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公認会計士・高田直芳 大不況に克つサバイバル経営戦略(3)

事業効率が最高でも固定費は予想の2倍!
他社の追撃を侮れないトヨタの“懐事情”

高田直芳
公認会計士
2010/6/3

日産やホンダに追撃されながらも、依然王者としてのポジションを堅持するトヨタ自動車。だが、独自のSCP分析を用いると、外部からは死角になっている“不安の本質”が垣間見えて来る(ダイヤモンド・オンライン記事を転載、初出2009年3月13日)

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 前2回の連載では、ニッサン(日産自動車)ホンダ(本田技研工業)の経営分析を詳しく行なったが、自動車業界を論ずるのであれば、本来は真っ先に業界トップのトヨタ(トヨタ自動車)を扱うべきだろう。

 ところが残念なことに、筆者の住む栃木県にはニッサンとホンダの工場はあっても、トヨタの栃木工場はない。筆者がよく利用する国道4号線沿いの親しみ深い企業として、まずはニッサンとホンダを取り上げた次第だ。

 そこで今回は、トヨタ、ニッサン、ホンダといった「自動車業界トップ3」のパワーバランスをファイナンス分析で明らかにしながら、王者のポジションを同業他社から常に虎視眈々と狙われているトヨタの今後について、徹底分析してみよう。

 2009年3月期は過去最大級の赤字に陥る見通しのトヨタだが、依然として事業規模や市場シェアは他を圧倒している。だが、王者が混乱期に足許をすくわれ、しばしば“下克上“が起きるのも経済界の常だ。果たして、同社に“死角”はないのだろうか?

 もちろん、同じ自動車業界の企業同士を比較するにしても、ニッサンやホンダでは現時点でトヨタと差があり過ぎる。また、四輪車だけでなく二輪車事業も行なっているホンダを、他社と比べるのは無理があることも承知している。それらを予めご了承いただいたうえで、話を進めて行こう。

自動車業界5社のタカダバンドで
はっきりわかる「苦境の凄まじさ」

〔図表1〕自動車大手5社のタカダバンドと売上高

 まず最初に、自動車業界大手5社(トヨタ、ニッサン、ホンダ、マツダ、スズキ)の各種売上高を合算した〔図表1〕をご覧いただき、業界全体の動向を掴もう。

 これらは企業の収益力を示す指標だが、詳細については前2回の「ニッサン」と「ホンダ」の分析コラムをご参照願いたい。また、事業規模が比較的大きい三菱自動車や富士重工業などをあえて割愛したことも、お断りしておく。

 これを見てもらえば、08/3(2008年3月期)において、タカダバンド(実際売上高がここに近づけば近づくほど、企業の収益体質が向上していると見られるゾーン)や損益分岐点売上高(利益と損失の別れ目となる売上高)が、下に大きく蛇行していることがわかる。これは、前回のコラムで採り上げたホンダの影響が大きい。

 また、08/6(2008年6月期)以降、損益分岐点売上高が大きく上昇しているのは、新車販売の低迷により業界全体で減産が起きている影響である。特に、業界最大手のトヨタの影響が強く表われている。

〔図表2〕自動車大手5社の操業度率

 さらに、〔図表1〕を操業度率(事業の効率性)の面から表わしたのが〔図表2〕である。これについても大手5社のみを合算している。

  〔図表2〕の実際操業度率を見ると、08年以降、まさに“つるべ落とし“のように急降下していることがわかる。それに対して、損益分岐操業度率は70%を維持したまま。各社とも08年以降、コスト削減に取り組んでいるにもかかわらず、損益分岐操業度率に改善の兆しを見ることができない。

 皮肉にも、これは企業が長年に渡って築いてきた「コストのピラミッド構造」が、不況期ではそう簡単には崩せないことを意味する。小手先の“カイゼン策”では「スフィンクスの知恵」に対抗することはできず、かの怪物に食べられてしまうだけというわけだ。

 各社とも、工場などを丸ごとリストラするくらいの覚悟を持たない限り、「今はひたすら我慢を重ねて、景気回復における需要増を待つのみ」といった状態が続くだろう。

 もちろん、景気回復を期待する前に徹底したコスト削減に取り組み、筋肉質のカラダにすることを優先すべき業界もある。それについては、今後徐々に紹介していく予定だ。

ニッサンとホンダの事業付加価値
を基に“優劣の変遷”がわかる

 それでは次に、「第二のトヨタを狙う最有力候補」と目されるニッサンとホンダの優劣を、改めて比較分析してみよう。筆者が行司役となって、両社による“ガチンコ勝負”をしてもらうおうというわけだ。

 世間一般では、「財務はニッサンよりもホンダのほうが優れている」と考えられている。だが、その理由が「何となく」では、ただの“評論”に過ぎない。本コラムでは、具体的な数値を使った“分析”をお見せするつもりだ。経営指標を見比べるだけでは月並みであり、見る者の主観に左右されることが多いため、主観を排除するのが目的である。

 まずは準備作業として、両社の「1人あたり事業付加価値」を算定してみよう。これは一般によく知られた“付加価値”と同義である。ちなみに筆者の場合、会計付加価値(注1)という用語も使っているため、一般によく知られた付加価値のほうを、事業付加価値と呼ぶことにしている。

 この事業付加価値は、売上高から材料費や外注費などの変動費を控除したもの。経済学を学んだ読者であれば、変動費を“中間投入物”に置き換えてみて欲しい(注2)。売上高から中間投入物を控除したものが、経済学でいう付加価値のはずだ。

〔図表3〕日産自動車とホンダの事業付加価値

 次に、事業付加価値を従業員数で割ることにより「1人あたり事業付加価値」を求めてみる。これは“労働生産性”と同義であり、ニッサンとホンダの「1人あたり事業付加価値」を求めたものが、〔図表3〕になる。

 ホンダの2008年3月期が14,160千円と低いのは、第2回のコラムで説明した“税金費用”の影響によるものだろう。そのため〔図表3〕を見比べる限りでは、2008年3月期以降、ニッサンに軍配が挙がっているのだ。

 なお、参考までに紹介すると、08年9月期におけるトヨタの1人あたり事業付加価値は、40,951千円にもなっている。やはり「ダントツ1位だけのことはある」というものだ。

 そして、〔図表3〕で求めた各期の付加価値と、それに対応した投資活動キャッシュフロー(両社のキャッシュフロー計算書から収拾)を、次ページの〔図表4〕で示した式に代入する。この式の由来を語り出すとあまりにも険しい坂道を登ることになるので、ここでは詳細を割愛するが、これは資金量と事業付加価値比から、「企業が勝ち残る確率」を算出するオリジナル式だ。

 詳細は拙著『戦略ファイナンス』181ページを参照していただくとして、本コラムでは〔図表4〕の式に基づく計算結果のみを、同じく次ページの〔図表5〕のように、わかり易い円グラフにしてみた。

 これらのグラフを見れば、両社の“優劣の変遷”が一目瞭然である。

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