BPMのビジネスケースづくり − BPMベネフィット・チェックリスト(後編)BPTrends(6)(2/2 ページ)

» 2007年07月23日 12時00分 公開
[著:ジム・ラデン, 訳:高木克文(日本能率協会コンサルティング),@IT]
前のページへ 1|2       

従来方式のアプリケーション開発

 たいていの企業は、社内にアプリケーション開発能力を持つ※編注。BPMSでなく従来のアプリケーション開発方式で対応する可能性を探るのは、珍しいことではない。しかし、従来のアプリケーション開発方式がプロセス改善の推進に応用できない2つの領域がある。要件とタイム・ツー・マーケット(実用に供するまでの期間)である。

※編注:米国の大企業に関してと思われる。一般に米国企業のIT部門は日本企業のそれより規模が大きい。

■要件

 フォレスター・リサーチ社の調査結果によれば、アプリケーション開発プロジェクトの57%においてスコープ設定が不十分であり、30%において充足不可能な要件設定が行われていた△△[文献8。プロセス改善のためのアプリケーション開発に関しては、これと同様、あるいはこれより劣る結果が出るものと想定される。対照的に、BPMプロジェクトの成功率は90%以上に上り、BPMがプロセス改善要件を適切に設定するための優れたテクノロジであることをうかがわせる。

■タイム・ツー・マーケット

 一般的に、BPMプロジェクトでは、たいていのアプリケーション開発プロジェクトにおけるよりも速く、安く、確実に成果物の実用化ができる。では、どのくらい速いのであろうか? わが社が既存アプリケーション開発機能(例えば、Java基盤の開発)を持つ顧客を対象に行った調査では、BPMからは実質的にプロジェクトのフェイズ単位で生産性向上の効果が得られるという結果が示された。

図2 プロジェクトフェイズごとの生産性向上(出典:ロンバルディ・ソフトウェア)
  代表的BPMプロジェクトフェイズ 比重:% 生産性向上成果
  機能要件設定と機能デザイン 25% 50%
  開発 50% 20−25%
  品質保証/テスト 25% 30%
  拡大展開 N/A N/A


 この生産性向上の背景には、いくつかの要因がある。

 まず、BPMは、プロセス改善の要件と実施方法を決めるための主要な機能、すなわちモデリング、ワークフロー、シミュレーションなどの機能を備えているということ。これらはすべて、従来のアプリケーション開発ツールを用いて個別開発やインテグレーションを行う場合に、開発チームが必要とする機能である。

 第2に、ロンバルディ・ソフトウェアその他の主要BPMスイートの開発環境には、これらの機能のすべてが凝集・統合されている。これにより、運用とチェンジマネジメントの簡素化が図れる。

 最後に、主要BPMスイートを援用すれば、プロセス・ソリューションのグラフィカルな開発が可能になる。複雑なコーディングを必要としない。これは、スピーディな開発にとどまらず、BPMの展開では、ほかのアプリケーション開発におけるほど高度なテクニカル・スキルが要求されないことを示唆している。

一般的コスト項目

 以上で、BPMのもたらすベネフィットが明確になったはずだ。しかし、このタイプのソリューションの実装にはどれほどのコストが掛かるのだろうか? BPM方程式のコスト因子として、何が算入されなければならないのだろうか?

 基本的なコスト項目は、ソフトウェア、人材、およびハードウェアである。以下で、これらの各項目に関する検討上のポイントを簡単に述べておく。

■ソフトウェア

 本稿では、さまざまなBPMベンダが提示する価格設定モデルの詳細検討にまで踏み込むことを意図しない。BPMについて吟味しておられる企業の方々に、「ソフトウェア」には何が含まれるのかを完全にご理解いただくことでよしとしたい。

 BPM展開支援を理由に、コンポーネント単位のライセンス契約やソフトウェアの追加を求めてくるベンダがいる。しかし、チームワークスのような業界標準を基盤とするBPMスイートであれば、既存インフラストラクチャ・コンポーネントを用いることで、うまく展開できる可能性が高い。

 たいていのBPMベンダは、まず部門レベルでのBPM導入を支援し、要件拡張とともに、そのライセンスを企業レベルにまで押し上げようとする。このアプローチであれば、時間を掛けても着実にBPMの足場を固めようとする企業においては、部門レベルのプロセス改善からスタートすることができよう。

■人材

 BPMコアプロジェクトチーム・メンバーとしては、プロジェクト・マネージャ1名、対象領域のエキスパート1名、ビジネスアナリスト1〜2名、および開発者1〜2名を予定しなければならない。このコアプロジェクトチームは、プロジェクトを成功に導くために、ライン部門とIT部門の協調を図る。

 プロジェクトチームは、一般的に、社内の人材、契約に基づき社外から派遣されるシステムインテグレーター、およびBPMベンダのプロフェッショナルサービスチーム・メンバーで編成される。従来の開発テクノロジチームと比較すると、小規模に見えるかもしれない。これがまさに、BPMがプロセス改善プロジェクトにもたらす生産性の価値なのだ。

 フォーチュン誌ランキング1000社の中に登場する、ある企業の例を見てみよう。同社の製造およびロジスティクスのプロセスマネジメントは、ほとんど100%、BPMスイートを通じて行われている。そのコアチームには、5〜6名のメンバーしかいない。この陣容で、7つ以上の調達とロジスティクスのコアプロセスを支援しているのだ。同時進行中のSAP導入支援スタッフと総人件費で比較すれば、BPMチームに対する投資は、はした金でしかない。

 上記チームは、現行のBPMプロジェクトに専念すべきである。プロセス改善の継続的推進を計画している企業は、このことを念頭に置かなければならない。でなければ、彼らは仕事を放置しほかのプロジェクトに拡散してしまう。これが意味するのは、BPMプロジェクトに対する人員配属はあくまで現時点の枠内での投資でしかなく、対象プロセスの追加に応じて投資額が加増する、ということだ。この認識に基づき、センター・オブ・エクセレンス(COE)を設置し、すべてのプロセスマネジメント・プロジェクトを統括・交流させている企業もある。

■ハードウェア

 当面のハードウェア・コストは、BPM以外のアプリケーション配備に左右される。BPMの場合には、ある程度のインフラ環境でスタートでき、対象プロセスの拡張とともに徐々に要求レベルが高まる。

 しかし、いうまでもなく、開発、品質保証、生産といった、さまざまな職場のニーズを把握しておくことを忘れてはならない。また、BPMベンダから提出される最小ハードウェア容量見積書の検討に際しては、CPU使用率のような組織要件を念頭に置くべきである。

まとめ

 BPMは、継続的改善のプラットフォームを築くための投資対象として、最良の選択肢である。多くの企業にとっての当面の課題は、アプリケーション購入や個別アプリケーション構築といった従来方式ではなくBPM投資によってプロセス問題の解決を進めることの妥当性をどのように示すか、であろう。

 BPMビジネスケースの作成には、BPMプロジェクト成功事例が役立つ。期待される価値の整理が促進されるだけでなく、想定外のベネフィットにも気付かせてくれる。本稿でご紹介した弊社顧客における事例やベネフィット・チェックリストから、BPMビジネスケースの作成に必要な多くの情報を得ていただけるに違いない。BPMはプロセス改善推進のための、最もリスクが低く、最もリターンの高い投資対象なのだ。

【参考・引用文献】

[6]「Business Technographics Study June 2003, Survey of Corporate Executives」/Forrester Research/2003

[7]「Business Process Management: Act Strategically and Buy Tactically」/Gartner Group/June 21, 2005

[8]「Business Technographics Study June 2003, Survey of Corporate Executives」/Forrester Research/2003

Original Text

Rudden, Jim. "Making the Case for BPM: A Benefits checklist." BPTrends, January 2007.


著者紹介

ジム・ラデン(Jim Rudden)

ロンバルディ・ソフトウェア社のマーケティング担当ディレクター。


訳者紹介

高木克文(たかぎ かつふみ)

(株)日本能率協会コンサルティング、テクニカル・アドバイザー。日本BPM協会 ナレッジ研究部会メンバー。グローバル・コンサルティング、リーダーシップ開発研修、ベンチマーキング・プロジェクトなどを中心に活動。戦略、組織、リエンジニアリング、学習する組織、ベンチマーキング、コンサルティングビジネスなどに関する著書、訳書、論稿、多数。


前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ