仮想化データセンター/クラウドインフラとネットワークの役割
Hyper-Vを核とした仮想化インフラをどう最適化し、運用管理を効率化するか
2010/10/18
サーバ仮想化がますます普及して仮想サーバの集約率が上がり、クラウドコンピューティング環境へと進化していくとき、それを最適化し、運用管理の自動化と効率化を図るうえでネットワークが重要な役割を果たす。サービス・オリエンテッドな運用を可能にするクラウド型データセンターへの進化を遂げるために、データセンターのインフラはどう構築されるべきか。マイクロソフト サーバープラットフォームビジネス本部 プライベートクラウド製品部 マネージャー 浅野智氏と、ブロケード コミュニケーションズ システムズ ソリューションマーケティング部 シニアプリンシパルエンジニア 小宮崇博氏に話を聞いた。
自動化のためにはネットワーク管理の統合が必要
――企業データセンターにおいていまや「サーバ仮想化」は欠かせない技術となっていますが、マイクロソフトの掲げるデータセンター・ビジョンと、これにおけるHyper-Vの位置付けを教えてください。
浅野 まずHyper-Vについてですが、2008年のリリース以来、この2年でかなりユーザーは増えてきました。特に多いのは中堅企業で、コスト面でのメリットが大きいようですが、この動向は大規模環境においても同様です。もちろん、これまでWindows ServerやExchangeなどの製品をお使いいただいていた企業は、いち早くHyper-Vでの仮想化に移行していただいています。
データセンターという観点では、マイクロソフトはWindows Azure PlatformのようなPaaSを提供していますし、開発環境からアプリケーションまでを一元化できるというのが特長の1つです。クラウドビジョンということでは、まず企業内にあるシステムをクラウド化したプライベートクラウドを考えていますが、今後はそれを社外に出してパブリッククラウドも使う、ハイブリッドな環境を最終的な目標としています。その際、ハイブリッドな環境でも運用管理を一元的に行えることがメリットだと思っています。これまで利用していたWindowsで稼働する既存のアプリケーションは今後Hyper-Vによって仮想化環境に移行し、プライベートクラウドで生きていくことになります。これは、ExchangeやSharePointなどわれわれの製品もオンプレミス版とクラウド版を両方用意していますし、弊社製品ではない基幹系アプリケーションでもこうした動きが活発化しています。プライベートとパブリックの間で、ユーザーが何のストレスも感じずに、これらのアプリケーションのデータがシームレスに行き来できることが最終的なゴールです。
そこに行き着くまでにはいくつかのステップがあります。まずハードウェアとOS・アプリケーションといったソフトウェアのレイヤを切り離す仮想化。次に、それによるアプリケーションの可搬性向上と自動化。そして、下のハードウェアを問わずに上のアプリケーションが自由に行き来できるようになると管理が必要になり、その管理をつきつめていくとリソースの自動配分に行き着きます。最終的には、きちんと管理された状態でリソースをパブリッククラウドまで広げるハイブリッドクラウドへというステップになります。
――仮想化ITインフラ環境が増えると、ネットワーク管理の重要性も高まると思いますが。
浅野 マイクロソフトが次世代のプライベートクラウド用プラットフォームを提供していく過程で、重要だと思う点がいくつかあります。負荷の増減に柔軟に対応できるシステムと運用管理の自動化、そして課金システムがあってユーザーが欲しい時に必要なシステムを作れるユーザー主導の仕組みと、それらを運用管理しレポートすることです。これらの要件を満たすために、マイクロソフトではSystem Center Virtual Machine Manager R2でセルフサービスポータル機能を実現しています。松竹梅のようにある程度メニュー化された中からサーバ台数やCPU・メモリ、ストレージ、データベースなどを選んでいくと、その要求に合わせて社内の空いているリソースを切り出してシステムを自動的に組むというものです。
このような仕組みを提供しようとするとき、OSより上のレイヤはわれわれが得意とする部分ですので問題ありませんが、その下のネットワークのパーティショニングやキャパシティといった部分はわれわれだけではどうにもならない面があります。そういう場合に、ブロケードのようなネットワークのベンダーと協力してVirtual Machine Managerとネットワーク管理を組み合わせることが重要になります。
小宮 データセンター内のリソースを、ポータルからセルフサービスで、かつオンデマンドで動的に割り振るような環境を想定したとき、当然それらのリソースはネットワークでつながっている必要があります。また、割り振るリソースには、サーバやストレージだけでなく、ネットワークリソースも含まれます。つまりクラウド環境では、リソースを全てネットワーク化しなければならないということであり、本質的にネットワークの重要性は高まります。そして、このネットワークは、仮想サーバと連携して管理できるようになることが必要になります。ブロケードはこれまでも、このリソースエリアのネットワークに着目してさまざまな技術や製品を提供してきました。マイクロソフトのSystem Centerと連携するBrocade Management Pack for Microsoft System Centerはそのひとつの例であり、これはHyper-Vによる仮想化環境において、ネットワークを含めた統合的な運用・管理を可能にするという点で、今後のクラウド環境への進化を支援するものです。
クラウドにあるのはコンポーネントではなくサービス
――サーバ仮想化環境では、従来のストレージ・エリア・ネットワーク(SAN)に比べてセキュリティやサービスレベルの管理が難しくなるという心配を指摘する人もいます。
小宮 サーバ仮想化環境ではいろいろなレイヤを抽象化してしまうので、管理が難しくなるのは事実です。仮想インスタンスは目に見えませんし、ハイパーバイザー側でプロビジョニングしなければならないものもあれば、ネットワークの側で事前にプロビジョニングしなければならないものもあり、これらの管理がそれぞれ分散していれば、それだけ管理の負荷は高くなります。
ブロケードでは、こうした管理の複雑さを解消することを目的に、ブロケードのアダプタ製品にインテリジェントな機能を実装します。まず、NPIV(N_Port ID Virtualization : ファイバチャネル上のアドレスの仮想化技術)やバーチャルNICといった技術を用いて、仮想マシンの管理と連携したストレージ管理、およびイーサネット・ネットワークの管理を行うことができるようになります。また、Virtual Machine ManagerやOperation Managerで、仮想マシンの管理にセキュリティやサービスレベルのプロパティを用意することで、仮想マシン単位やビジネスシステム単位でそれらを制御できるようになります。これらの機能は、すでに実現されていますし、クラウド環境への進化を見据えてまもなく実装されるものもありますが、重要なのは、いつも使っているマイクロソフトのサーバ管理用ツールから、ストレージもネットワークも、すべてを一元的に制御できるようにすることです。
通常、ネットワークにはネットワーク管理者がいますし、本来システム管理者はネットワークについては関わりたくないはずです。しかし、仮想化環境ではサービスレベルを担保するためにスイッチングの機能をサーバの仮想スイッチから外部の物理スイッチにオフロードする必要があるなど、どうしてもシステム管理者がネットワークに関わらざるを得ない状況が生まれてきます。しかし、システム管理者は必ずしもネットワーク管理について詳しいわけではない。そこで、ネットワークについて知らなくてもシステム管理者の方が困ることのないように、管理が統合されて、しかも各機能が連携して自動的にネットワークとシステムの両方を制御してくれる必要があるのです。
マイクロソフトのSystem Centerと連携して、データセンター内の仮想サーバからネットワークを含めた統合管理ができるようになることで、Operation Managerを見ていれば仮想マシンの性能が足りているかどうかが分かり、予め設定したポリシーに違反して性能が足りていないということであれば、自動的にマイグレーションするといった運用の自動化が可能になります。単に、管理画面にネットワークの表示もできるようになったというレベルではなく、ネットワークについて考慮しなくても、適正なストレージリソースやネットワークリソースが自動的に割り振られるようになる。ここが非常に重要な点であり、ブロケードが実現しようとしているポイントです。
浅野 サーバやネットワークといった個々のコンポーネントではなく、それらが集合したサービスを管理するという言い方が正しいかもしれませんね。サーバ管理ではなく、サービス管理になっていくということです。
あるアプリケーションに障害が発生した場合、これまではスペシャリストの経験に基づいて問題の切り分けを行うのが当たり前でした。例えばメールが止まった場合に、それがメールサーバの問題なのか、ディスクの問題なのか。あるいはネットワークの問題なのか、またはCPUの熱暴走によるものなのかをつきとめようとしたとしましょう。従来は「こういう症状の時はおそらくこれが原因だ」、というようなナレッジが属人的にたまっていて、新人はメールの神様のような先輩エンジニアのところに行って教えを乞い、属人的に問題を解決する、といった状況が普通だったのではないでしょうか。
しかし、クラウドになると、アプリケーションはサーバ、ストレージ、ネットワークがひとかたまりのリソース群になります。それをサービスとしてとらえ、どうしても管理者が手を下さなければならない問題以外は予め設定したポリシーに基づいてシステムが自動で問題を解決し、管理ソフトウェアが判断してリソースを自動配分するような管理手法に変わっていくでしょう。そのためには、1つの管理画面にいろいろなコンポーネントが表示されるといったレベルではなく機能的な連携が必要になりますから、メーカー同士のつながりが非常に重要になります。マイクロソフトとブロケードの連携も、そういう意味でクラウドに向けた重要な役割を担うものです。
各メーカーの協力で機能統合が進む
――サーバからハイパーバイザー、ネットワークまでを1社、あるいは数社で垂直統合ソリューションにして提供しようという動きもありますが、それについてはどう考えていますか。
浅野 マイクロソフトはオープンソフトウェアベンダですので、当然ですがさまざまなハードウェアベンダと一緒にソリューションを提供していこうというスタンスです。特定のハードウェアとソフトウェア、ネットワークの組み合わせでなければ動かないというのではなく、さまざまなプラットフォームベンダーとともにソリューションを提供する。広範なパートナーがいるということが、われわれの強みだと思っています。
小宮 ブロケードも同じ考え方です。われわれはもともとOEMを主体としたビジネスを展開してきており、ほとんどの主要なプラットフォームベンダーと強力なパートナー関係にあります。マイクロソフトもブロケードも"オープンエコシステム"という言い方をしており、われわれ2社の役割は両社のパートナーであるプラットフォームベンダーが、彼らの顧客に対して最適なソリューションを提供できるようにすることでもあると考えています。つまり、垂直統合にするかどうかは、各プラットフォームベンダーの方針に依存する部分が大きく、われわれがいずれかの方向へと促したりする立場にはありません。もちろん、それを否定する立場でもありません。
浅野 ユーザーの買い方の選択肢のひとつですね。オールインワン型のソリューションが欲しいというお客様には、われわれの製品とハードウェアをセットにして提供するベンダーがいる。一方で、各コンポーネントを自社の要求や環境に合わせて個別に買いたいというお客様には、そういった導入のオプションも提供する。マイクロソフトもブロケードも、各プラットフォームベンダーとの強力なパートナーシップを構築していますので、こうした柔軟なアプローチによって、お客様に選択肢をもたらすことができるのだと言えます。
――最後に、サーバ仮想化がさらに普及・拡大し、クラウド型のサービス提供へと舵を切っていく中で、ネットワークを含めたデータセンター・インフラは、今後どのように進化していくでしょうか。
浅野 必要なサービスを、必要に応じて提供していくという環境においては、仮想サーバは仮想サーバ、ネットワークはネットワークというように、コンポーネントごとに別々の管理ツールが必要という状況は好ましくありません。また今後は、プライベートクラウドを構築しながら、ある部分ではパブリッククラウドを活用するといった、ハイブリッド型のより運用も増えてくるでしょう。こうした中で重要なのは、運用の自動化を進め、いかに管理の複雑性を軽減するかという点です。ベンダー同士は、今後より一層連携を深め、一元的でシームレスな管理を可能にしていくことが求められるでしょう。
小宮 ネットワーク側としては、データセンター内とインターネットを含めて、いかにエンドユーザーにニーズ通りのサービスを提供できるかがポイントになります。もちろん、サーバ仮想化に最適化されたネットワークへの対応は進めていきますし、今後はハイブリッドな環境をシームレスにつなぐためのネットワークも重要になりますので、この部分での技術の開発や連携が加速していくでしょう。
ところで、クラウドというと将来のデータセンター設計や運用をどうするか、という話にフォーカスされがちですが、実はもっと直近での課題もあります。来年にはIPv4のアドレスは枯渇すると言われており、その後クラウドはIPv6アドレスによって構築されることになります。しかし、現在企業の社内ネットワークはたいていIPv4で構築されていますから、IPv6ベースのクラウド環境に移行しようとした場合に、実際その運用をどうすれば良いか、という点についてはあまり具体的な解決策は世の中に提示されていないのが実状です。マイクロソフトとブロケードは、この点におけるベストプラクティスを探るべく、国内において共同で検証を行っており、こうした直近の課題への解決とともに、今後大きく進化を遂げるであろうデータセンター・インフラの設計、運用、管理の全般に渡り、包括的な連携を進めているのです。
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提供:ブロケード コミュニケーションズ システムズ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部
掲載内容有効期限:2010年11月17日
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