り出してくれた。ようやく日本は、博打ではない、テクノロジベンチャー投資の準備ができてきたところなのだ。

(日本ソフトウェア投資 代表取締役社長 酒井裕司)

[著者略歴] 「大学在学中よりCADアプリケーションを作成し、ロータス株式会社にて 1-2-3/Windows、ノーツなどの国際開発マネージメントを担当。その後、ベンチャー投資分野に転身し、JAFCO、イグナイトジャパンジェネラルパートナーとして国内、米国での投資活動に従事。現在は日本ソフトウェア投資代表取締役社長

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