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IFRSを会計×業務×ITで理解する(9)

財政状態計算書(3)大きく転換するIFRSのリース

原 幹
株式会社クレタ・アソシエイツ
2011/3/29

投資家の視点から作られ、現在の日本基準からの考えの転換が求められるIFRS財務諸表の作成。業務プロセスやITシステムを適切に構築するための情報をお届けする。今回はリースの会計処理について解説する。

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新しいリース公開草案の概要

 現行のIAS第17号が日本基準とほぼ同等であることは前述の通りだが、2010年8月に公表された国際会計基準審議会(IASB)およびFASB(米国財務会計基準審議会)のリース公開草案(Exposure Draft、以下リースED)では大幅な内容の改変が予定されており、これが基準として確定すればリースの会計処理の考え方は大きな転換を迫られる可能性が高い。

 リースEDでは、「ファイナンス・リース」「オペレーティング・リース」の区分を行わず、借り手にとって単一のモデルである「使用権モデル」という新たな考え方に基づく会計処理が提案されている。

 まず借り手においては、リース契約で特定されたリース物件を表す「原資産」と、それを使用する権利である「使用権資産」を分離し、「使用権資産」と対応するリース料支払い義務を表す「リース料支払債務」を認識する。「使用権資産」はファイナンス・リースの処理と同様にリース期間にわたって費用化される。

使用権モデルにおける借り手の処理(クリックで拡大)

 この提案では、原資産と使用権を切り分けて使用権に相当する部分を資産として認識する点が従前の考え方とは大きく変わる。この考え方の採用により「ファイナンス・リース」「オペレーティング・リース」の区分を行うことなく統一的に処理すると、従来オペレーティング・リースに区分されてオフバランス処理が認められていたリース資産についても、それを使用する権利を財政状態計算書に計上(オンバランス)する点が大きく変わる。

 次に貸し手においては、「使用権モデル」を前提とした「履行義務アプローチ」と「認識中止アプローチ」の使い分けが提案されている。

 「履行義務アプローチ」とは、貸し手がリース原資産の使用権を借り手に与えた結果、リース料を受け取る権利(=「リース料受取債権」)と、原資産の使用を借り手に認める義務(=リース負債)が生じるとする考え方である。この考え方に基づくと、原資産は貸し手の財政状態計算書に残しつつ、「リース料受取債権」と「リース負債」が両建てで計上され、原資産は減価償却の対象となり、リース収益は利息収益とともにリース期間にわたって段階的に実現する。この結果、損益の構造は従前のオペレーティング・リースの考え方とほぼ同等になる。

 「認識中止アプローチ」とは、リース契約によりリース期間にわたる原資産の経済的便益がリース取引開始日に借り手に移転されるとする考え方である。この考え方に基づくと、原資産は契約時にあたかも売買されたかのように扱われ、貸し手の財政状態計算書から認識を中止(オフバランス)される。またリース収益は契約初年度に全額認識し、リース期間にわたって利息収益のみが計上される。

 これらをまとめると以下の通りとなる。

使用権モデルにおける貸し手の処理(クリックで拡大)

Part2:業務へのインパクトと対応

 「リース」における業務への影響について、主な検討事項とその対応方針について述べる(以下では、リースEDに基づく影響を記述する)。

業務上の検討事項
検討内容
1. リース資産の範囲
・既存のリース契約の見直し
・新たにリースと見なされる契約の精査
・無形資産や賃貸用不動産の扱い
2. 借り手の会計処理
・オンバランス化による財務構造の変化
・使用権資産の管理方法
2. 貸し手の会計処理
・履行義務アプローチと認識中止アプローチの選択
・各アプローチにおける財務構造の変化


1. リース資産の範囲

 リースEDで取り扱われる資産は、その契約形態によって実質的に判断され、ファイナンス・リースとオペレーティング・リースの区別もなくなる。特に「貸し手の原資産を維持しつつ使用権をリースする」という形態の契約は、従前のリース契約(機械装置や車両など)にとどまらず、より広い範囲にわたる可能性がある。範囲が変わった結果、既存のリース契約を新基準に合致した扱いにするべきかどうか、また新たにリースとみなされる契約が出現するかどうかを精査しておこう。

 リースEDでは無形資産や賃貸用不動産については基準の対象外とする提案が行われているが、これは日本の無形資産に関する会計基準(ソフトウェアなど)とは一部不整合が生じる。今後の検討次第ではこれらの科目もリースの対象とされる余地もあるため、引き続き改正動向には注意したい。

2. 借り手の会計処理

 借り手にとっては原則として全てのリース契約がオンバランス扱いとなるため、従前に比べて財政状態計算書の資産の部に計上する金額が大きくなり、ROA(総資産利益率)は悪化する傾向になる。これらを受け、従前のリース契約を今後どのように扱うべきかを経営者の観点から検討する必要がある。この結果、場合によってはリース契約そのものを見直す可能性も予想される。

 また使用権資産がリース原資産と分離された結果、使用権資産の台帳管理と償却計算も必要となった。使用権資産の金額自体はリース原資産と同等だが、対象範囲が変わることから台帳管理の方法も見直す必要があり、これらの管理方針を併せて検討する必要がある。

3. 貸し手の会計処理

 主にリース会社側での検討事項になるが、履行義務アプローチと認識中止アプローチのいずれを適用するかで、収支構造は期間により大きく変化する。履行義務アプローチを適用する場合には収益はリース期間にわたり認識されるが、認識中止アプローチでは収益は初年度に実現されるため、損益予測の変化が大きい。

 いずれのアプローチによるかでリース会社側の収支モデルが変化するため、慎重な対応が求められよう。リースEDの改訂状況を見守りつつ、上記の対応方針を順次検討していくのが現実的な対応と考えられる。

Part3:ITへのインパクトと対応へ(ERP&IFRS、無償の会員登録が必要)

筆者プロフィール

原 幹 (はら かん)
株式会社クレタ・アソシエイツ 代表取締役
公認会計士・公認情報システム監査人(CISA)
井上斉藤英和監査法人(現あずさ監査法人)にて会計監査や連結会計業務のコンサルティングに従事。ITコンサルティング会社を経て、2007年に会計/ITコンサルティング会社のクレタ・アソシエイツを設立。「経営に貢献するITとは?」というテーマをそのキャリアの中で一貫して追求し、公認会計士としての専門的知識および会計/IT領域の豊富な経験を生かし、多くの業務改善プロジェクトに従事する。共著「会計士さんの書いた情シスのためのIFRS」をはじめ、翻訳書やメディア連載実績多数。

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