もう一度見直したい、「SCMって何?」「もう二度と失敗しない」SCM完全ガイド(2)(2/2 ページ)

» 2008年08月25日 12時00分 公開
[石川 和幸,@IT]
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6つのフレームワークを駆使して、SCMを編み上げる

 さて、前のページでSCMの目標を具体化できたと思います。では、それを実現するためには、どのように自社のSCMを編み上げればよいのでしょうか? それを考えるための枠組みがSCMのフレームワークです。具体的には以下のような構成となっています。さっそく、それぞれを解説していきましょう。

SCMを構築する6つのフレームワーク
ビジネスモデル構想
サプライチェーンモデル
物流インフラ
計画系業務
実行系業務
管理指標


■ビジネスモデル構想

 SCM戦略において、最も上位に位置するのがビジネスモデルです。企業の経営層が決定した事業戦略に基づいて、立案されたビジネスモデルがSCMの在り方を規定します。例えばパソコン業界のデルがよい例です。デルは直販体制を築き、受注後に組み立てて、直送します。一方、競合メーカーは見込みで組み立て、小売店・代理店に卸し、顧客は小売店・代理店経由で購入しています。デルと競合メーカーでは採用しているビジネスモデルがまったく違うのです。

■サプライチェーンモデル

 サプライチェーンモデルとは、どこに、どのような形態で在庫するのか、輸送方法はどうするのか、生産指示はどのように行うのか、そのための部品はどう準備するのかといった、 SCM上の施設・設備の在り方と、業務オペレーションの在り方を描くものです。デルと競合メーカーのように、ビジネスモデルが異なれば、ビジネスモデルを下支えするサプライチェーンモデルも当然異なったものになります。

■物流インフラ

 物流インフラとは、具体的な倉庫の拠点配置、在庫の配置方針、輸送サイクルなどを指し、サプライチェーンモデルに従って構築します。工場や販社の配置もこれに入ります。

■計画系業務

 物流インフラを使って、実際に営む業務を設計するのが計画系業務です。具体的には、需要予測に基づいて、調達計画、生産計画、販売計画、在庫補充計画などを立案します。計画はSCMの実践で最も重要なのですが、この視点を持っている人がなかなかいないためか軽視されています。しかし極めて重要な業務です。この領域は、SCMシステム──特にプランニング関係のシステムの受け持ちとなります。

■実行系業務

 各計画に基づき、調達・生産・販売・在庫補充・輸送の実行指示を行うのが、実行系業務です。各計画の実行ステータスを管理する点で、この領域はERPの受け持ちとなります。倉庫管理システムや輸配送管理システム、試験(ラボ)システムもこの領域となります。

■管理指標

 計画・実行した結果、実際の業務においてどれほどのパフォーマンスを発揮したのか、確認するためのものが管理指標です。よくBIツールやDWHが推奨されますが、SCMの視点では、巨大なシステムは不要です。管理指標の見える化で十分です。


 以上のようなフレームワークでSCMは形作られています。これら6項目のフレームワークを駆使して、SCMの目標を実現するのです。ただし、ここで解説したことはあくまで基本であり、実際の編み上げ作業は、“経験とノウハウの塊”というほど高度で複雑なものとなります。ご興味のある方は、私までお問い合わせください。

SCMは「オペレーション」ではない

 前回、SCMの失敗要因として、システム主導で失敗した事例を紹介しました。上記の6つのフレームワークを見ると、SCMがビジネスそのものを意味し、単純なシステムオペレーションではないことがよく分かります。ビジネスモデル構想とサプライチェーンモデル、それに付随する計画・実行・チェックというマネジメントサイクルが、SCMという概念を貫く背骨となっていることがイメージできるかと思います。

図1 ビジネスモデル構想からサプライチェーンモデルを導き出し、それに基づいて物流インフラを策定する。計画系業務、実行系業務以前に、上位概念がきちんと策定してあることがSCM実現の大前提となる

 これまではSCMというと、「受注して出荷を迅速に行う」「予測をする」「在庫を補充する」など、全体の取り組みのごく一部である「オペレーションを効率化するもの」といった意味に矮(わい)小化されていました。しかし今回のようにSCMの概念全体を見渡してみれば、“システムさえ作ればSCMができる”という考えが完全な勘違いだったことが、実感として理解できたのではないでしょうか。

 「計画・実行・チェック」とは、SCMを運用するためのマネジメントサイクルであり、それ以前に「サプライチェーンにおける販売・在庫・生産・調達・輸送を自社ではどうマネージしていくのか」を明確に把握しておかなければ、SCMも、SCMシステムも成功しないのです。


 さあ、新たにSCMを成功させるための、新たなフレームワークが手に入りました。次回以降は、このフレームワークを使って、いかにSCMを構築すべきか説明しましょう。

筆者プロフィール

石川 和幸(いしかわ かずゆき)

株式会社サステナビリティ・コンサルティング

株式会社インターネット・ビジネス・アプリケーションズ

大手コンサルティングファームであるアンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア)、日本総合研究所、KPMGコンサルティング(現ベリングポイント)、キャップジェミニ・アーンスト&ヤング(現ザカティーコンサルティング)などを経て、サステナビリティ・コンサルティングインターネット・ビジネス・アプリケーションズを設立。SCM、BPR、業務設計、業務改革、SCM・ERP構築導入を専門とし、大手企業を中心に多数のコンサルティングを手がける。IE士補、TOCコンサルタント。『だから、あなたの会社のSCMは失敗する』(日刊工業新聞社)、『会社経営の基本が面白いほどわかる本』(中経出版)、『図解 SCMのすべてがわかる本』(日本実業出版社)、『中小企業のためのIT戦略』(共著、エクスメディア)など著書多数。


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