CMSは単にWebサイトに表示するコンテンツを管理するシステムから、新しい領域に活躍の場を広げている。これからのCMSが担う役割とはどのようなものだろうか?
CMSというシステムは登場以来、さまざまに進化・変容してきており、最近では、1つの帰結として“Webサービス・プラットフォーム”という方向性が見えてきた。今回は「CMSビジネス活用術」の最終回として、欧米の事例からCMSのこれからを探っていこう。
CMSが提供するソリューションは、Webサイト閲覧者のブラウザに必要な情報が適切なタイミング、組み合わせ、位置で表示されるよう、数多くのコンテンツを収集・保持・管理することである。
閲覧者のブラウザに、例えば「FAQ」「在庫の数」「発注後のリードタイム」などを組み合わせて表示しようとすると、人間が見ている画面では1ページでも、FAQの情報はコールセンター・システムから、在庫情報は在庫管理システムから、リードタイムは生産管理システムから──というように、さまざなまソースから情報(データ)を取得してくる必要がある。
これは、企業が基幹/情報システムを開発するのに、一度に構築するのではなく、長い年月をかけて建て増しを繰り返して発展・整備させてきたという歴史的背景があるわけだが、そのためにあるシステムはMVS+COBOL、あるシステムはUNIX+Java、あるシステムはWindows+VBというように、使われている技術がまったく異なるということが珍しくない。さらに実際の開発者が、AシステムはF社の外注が行い、BシステムはI社の協力会社が実施、CシステムはH社が担当──とばらばらで、社内のさまざまなシステムにかかわる協力会社が10社を超えることもある。このような状況で、各システムからデータを取り出して1ページに合わせて表示させようとすれば、果たして何社・何人が集まる会議を何回行う必要があるだろうか。
社内システム内部のデータを再利用するようなシステムを構築しようとすると、そのシステムの規模が大きければ大きいほど関係者が増加し、等比級数的に複雑さを増す。しかも専門領域の異なる人々であるため、専門用語(マーケターの使う言葉とウェブマスターの使う言葉など)、技術用語が異なる。多言語の国際会議ほどではないにしろ、言葉の違いを超えてのコミュニケーションは大変である。
CMSをビジネスに活用するマスクドニーズ(隠されている本質的なニーズ)は、「共通の言葉を用意して、コミュニケーション基盤を統一すること」である。これは製造業において多部門間/多国間での設計プロセスなどを一元化する際に、共通の言葉として標準となるCADシステムを定め、コミュニケーションスピードとコストを下げるという発想とまったく同じだ。CADのコマンドやフォーマットをそろえることで、異なる国の設計者同士のコミュニケーションを助けたり、違う部門と意識合わせの時間を短縮したりすることは、同じCADという共通の基盤があればこそできることである。
以下に欧米の事例を紹介し、CMSのマスクドニードがどのようなものか、考察してみよう。
欧州大手金融機関のグルーポ・サンタンデール(Grupo Santander)は、CMSを「Web Factory」のためのプラットフォームとして採用している。
グルーポ・サンタンデールはスペインに本社がある金融グループで、12万9000名以上の社員がいる。グループにはイントラ/エクストラネットが存在し、保有サイトの数も数百に上り、2007年度にも200のサイトをライブする計画だ。「Web Factory」のプラットフォームとして採用されたCMSは、特定のサイトの更新処理を行うというよりは、グルーポ・サンタンデール全体の標準ツールという役割を担っている。計画中の200サイトを構築するに当たり、いくつかの異なるCMSを使うよりも、1つのCMSで統一した方が、コミュニケーションスピードアップとコストダウンに貢献することは明々白々である。
【参考リンク】
▼Grupo Santander
18世紀の産業革命の中心地として有名な英国第2の都市のバーミンガム市(人口:100万人、市職員:5万5000人)は、160以上のマイクロサイトを管理するために、CMSを“Webサービス・プラットフォーム”として採用した。
この例もサンタンデールの場合と同じく、特定サイトの作業効率化のためのツールというよりに、全体の基盤として統一CMSを採用したというものだ。CMSは市の基幹システムなどとWebサービスを通じて連携しており、このCMSはWeb更新ツールとしての活用はもちろんのこと、基幹システム/そのほかの情報システムと連携するプラットフォーム──“Webサービス・プラットフォーム”として機能している。
政府、自治体におけるCMS活用は、
a.「公共サービスコンテンツのファインダビリティ(見つけやすさ)」
b.「窓口での混雑を避けるため、Web活用によるセルフサービス化」
の2つが重要な機能だ。特に(b)は基幹/情報システムと連携するケースが多くなるはずだ。
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