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» 2019年12月10日 05時00分 公開

Go AbekawaのGo Global!〜Arnar Jensson編(後):「起業のアイデアも家内も、全て代々木公園で手に入れた」――日本の企業のグローバル化を目指すCTOが教える「自分の殻の破り方」とは (2/2)

[取材・文:阿部川久広(Go Abekawa), 構成:中村篤志,@IT]
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エンジニアに必要な「一歩踏み出すこと」とは

阿部川 イエンソンさんがCTO(最高技術責任者)としてやらなければならない、一番大切なことと考えているのは何ですか。

イエンソン氏 まず、開発チームに対して、最も優先すべき仕事が何かを決めることです。それが分からない、もしくは間違っていれば、どんなに一所懸命ハードワークをしたところで意味がないからです。「やるべきことを知ること」が一番大切です。当然、それをどうやってやるか、しかもチームが高いモチベーションを維持しながらやるにはどうするかなども大切です。そして正しくコードが書けることが重要です。そうでなければ、半年後に、ほんの小さな変更を加えただけで「全てがダメになる」といったようなことが起こるからです。

阿部川 現在もご自身でコーディングすることはありますか。

イエンソン氏 残念ながら、今は時間がなくてできません。しかし、プログラムのアーキテクチャ部分はエンジニアと一緒にしっかり取り組みます。チーフプロダクトマネジャーといったところです。これはとても大切なことで、AIなどの技術を知らずに「何をどうやってやるか」といったことを決断するのはとても難しいためです。

エンジニアに必要な「一歩踏み出すこと」とは

阿部川 これまでお話しいただいたような経験を踏まえて、読者にメッセージをいただけますか。

イエンソン氏 うーん……(としばし、考えて)、なかなか難しいご質問ですね。仕事に対する正しいメンタリティ(心の在り方、物事の考え方)を持つことでしょうか。例えば内向的な人は、コンピュータ科学者の多くはそうかも知れませんが、一人でじっと考えているだけです。それでは何も始まりません。

 何事をするにもチームを率いないといけませんので、自分の思いをチームに説明しないといけない。「今はここにいるけれど、一緒にがんばってあそこまで行こう」と説得しなければならない。しかし必ずといっていいほど、反対の意見を持つ人がいるものです。でも、そのような人も説得して、一緒にやってもらわないといけない。そういった考え方を身に付けることです。大切ですが、とても難しいことです。

阿部川 周りを巻き込む意志ですね。

イエンソン氏 はい。もちろん良いプログラマーでないといけないのは当然ですが、それは前提条件です。ではどうやってリーダーシップを身に付ければいいか。家に一人でいて漫画を読んでいるだけでは身に付かないわけです。

画像 Cooori」のArnar Jensson(アルナ・イエンソン)氏

 自身の居心地の良いところから、一歩外に踏み出すことが必要です。そして何か行動を起こさないといけません。何か自分がやったことがないような活動に足を踏み入れてみましょう。例えばスピーチができる機会がきたら、絶対「YES」と言いましょう。たとえそれがとても怖いことでも。

 ですから、機会が訪れたと感じたときは、どんなときも必ず「YES」と言いましょう。少しずつ経験を積んでいけば、「自分の居心地の良い殻」の外に出ることは、実はそれほど難しくないということが分かります。

阿部川 最初の一歩さえ踏み出してしまえば、その次はもっと簡単になります。

イエンソン氏 そうです。そうしたら、「海外に一人で旅する」「いろいろな人に会う」「知らない人と話す」……といった感じでどんどんやってみましょう。多くの人にとってそれは簡単なことではないと思いますが、一つ一つはとても小さなステップです。トレーニングをしないで、フルマラソンは走れませんよね。どんなことも訓練しないとできるようにはなりません。しかし、始めれば誰でもできることだと思います。だって私がそうやって、やってきましたから。

起業に必要なのは「耐える力」と「直す力」

イエンソン氏 会社の経営は決して楽しいばかりではありません。むしろ95%は、悪戦苦闘です。ですから粘り強く事業を進めていく気持ちを持ちましょう。打たれ強いことも大事です。周りの人はあなたのことを悪くいうかもしれないし、作った製品のことをけなすかもしれない。でもそんなときも自分や製品のことを信じて、そんな言葉は忘れなければなりません。それと同時に悪いところがあればすぐ直す。会社を運営するときはこのように耐える力と、直していく力が同時に試されます。それは会社の大小には関係ありません。

 今私たちは中国の企業や韓国の企業がグローバルで成功している例をたくさん見ています。それに比べ日本の企業は、能力や製品はとても良いのにまだ世界で認められていない。その理由の一つは英語だと思います。

 全ての製品やサービスがグローバル市場に広がっているので、皆が英語を話す必要があると思います。これは好き嫌いではなく、やらなければいけないことです。もちろん10年前などに比べて、大きな変化は日本の随所で起こっていますが、中国や韓国はもっと貪欲です。自分の意見を声高に言わないという日本の美徳も素晴らしいことですが、その居心地の良い場所を抜け出して、もっと自分の意見を言うべきだと思います。

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Go's thinking aloud 〜インタビューを終えて〜

 ヨーロッパ生まれの方がうらやましく思える瞬間は、生まれたときから多様な言語や文化の中を行き来してきた経験を目の当たりにしたときだ。グローバル、などと息巻くことなく、国境など毎日やすやすと越えて生活する。そこから逆説的だが、他国を敬愛する気持ちも生まれ、同時に自分への自信も生まれる。

 イエンソンさんは6カ月もの間、代々木公園を拠点に、考え、書き、議論し、眠り、そしてまた考えた。若かったからと言えばそれまでだが、自分の地頭に自信がなければくじけてしまうのが普通だ。「悩み」はしたが起業に「迷い」はなかった。日本語は難しいといいながら、実に丁寧な日本語で、そして正しい作法の名刺交換をしてくれた。難しいからやる、できないからトレーニングする。「私はそうやって、やってきましたから」おごることなく笑った目は、きっと3歳のときと変わらない。

阿部川久広(Hisahiro Go Abekawa)

アイティメディア グローバルビジネス担当シニアヴァイスプレジデント兼エグゼクティブプロデューサー、ライター、レポーター

コンサルタントを経て、アップル、ディズニーなどでマーケティングの要職を歴任。大学在学時より通訳、翻訳なども行い、CNNニュースキャスターを2年間務めた。現在は英語やコミュニケーション、プレゼンテーションのトレーナーとして講座、講演を行うほか、作家として執筆、翻訳も行っている。

編集部から

「Go Global!」では、インタビューを受けてくださる方を募集しています。海外に本社を持つ法人のCEOやCTOなどマネジメントの方が来日される際は、ぜひご一報ください。取材の確約はいたしかねますが、インタビュー候補として検討させていただきます。

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