[コラム:Spencer F. Katt]
スロット・イン・ザ・ダークな物語

2004/6/8


 「ワイルドに行こう、だって?」。ほとんど無一文になった吾輩は、「ガートナー・アウトソーシング・サミット」が開催されていたロイ・ホテルの宣伝文句に当たり散らした。「こっちは家に帰ることさえままならないのに……」。

 吾輩は帰りの航空券を現金化して、ラスベガス滞在を延長し、少なくともブレークイーブンになることを目指して、スロットマシンに最後の望みをかけた。それにしても、吾輩が自暴自棄になってカジノに逃避したのは、ガートナーのセッション参加者による電子投票の結果に自信喪失したからだ。その投票というのは、海外アウトソーシングについて最も強く懸念することは何かを問うもので、回答の選択肢には「文化的な問題」や「国内産業の空洞化」に加え、仕事を海外に移転した企業に対する「メディアの否定的な報道」などがあった。そして人々が“最も重要ではない”と考えているのが、メディアの報道だった。

 しかし、てきぱきと動き回るカジノのカクテル・ウェートレスほど、すさんだ心を癒してくれる存在はない。が、彼女たちとジョークを交わす余裕すらない吾輩は、わき目も振らずスロットマシンに小銭を投入し続けた。ついに哀れなギャンブラーの命運が尽き果てようとしたとき、そのすばらしいアイデアが脳裏にひらめいたのだ。そうだ。編集者に電話して、コンピュータ・アソシエイツの年次ユーザー会を取材するためにラスベガスにとどまるべきだ、と説得すればいいじゃないか!

 「CAワールド」では、マイクロソフトのプラットフォーム戦略立案担当者で、社内のLinuxとオープンソースに関する主導的人物でもあるマーチン・テイラーが同社のシェアドソース・プログラムについて講演を行うことになっていた。絶対に面白いに違いない、と吾輩はにらんでいた。というのも、CAが自社の製品ラインにLinuxとオープンソースを取り込んだことで、レドモンドではひと騒動起きたからだ。

 「しかし、CAワールドを取材するとなると、あと1カ月はラスベガスにいなきゃなりませんね」と編集者は怒気を込めて指摘した。「でもね、CAは暫定CEOのケネス・クロンがサンジェイ・クマーを特別プロジェクト開発者にしたため、社内の開発部隊が大混乱に陥っているというウワサだ。それを調査する絶好のチャンスじゃないか」と吾輩が反撃すると、「そんなこと、ラスベガスでなくても調べられるでしょう」と彼は声を荒げた。「でもね、ビル・コズビーも講演するらしいよ」と吾輩はさらに食い下がったが、受話器の向こうには、通話が途絶したことを知らせるダイヤル音だけがむなしく響いていた。

 最後に残った数枚のコインをどのスロットマシンにくれてやろうかと考えあぐねていると、近くでビジネスマン2人が来週上海で開催される「サン・ネットワーク・カンファレンス」について話しているのが聞こえた。ほとんど無意識にコインを投入しながら、吾輩は彼らの話に耳をそばだてた。2人の情報によると、イベントでは大きなID管理技術の発表があり、その技術の下に、サンの8つの関連製品が3製品に統合されるらしい。

 非常に興味深い話ではあったが、その先はもう何も耳に入らなかった。スロットマシンに投入した最後の1枚のコインが、吾輩のひざの上におびただしい量のキャッシュとなって戻ってきたからだ。それはどう見積もっても、帰りの航空券を購入するのに十分な金額だった……。

 すぐにタクシーをつかまえ、マッカラン空港へ向かった吾輩のBlackBerryに、途中、ある情報屋からメッセージが届いた。それによると、JBossのCEOマーク・フルーリが、有名なJava関連サイトの掲示板に、匿名で、他社をバッシングする内容の宣伝くさいメッセージを投稿したとして、Javaやオープンソース陣営の人々から怒号のような非難を集めているらしい。そんなことでネット上の議論がうさんくさいものだと決めつけられないことを願うばかりだね。アマゾンの匿名のブックレビューのように。

*Spencer F. Kattのコラムは毎週月曜日(月曜日休日の場合は火曜日)の更新予定です

[英文記事]
A Slot in the Dark

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