アジャイル開発:成熟期の到来、その道のりThe Rational Edge (30)(2/2 ページ)

» 2004年11月25日 12時00分 公開
[Gary Pollice(Professor of Practice, Worcester Polytechnic Institute),@IT]
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◆ アジリティの跳躍

 そして今年(2004年)、その答えは出た。XP/Agile Universeカンファレンスの第4回目となるXP/Agile Universe 2004は、8月にカナダのカルガリーで開催された(今年は、2000年以来ヨーロッパで開催されているXP2000と2003年に始まったAgile Development Conferenceという、アジャイル開発に特化したほかの2つのカンファレンスも開催されている(注6)。

 今年のカンファレンスでは、アジャイルが成熟期に入りつつあることが明確になった。まず第一に、顧客が多数参加したため雰囲気から違っていた。発表された論文の4分の1は顧客によるものだった。学会関係者も増えており(論文の半分を占めた)、その多くは今後の方法論に影響するであろう重要な問題やアイデアを扱っていた。

 Webテストのスクリプトを作成するチュートリアルでは、筆者のパートナーがワシントンにある企業のIT部門出身の品質エンジニアを務めた。このセッションでは顧客も積極的に発言し、組織改善の方法について知ろうと素晴らしい質問をしていた。彼らは、アジリティとXPがかつてのように極端な手法でないことを明確に感じていた。

 今年のカンファレンスで顕著だったもう1つの特徴は、コンサルタントや第一人者たちが裏方に回り、プレゼンターの多くはカンファレンスにとって新しい顔触れとなり、新しい発想を持ち込んできたことだ。Kent Beck氏、Martin Fowler氏、Ward Cunningham氏などの古参は欠席したが、それでもカンファレンスは盛況だった。

 筆者の意見では、今回とこれまでの違いを最も印象的に示していたのが実証ワークショップだった。20人以上の参加者があり、何と、その中の13人が実際にソフトウェアを開発するプロだった。われわれは、何を測定し、何が測定に重要なのかに焦点を当てた。そして2つのグループに分かれ、企業や現場の人間にそれぞれ重要な測定基準に焦点を当てた。ゴールはかなり意欲的なもので、われわれは測定すべきものだけでなく、そのデータの測定や分析の方法、そして最適な測定方法まで特定したいと考えていた。このワークショップの結果はもうすぐ公開され、本稿にもそこへのリンクを用意する。

 活気を見せたもう1つの兆候は、前回よりも幅広い方面のソフトウェア開発コミュニティの関係者がカンファレンスに集まったことだ。RUPやDSDM(Dynamic Systems Development Method)など、ほかのプロセスをめぐる議論もあった。オープンスペースでは、RUPの発展に非常に大きな影響を与え、現在はバンクーバーのブリティッシュコロンビア大学で教鞭を執るPhilippe Kruchten氏が、XPなどのアジャイル手法におけるアーキテクチャの役割に関する議論を提案していた(注7)。この議論に参加した人の大半は、特に大規模プロジェクトにおいて、別途取り組むだけの重要性がアーキテクチャにはあると考えているようだった。しかし少数派も、XP手法に注目すればアーキテクチャは自然に進化する、などと積極的に意見を出していた。

 参加者の間には、カンファレンスを通じて健全な論争や対話があった。Mary Poppendieck氏は、主流との意見の相違を埋めるためにコミュニティが焦点を当てるべき点について語った。同氏によると、カギを握るのは照会先となる優れた顧客の獲得だという。初期導入に踏み切らない企業は、調査会社の情報に関係なく、製品に関する同業他社の成功を基本に考えて購入判断を下すのだ。

 Craig Larman氏はMary Poppendieck氏とは対照的に、手法の有効性に関連した事実に基づくデータの収集が顧客拡大のカギだ、と主張した。筆者の意見では、カンファレンスを締めくくる同氏の基調講演はカンファレンスのハイライトだった。同氏は、ウォーターフォール手法、スパイラルモデル、DoDの7つの2167および2167Aライフサイクルモデルの出現までさかのぼり、アジャイルプロセスの「歴史と形跡」について語った。同氏はWinston Royce氏などの発想が誤解され、業界にウォーターフォールモデルを押し付けたことでRoyce氏など後に不当に厳しく非難された経緯を慎重に語った。Larman氏は、長年の誤解と誤った宣伝につながり、誤って引用された部分を具体的に指摘した。

 同氏の講演が非常に素晴らしかったのは、同氏がアジリティ自体を押し付けていなかった点だ。同氏が本当に関心を示しているのは、誰でも質の高いソフトウェアを効果的に開発できるようになることだ。アジャイル手法はツールキットの中のツールの1つにすぎない。第1の要点は、アジリティの背景にある概念が以前からあり、その間多くの人々が迷走したものの、それをわれわれがいまになって再発見しつつあることだ。

◆ 成熟したXPはプロセスの中で幅広く採用されていく

 筆者は先に、XP/Agile Universe 2004が最後のXP/Agile Universeカンファレンスだと述べた。これは良いことだ。来年になると、Agile Development Conferenceと統合され、それがアジャイル手法関連で最大のカンファレンスになる。カンファレンスが2つあると対立が生まれ、アジャイル活動の打撃になる。多くの人々はこのことを認識していたが、すべての関係者が集結してカンファレンスを1つに集約するまでにはしばらく時間がかかってしまった。

 筆者は来年に向けて2つの予想を立てている。まず1つ目は、アジャイル手法の利用が大幅に拡大するというものだ。Grady Booch氏が2年前に指摘したように、ソフトウェアは5〜9人で開発するケースが大半を占めるが、アジャイル手法、特にXPは小規模チームに最適だ。2つ目の予想は、アジャイル手法の採用が拡大するにつれ、RUPなど、ほかの手法やプロセスの採用も拡大するというものだ。なぜだろう? XPは、それが適するところでは有効だが、大半のチームは単純にすべての手法を採用することはできない。これらは大規模組織には適しておらず、ソフトウェア開発のライフサイクル全体はカバーしていない。

 その代わり多くにとっては、RUPが新しくなるごとに、このようなプロセスフレームワークをカスタマイズしてアジャイルの事例にすることが容易になっていくことが分かるだろう。中規模から大規模の組織は、柔軟でカスタマイズ可能なプロセスを用意することのメリットを理解するようになり、自分たちのプロセスにとって最高の手法を取り入れることを望むようになる。経験主義者らがこれらの手法の生み出すメリットの測定や宣伝によってその役割を果たし続ければ、ますます多くの組織が納得するようになる。


[注1] YAGNIは「You Ain’t Gonna Need It(必要ない)」、DTSTTCPWは「Do the Simplest Thing That Could Possibly Work(可能な限り簡単に)」の略。

[注2] Martin Fowlerは、UML関連で史上最も人気の高い書籍、「UML Distilled」の著者。

[注3] The Rational Edgeの2001年3月および2001年4月号参照。

[注4] Laurie Williams氏には、ペアプログラミングなどの手法の有効性計測に関する多彩な著書がある。詳細は同氏のWebサイト参照。

[注5] この手法の説明はThe Rational Edgeの2002年10月号の記事参照。

[注6] 毎年カンファレンスの名前は数字1けた分変わる。最初のカンファレンスはXP2000だったが、今年はXP2004だった。

[注7] オープンスペースとは、参加者が話題を提案し、関心を示す人が十分な数に達すると議論のスレッドが始まる場所。

[注8] DoDは米国防総省の略。

[参考]

The Agile Alliance Web Site。 アジリティに関する最新情報を知るために最適な場所。

▼“Agile Software Development”、Alistair Cockburn著、2001年Addison-Wesley刊

▼“Agile and Iterative Development: A Manager’s Guide”、Craig Larman氏著、2003年Addison-Wesley刊

▼“Extreme Programming Examined”、Giancarlo Succi、Michele Marchesi共著、2001年Addison Wesley刊

▼“Strengthening the Case for Pair Programming”、Laurie Williams氏ほか著、IEEE Software、2000年7月および8月号


本記事は「The Rational Edge」に掲載された「Agility comes of age」をアットマーク・アイティが翻訳したものです。

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