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SOA基盤での社内情報インフラ再構築を目指す
eWork@CTCのチャレンジ

 伊藤忠テクノサイエンス株式会社(以下CTC)は、東京地区オフィスの千代田区霞が関の新本社オフィスへの統合を契機に、新しいオフィス・ワークスタイルを提供するプロジェクトを開始した。同プロジェクトのミッションの1つに、ビジネス環境の変化に柔軟に対応可能な新しい情報基盤の整備がある。同社はその整備にSOA(service-oriented architecture)を選択した。社内のビジネスプロセスを可視化し、基幹系も含めたシステム統合を目指す新たな取り組みが始まっている。

■社内基盤の整備にSOAの採用を決断

東京地区の主要オフィスを霞が関ビルに統合

 CTCは、グループ従業員3156名(2005年3月31日現在)を抱える業界大手のシステムインテグレータだ。同社は2004年10月から、東京地区のオフィス統合を実施、本社を千代田区霞が関に移転した。営業と技術者が一体となって活動できる組織体制を整えるとともに、同じオフィスとなることで、CTCグループが活性化する環境を目指した。

 オフィスの統合に加え、職場環境の整備を目指す「eWork@CTC(イーワーク・アット・シーティーシー)」プロジェクトは、社内の業務効率化の推進、顧客企業へのより良いサービスの提供を目的とした経営改革プロジェクトである。具体的には、セキュリティの強化、徹底した効率性の追求、顧客企業へのサービス向上をにらんだ環境整備などを行っている。eWork@CTCは全部で11のプロジェクトに分かれ、ファシリティとITの両方の整備が含まれる。ITに関しては、販売展開している製品を自社で使いこなすことで、顧客への提案力を強化することも目的としている。「4月に施行された個人情報保護法の遵守にとどまらず、情報漏えいの回避、コンプライアンスなど、企業の社会的責任は増大しています。CTCは、自らそれを実践して業界ナンバーワンのセキュリティを実現しお客さまの手本となりたい。堅牢なセキュリティ、業務効率化のノウハウをお客さまに自信をもって提供することを目標に掲げたのです」(同社 情報システム部 部長代行 小林雅弘氏)

情報システム部 部長代行 小林雅弘氏

 同プロジェクトにおいて、SOA基盤を採用したのは申請系のワークフローを整備する「eProcess」プロジェクトだ。同社は将来的には基幹系システムの見直しも含めた全社規模でのSOA基盤の採用をにらんでいる。まずはパイロットとして申請系ワークフローをSOA基盤の上に再構築することにした。

 SOAは、さまざまな業務で共有できる業務要素を“サービス”として切り出し、ビジネスプロセス上で再利用することで、複雑なIT環境をシンプルにし、システムの迅速、柔軟な再構築を可能にする基盤だ。SOAを採用するに至った理由について小林氏はこう語る。「社内業務を効率化し、お客様へより良いサービスを実現するには、例えば在庫管理と営業系のシステムのシームレスな連携をはかり、スピーディーな顧客対応を提供できる仕組みづくりが必要です。しかし、現状では、クライアント/サーバやWebアプリケーションなどの多様なシステムがばらばらに存在しているため、連携には相当な労力が必要です。すでに連携されているものでも、それぞれが1対多で接続されたいわゆるスパゲティ状態にあります。将来必ず起こる基幹系システムの見直しも含め、基幹系とその他のシステム間でシームレスな接続が実現でき、それによる業務効率向上とコスト削減が期待できるアーキテクチャとしてSOAを選択したのです」。

CRM/Web技術部 Web Platform技術グループ グループリーダー 川田聡氏

 申請系ワークフローは、SOAの効果が出やすい部分でもあった。「年に数回行われる組織変更に耐えうる柔軟なワークフローが要求されています。さらには既存のグループウェアや従業員にセルフサービスを提供するポータルとの連携も必要でした」(小林氏)

 eProcessプロジェクトは、情報システム部がプロジェクトオーナーとなり、設計と実装を同社 ITエンジニアリング室 CRM/Web技術部が担当、日本BEAシステムズ株式会社(以下BEA)がスーパーバイザーとなりスタートした。BEAを選んだ理由について、CRM/Web技術部 Web Platform技術グループ グループリーダー 川田聡氏は「同社がパートナーであることはもちろんですが、それ以上に先端のアーキテクチャであるSOAを今すぐに実現するのがBEAの製品であり、サービスであると評価したからです」と語る。

■POCを実施し手応えを得る

 本開発を開始するにあたって、事前にPOC(Proof Of Concept)が実施された。POC目的は第1にSOAのコンセプトを正しく理解し、SOAの設計手法を習得すること、第2には設計の中でSOAの有効性を確認することだ。そして第3には、実装基盤であるBEA WebLogic Integration 8.1J(以下WLI)に対する理解を深めることだった。POCは川田氏と、同グループ 折田和夫氏の2名で実施された。

 SOAへの理解は実際にサンプルアプリケーションを作成する中で深まったという。「当初、“SOAはフレームワークであるという”SOAに対する解釈の微妙なずれがありました。サンプルアプリケーションをBEAのコンサルティングサービスに評価いただき、SOAにおけるサービスとは何であるか、正しい考え方を理解していくことができたのです。2回にわたるプロトタイプ作成の中で、SOAにおけるサービス定義の実際や、BEA製品を使った開発のノウハウについて、理解と知識を高めることができました」(川田氏)。

CRM/Web技術部 Web Platform技術グループ 折田和夫氏

 ビジネスプロセスの可視化も大きな成果だ。「業務フローを可視化することで、サービスとして切り出す共通部分がよく見えてきます。しかしそれ以上に、可視化しておくことで、業務をプログラムの中に隠蔽してしまうのではなく、ビジネスプロセスを誰にも理解できるかたちで記述できたことが大きな成果です。これは将来の業務の変更に柔軟に対応するためにも重要なポイントです」と折田氏は語る。将来業務の一部を変更することになった際、部分的に差し替えるだけで変更に対応できるSOAのメリットは、ビジネスプロセスの可視化の作業を経てはじめて享受できる。

 切り出されたサービスには、人の情報を管理するディレクトリ機能、ユニークなIDを発番する機能、ログ機能などがある。いまのところベースとなる申請・承認フローの共通部分はフレームワークとして切り出しているが「将来的にはサービスとすることを意識して設計しています。例えば承認依頼の部分をサービスとして切り出すことも考慮している」(川田氏)という。

 POCを行うことで、SOAそのものとWLIの有効性が確認できた。「POCの実施がなければ、初期プロジェクトにスムーズに入ることはできなかった。とくにBEAのコンサルティングサービスの手厚いサポートがなければ不可能だったと思う」と川田氏は断言する。

■BEAを選択、構築は容易だった

 本開発は、POCのメンバーに情報システム部の開発スタッフが加わり総勢8名で行われた。「開発ツールにはBEA WebLogic Workshop 8.1J(以下Workshop)を用いました。ふだん一からコードを記述している開発者にとっては、J2EEの複雑性が隠蔽された非常に簡単なツールであるため戸惑いが若干あったようです。しかし生産性は高く、フロントのWebアプリケーションから、サービスを担うコンポーネントに至るまで、すべてWorkshopで開発しました」(情報システム部 システム技術開発グループ 田島麻子氏)

情報システム部 システム技術開発グループ 田島麻子氏

 Workshopはユーザーにビジネスロジックのみに集中して作業できる環境を提供するEoD(Ease of Development)を指向したツールだ。「SOAをJ2EEプラットフォーム上で実現するにあたって、J2EEの知識はやはり必要です。しかし、実装作業のみに絞ればWorkshopはJ2EEに対する深い知識を持たない開発者にも使えるツールだと感じています」(川田氏)。さらにWorkshopはコードの自動生成機能が充実しているため、コーディング量は非常に少なくて済む。「Workshopは負荷テストにも十分に耐えうる品質のよいコードを生成してくれる。チューニングの手間も省け、正直驚いている」と、コードの品質の高さについても折田氏は評価している。

 実装はツール上でのビジネスプロセスの定義からWebやコンポーネント作成の部分までを含め、わずか2週間で終了した。POCによるSOAの設計と実装のノウハウ習得という成果を前提としているとはいえ、非常に短期間で終了したと評価できるだろう。

■SOAの全社展開を睨む

 現在のところ(2005年4月時点)完成している申請フローは1種類だが、5月末には新たな申請書が追加される。「内容が違う申請なので、それに合わせたコンポーネントも必要となってきますが、いまの資産を使って、申請書を増やすことができるノウハウと体制が整いました。今後順調に申請書を増やし、年内には申請フローは10種類になる予定です」(田島氏)。

 今回の取り組みによって、SOAが、システム連携/統合の際の工数を削減し、既存システムの変更の際にも大幅な改修をすることなく、上物を変更するだけで実現できる可能性が見えた。さらには、社内のビジネスプロセスを可視化するノウハウも得た。CTCのSOA基盤整備は今後さらに加速し「今年度中にはSOA基盤を整備したい」(小林氏)としている。

 年度内の目標を達成するため、現在、プロジェクトの体制を再度組み直しているという。課題は多いが方向性は明確に捉えられているため、迷いはない。「eWork@CTCの一貫でセルフサービス等を提供する従業員ポータルも見直しを行いました。よりタイムリーな情報発信や、スピーディーな申請・承認のフロー実現を目指したわけですが、このようなポータルを弊社のパートナーにも提供したいと考えているわけです。従業員だけであれば、基幹システムをシングルサインオンの仕組みを使って横断的に利用できれば良いですが、パートナー向けとなると一筋縄にはいきません。基幹システムの見直しを含めたSOAのサービス基盤をつくる必要があります。これを実施するための体制づくりを早急に行います」(小林氏)。具体的には、在庫処理、会計、人事といった各パートを一斉にSOAで整備していくのは無理だ。横展開しやすいパートをどうパイロット的に切り出していくかが今後のポイントと睨んでいる。

 SOAは技術論ではない。その意味で、CTCはいま、CTCとしてのSOAのグランドデザイン構築に取り組んでいるといえるだろう。BEAというSOAに関するプロフェッショナルなサポートも受けながら、社内で構築したSOAのデザインをグランドデザインにフィードバックし、パートナーや顧客に展開できるリファレンスを作ろうとしている。SOAにおける、eWork@CTCが標榜する顧客への価値提供のチャレンジは、いま始まったばかりである。


提供:日本BEAシステムズ株式会社
企画:アイティメディア 営業局
制作:@IT 編集部

掲載内容有効期限:2005年5月29日
 
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