ウイングアーク、「クラウドでパッケージ製品をサーバごと提供」導入は社内ネットワークにつなぐだけ、課金は「使っただけ」

» 2011年05月17日 00時00分 公開
[内野宏信,@IT]

 5月11日〜13日にかけて東京ビッグサイトで開催された「第2回クラウドコンピューティングEXPO 春」で、ウイングアーク テクノロジーズが「クラウドアプリケーションプラットフォーム」を発表した。帳票開発製品「SVF」やBI/集計・レポーティングツール「Dr.Sum EA」をはじめとする同社のパッケージ製品群について、「社内データは自社内に持ったまま、処理機能だけをクラウドで提供できる」という。

“パッケージをサーバごと納品する”クラウドサービスの新スタイル

 必要なITリソースを、必要なときに、必要なだけ使えるSaaSやPaaSといったクラウドサービスの利便性を認識していながら、機密情報も含まれた自社データを外部に出すことにリスクを感じる企業は多い。これを受けて、現時点では、クラウドサービスの利用は、さほど重要ではない一部のシステムにとどめているケースが一般的だ。

 今回同社が発表した「クラウドアプリケーションプラットフォーム」はまさしくそうした声に応えたもので、「データは自社で持ったまま、SVFやDr.Sum EAといったパッケージ製品群の機能だけをクラウドサービスとして提供できる」という。単なるSaaSとは異なり「パッケージの運用環境も含めて、純粋に処理機能だけ提供する」点が大きな特徴だ。

 「そもそもこの仕組みは、クラウドの利点を生かして『パッケージ製品をより手軽かつスピーディに納品できないか』と考えたことが開発のきっかけとなった。例えば、従来はパッケージ製品を買ってもSIerに頼んでカスタマイズしたり、セットアップしてもらったりする必要があった。むろんパッケージを稼働させるためには、ハードウェアも自社で用意し運用しなければならない。それなら『すぐ使える状態にした上で、サーバごとパッケージを納品できれば効率的なのでは』と考え、このクラウドアプリケーションプラットフォームの開発に至った」(ウイングアーク テクノロジーズの持株会社、1stホールディングスの執行役員最高技術責任者 田中潤氏)

写真 「パッケージ製品をサーバごと納品するため、すぐに使い始められる」と語るウイングアーク テクノロジーズの持株会社、1stホールディングスの執行役員最高技術責任者 田中潤氏

 具体的には、同社のデータセンター側で、パッケージの稼働に必要なシステム構成を整備。その上で、同社独自の基盤技術「Cloud Transporter」を使い、クラウド環境にあるサーバやアプリケーションの機能を、ネットワークを介してユーザー企業のローカル環境に送り、ローカル環境上でユーザー企業の社内システムと仮想統合する。これにより、ユーザーは“自社がオンプレミスで持っているかのような感覚”で、基幹システムやCRMなどと同様に、「社内システムの一つとしてパッケージ製品を使える環境が整う」。

写真 「クラウドアプリケーションプラットフォーム」の仕組み。同社独自の基盤技術「Cloud Transporter」を使い、クラウド環境にあるサーバやアプリケーションの機能を、ネットワークを介してユーザー企業のローカル環境に送り、ローカル環境上でユーザー企業の社内システムと仮想統合する

 「例えば、基幹システムから任意のデータを抽出してSVFで帳票を作る、ERPとCRM からデータを抽出しDr.Sum EAで分析するなど、ユーザーはクラウド環境とローカル環境を意識することなく、オンプレミスで持っているのと同様に扱える。カスタマイズが必要 な場合は納品前に対応する。いわばSaaSとIaaSをワンセットで提供するイメージだ」

データを社外に置かない、残さない、漏らさない

 ポイントは大きく分けて3つある。1つは“重要なデータを社外に置かない、残さない、漏れない”仕組みとしていること。「同社のクラウド環境で稼働させるサーバとパッケージの機能を、ネットワーク経由でユーザー企業に届ける」と前述したが、これは具体的には、高度なセキュリティ要件を担保した同社独自開発のソフトウェア「Cloud Router」をインストールした専用ルータを介して、企業内ネットワークと統合する仕組みとしている。

 「つまり、クラウド上にあるSVFなどを使う際、社内データはルータを介して、ネットワーク経由でクラウド上のパッケージに届けられ、そこで処理された上で再び社内に戻される仕組み。一時的にデータは社外に出るが、あくまで“処理のために流されるだけ”。つまり、処理が終われば社外にデータは一切残らない。データを送る際の漏えいリスクを考慮し、解読に天文学的な時間がかかるとされているAES 256ビットの暗号化方式を採用している点もポイントだ」

 なお、同社ではルータにグループ企業のバリオセキュア・ネットワークスの統合型セキュリティ機器「VSR」を推奨しているが、既存のサーバにソフトウェア「Cloud Router」をインストールすることでも既存のサーバを「Cloud Router」化できるという。

 2つ目は「パッケージやハードウェア運用の手間を省けること」。前述のように、パッケージ製品を利用するためには、ハードウェアも自社で用意しなければならない上、稼働開始後は自社でこれらの運用管理をしなければならない。この管理負荷がネックになっているケースが多いわけだが、本製品の場合、クラウドサービスのため、運用管理はすべてウイングアーク側が担うことになる。

 そして3つ目は、クラウドサービスならではの「使っただけ支払う」従量制の月額課金制の採用だ。これにより大幅なコスト削減も見込めるという。

 「例えば、帳票処理作業の場合、業界特性や業務状況によって、かなり大きな繁閑差が生じる。ピーク時にはサーバ30台分の処理能力が必要でも、通常時は10台分で十分といった場合も多々ある。その点、このクラウドアプリケーションプラットフォームで、SVFを状況に合わせて必要なだけ使えば、ライセンスコスト、ハードウェアコスト、運用管理のための人件費や時間、さらには電気代も削減できる」

 提供は来年度を予定している。田中氏は「クラウドサービスの浸透は着実に進んでいるが、そうした中ても、“パッケージの稼働環境ごと提供するサービス”は珍しいと思う。実際テストユーザーからも好評で、ブース来場者の方々からも大きな反響をいただいた。企業規模を問わず、あらゆる業種の企業に大きな利用価値を提供できると思う」と話している。

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