SaaSにできること、できないこと[Analysis]

» 2008年05月13日 00時00分 公開
[大津心,@IT]

 昨年あたりから、大分“SaaS”という言葉が定着してきた感じがする。@ITでは検索エンジンの検索キーワード流入数を測定しているが、昨秋くらいから「SaaS」は検索キーワードランキングTOP10の常連だ。

 SaaSの火付け役はやはりSalesforce.comだろう。同社は数年前から急速に売り上げやユーザー数を伸ばし、2007年の通期売上高は7億ドルを超え、10億ドルも見えてきているという。米国先行の勢いではあるが、2007年には日本郵政公社が4万ユーザー分を導入するなど日本でも大手ユーザーの採用が目立ち、2007年12月には「日本でのユーザー数が10万ユーザーを突破した」と発表するなど、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いだ。

 Salesforce.comはSFAやCRMの提供から始まり、いまでは人事やマーケティング機能まで幅広く提供している。また、ユーザーのSaaS需要が拡大したことで昨今ではログ収集やERPなどもSaaS形式で提供する企業が現れている。ERP最大手のSAPもそんな中の1社だ。同社は2007年9月に中堅企業向けにSaaS型のERP「SAP Business ByDesign」を発表し、現在米国や英国、中国など5カ国でサービスを提供。今後は大手企業などにもSaaS型ERPサービスを提供する予定だという。

 このように、さまざまなSaaS型サービスが登場しユーザーも増えているが、筆者が疑問に思うのが「SaaSに向くアプリケーション、向かないアプリケーションとは?」という点だ。向くアプリケーションは、すでにSalesforce.comが成功しているようにSFAやCRMといった「比較的、特定多数が利用するアプリケーション」だと思われる。Webメールも広く利用されている。

 SaaSには「初期投資が少ない」「バージョン管理が楽」「運用コストが削減できる」といったメリットがあり、特に自社での運用が難しい中小企業に人気がある。一方で、「パフォーマンスに問題がある」や「機密情報を他社サーバに保存するのには抵抗がある」といった問題点も指摘されている。

 例えば、ERPのように「会計情報」というクリティカルな情報を扱うアプリケーションの場合、「会計データを他社サーバに保存するのはとんでもない」という企業も存在するだろう。その点についてSAPに聞いてみたところ、「確かに、すべてSaaS形式で提供することは想定していない。ERP製品を導入済みの企業であれば、その製品を残しつつ、SaaS形式も一部導入することで、SaaSやSOAの恩恵も享受できるようになる。つまり、オンプレミス(自社運用)型とSaaS型のハイブリッド運用が現実的だろう。両方のチョイスを提供することが重要だ」との回答だった。

 つまり、重要データなどは従来型のサーバやデータベースに残しつつ、SaaS型も取り入れることで、マッシュアップや自由度の高いユーザーインターフェイスといった“SaaSのメリット”も得られる、「良いとこ取り」をしようという狙いだ。オンプレミス型でも作りこめばマッシュアップやインターフェイス改良も可能だが、SaaS型に比べてコスト高になる点は否めない。その点、インターフェイスや連携部分をSaaS型にしておけば、将来的なSOA実現への布石にもなるというのだ。

 Ajaxなどの登場により、リッチなWebアプリケーションはその使いやすさから、ユーザーニーズが高まっている。また、将来的にはSOAを実現し、アプリケーション連携を目指す企業も多いだろう。一方で、日本ではまだまだ多いレガシー資産を一気に入れ替えるのは現実的ではない。まずはレガシー資産を生かしつつ、インターフェイスやサービス連携など“エンドユーザー受けの良い”部分はWebサービスを採用し、徐々にレガシーをオープン化・Web化していき、最終的にSOAを目指すというケースが、今後増えるのではないだろうか。

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