データセンターネットワーキングの現在
仮想化データセンターの次のテーマはアプリケーション最適化だ
2010/9/30
データセンターにおいて、いまやサーバ仮想化は欠かせない技術となり、今後さらなる普及・活用が予測されている。しかし、仮想サーバの集約率が上がると同時に、リソース負荷の増大や帯域の問題によるアプリケーション性能への影響も懸念される。アプリケーション性能の最適化やユーザーに対するサービスレベルを維持するために、データセンターのインフラはどう構築されるべきなのだろうか。ヴイエムウェア テクノロジーアライアンス部長 森田徹治氏と、ブロケード コミュニケーションズ システムズ ソリューションマーケティング部 シニアプリンシパルエンジニア 小宮崇博氏に、@IT編集長の三木泉が両社の見解を聞いた。
仮想化はもう特別な技術ではない
――サーバ仮想化という技術自体は広く理解されるようになりましたが、実際にどのように使われているのでしょうか。
森田 以前は大企業の一部門で試験的に導入するケースが多かったのですが、昨年後半くらいから全社的にあるいはデータセンター全体を仮想化するケースが増えてきました。統合するサーバ台数も100台や300台といった数から、最近では数千台というケースもあります。さらに、VMware vSphere Essentialsという中小企業向け製品をリリースしたことで利用者の裾野が広がり、先進的な大企業だけが使うものというイメージから普通の企業のIT部門が購入するものというイメージに変化してきたともいえます。また、われわれは「仮想化ファーストポリシー」と言っていますが、アプリケーションを新規開発する場合に、初めから仮想化環境で利用することを前提とするという企業も増えてきました。
サーバ統合の次のステップとしては自動化やITサービス品質の向上があり、それに取り組む企業も出てきました。われわれもそれをサポートするソリューションやソフトウェアを提供しています。その1つがディザスタリカバリ(災害復旧)のソリューションです。仮想化のメリットの1つは可搬性に優れている点で、本社サイトがだめになっても、レプリケーション(複製)で別拠点に作っておいた仮想マシンをすぐに立ち上げることができます。
さらにその先に、クラウドコンピューティングという形があります。企業では、データセンター全体を仮想化したとしても、ソリューションAはこの仮想化システムで、ソリューションBは別の仮想化システムで動いているというように、まだ事業部門間の都合などで仮想化ITインフラが統合されていない場合もあります。我々が提唱するプライベート・クラウドに移行することによって、システムをより効率的に使い、仮想化の真のメリットを享受していただくことができます。
――進化する企業内のデータセンターで、ネットワークの果たす役割はどのようなものですか。
小宮 データセンターとの関係で考えると、ネットワークは大きく3種類に分類できます。1つはデータセンター内のCPUやメモリ、ディスクといったリソースのI/Oを結ぶための、リソースエリアのネットワーク。これは、コスト制約があるなかで、いかに集約しパフォーマンスを上げるかがキーワードになると考えています。2つ目は、必ずしもデータセンターの中だけでなく、外からくるトラフィックも含めたビジネストランザクションの部分で、単位時間当たりのビジネストランザクション数をいかに最大化するかが鍵となります。この分野では、高速イーサネットの他、プライベート・クラウドとパブリック・クラウド間でビジネストランザクションを負荷分散するような取り組みも必要です。3つ目はデータセンター内のワークフロー、つまり管理をいかに効率化するかという点です。
私たちはこれら3つのネットワークの要素に対して性能最大化、コスト最適化、自動運用を実現することが重要だと考えており、40Gや100Gのイーサネット、リソースを有効活用するための統合という意味でのFCoE(Fibre Channel over Ethernet)、I/Oの仮想化などさまざまな技術開発を行っています。当然、これらの技術はハイパーバイザと連携することが重要となってきますので、ヴイエムウェアと協力したソリューション開発も積極的に進めています。
仮想化におけるネットワーク機能の強化
森田 エンタープライズクラスの大きなシステムではストレージの接続にファイバチャネルを利用しているケースが多く、この分野のリーダーであるブロケードとの技術協力は、長年にわたって行ってきました。クラウドでは、仮想マシンの管理を、ネットワークを利用していかに効率化し、コストダウンするかが重要になりますので、今後も協力関係が重要になるでしょう。
VMware vSphere 4.1ではネットワーク機能を強化していますが、そのひとつがNIOC(ネットワークI/Oコントロール)です。これにより、いままでは物理的な配線により制御するしかなかった仮想マシンのサービストラフィックやVMotion、ストレージのトラフィック、フォールトトレランスなどのデータトラフィックに、必要に応じて優先度を設定することで、ネットワークの利用を論理的に制御できるようになりました。
――全社的にIT統合を進めても部門ごとに異なる要求があるでしょうから、仮想マシン単位で帯域制御できればよりきめ細かく要求に応えることができますね。
小宮 帯域制御によって優先度の違う業務システムをデータセンターにどのように効率よくまとめていくかということは、ネットワークのレイヤから見ると解決すべき技術の1つで、vSphere 4.1のNIOCとSIOC(ストレージI/Oコントロール)は重要な技術です。ストレージとネットワークとに分かれてはいますが、リソースエリアネットワークという観点でデータセンターの中にいかに効率よく集約するかという意味で、両方とも重要です。
部門ごとのニーズに応えるには、FCoEのようないわゆるレイヤ2の技術だけではなく、IPやTCP、もしくはもう少し上のアプリケーションレイヤまで含めた形の、さまざまなセキュリティ、コンテンツデリバリ、もしくはアプリケーションデリバリという分野に立ち入らなければいけないと考えています。企業内のデータセンターだけですべてが完結するとは限らないので、プライベート・クラウドとパブリック・クラウドを連携させることも必要でしょう。
特に興味があるのはミドルウェア層で、ヴイエムウェアにはSpringSourceというミドルウェア層があります。ビジネストランザクションをプライベート・クラウドとパブリック・クラウド間でどのように連携させるのかということは、今後両社で一緒にやっていかなければいけない取り組みです。
――単純に仮想マシンを移動するのとは違うわけですね。
小宮 仮想マシンを動かすのも1つの方法です。ただし、例えば32ビットの仮想マシンであれば最大4GBのメモリがありますが、その4GBのメモリ空間をそのままネットワークの向こうのパブリック・クラウドに転送するのは非効率です。仮想マシンという単位ではなく、昔でいうところの電文、本当のトランザクションをデータセンター間やクラウド間でやり取りするようなことが、今後重要になるでしょう。
ネットワークとの連携で性能低下を回避、サーバリソースの動的な割り当てでクラウド型サービスを支援
――仮想化すると物理サーバの環境と比べて性能が担保されにくいのではないか、状況によってはほかの仮想マシンの影響を受けるのではないかといった懸念を持っている人はまだまだいるようです。
森田 2年ほど前までは、仮想化すると性能が悪くなるのではないかということはよく言われました。しかし、昨年にvSphere 4を出してからは、仮想化によるパフォーマンスの低下は非常に小さくなりました。もちろん、サーバのハードウェア性能が上がったこともその一因です。
一方で、これは仮想化環境に限ったことではないですが、アプリケーションサーバの負荷が急に増大した場合のパフォーマンス低下という問題もあります。こちらは、OSの制約はありますが、仮想マシンのCPUやメモリを動的に追加することができるようになりました。また、仮想化の特長として複製が容易ということがあり、同様のサーバ環境をコピーして簡単にスケールアウトできます。そのような拡張性は業務アプリケーションにはあまり必要ではないと思っていたのですが、実はSAPなどを本格的に利用しているお客様から、そういうことが必要なケースがあるとお聞きしています。ただし、仮想マシンをただ増やすだけでなくネットワークできちんと対応していなければ意味がありません。
小宮 その通りですね。ブロケードは、アプリケーションデリバリコントローラであるBrocade ServerIron ADXシリーズと、vSphereを連携させるソリューションで、この問題の解決を図っています。具体的には、ServerIron ADXが取得する統計情報と、VMwareの 管理アプリケーションであるvCenterから取得する統計情報の両方をもとに、必要なサーバリソースを自動的に制御する機能「Brocade Application Resource Broker(ARB)」がそれです。例えばWebサーバへのコネクション数があるしきい値を超えたとか、データベースのレスポンスがある時間内に返ってこないなどの情報をトリガーとして仮想マシンを立ち上げ、逆にリソースが過剰と判断した場合には仮想マシンを落とすといった制御を自動で行うことができるようになります。これによって単位時間当たりのビジネストランザクション数を最大化します。また、ARBはvCenter用のプラグインとして提供されるため、管理者の方はvCenterの慣れた画面からARBのポリシーを設定するなど、管理上の負荷を上げないことにも配慮されています。
――なるほど。クラウド型のサービス提供を行う場合にも有効ですね。
森田 ヴイエムウェアが提供するスケールアップ型のアプローチと、ブロケードのスケールアウト型のアプローチの両方を組み合わせることで、より弾力的なサービス提供のためのインフラを構築することができるわけです。お客様がお客様の環境に合わせて、最適なソリューションをご選択いただくことができるようになります。
小宮 サーバの負荷分散という観点では今後、アプリケーションデリバリコントローラがWebのトランザクションを負荷分散するその分散先がパブリック・クラウド、という場合も出てくるでしょう。これは、GSLB(グローバルサーバロードバランス)の技術で実現でき、すでにServerIron ADXでも対応しています。もうひとつの方向性としては、フロントのWebサーバに届くHTTPのプロトコルをバランスするのではなく、その先のフレームワーク、例えばSpringSourceのさまざまなビジネストランザクションをシリアル化して、パブリック・クラウドのような外部のデータセンターに負荷分散する仕組みも考えられます。
企業にとっての最終目標であるTCOの最適化を考えたとき、すべてを自分たちで所有する以外の方法も検討すべきです。もちろんすべてをパブリック・クラウドでというのも無理がありますので、アプリケーションの性質や重要度、セキュリティなどさまざまな要因を考慮しながら最適にサービスを配置するハイブリッド型のクラウドを目指すべきでしょう。こうした環境では、ネットワークはその両者をつなぐ重要なインフラの1つです。そしてその上に乗るSpringSourceやVMware vSphereのような抽象化レイヤをつなぎバランスするのが、今後のわれわれの課題です。
――その他、今後データセンター・インフラを構築するうえで、考慮すべきポイントにはどのようなものがありますか。
森田 コストが高ければ市場競争に負けるということです。そのため、オープンな技術や標準に則って開発し、投資を保護しながら新しい技術の採用を進めるアプローチが重要です。ヴイエムウェアとブロケードは、まさにそういう流れの中にいる2社だと言えます。
小宮 ブロケードが提唱している「Brocade Oneアーキテクチャ」が目指しているのは、圧倒的にシンプルでノンストップ、かつアプリケーションに最適化されたネットワークを、標準ベースの技術で実現することで投資を保護することです。そしてヴイエムウェアと同様にパートナーエコシステムを重要視しており、強力なOEMのリレーションシップを結ぶサーバ/ストレージベンダー各社とともにお客様に最適なソリューションを提供することを目指しています。
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提供:ブロケード コミュニケーションズ システムズ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部
掲載内容有効期限:2010年10月29日
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