連載:IFRSとは何なのか(2)
これだけ違う国際会計基準と日本基準
伊藤久明
プライスウォーターハウスクーパース コンサルタント株式会社
2009/7/6
国際会計基準(IFRS)と日本の会計基準との主な違いは「収益」「固定資産」「連結」が挙げられる。連載第2回では、それぞれの影響を簡潔に解説する。実際にIFRSを適用する場合に必要になる財務諸表とロードマップの考えも示す(→記事要約<Page 3>へ)
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(2)固定資産
取得原価を分ける
IAS16号(有形固定資産)では、取得原価を重要な構成部分に配分して個別に減価償却を行なうことを求めている。基準書では、航空機の機体部分とエンジン部分について、別個に償却計算する例が示されている。
構成部分には、修繕などにより取り替えが必要となる部分が含まれる。修繕引当金の計上は認められなくなる代わりに、取得原価から見積り修繕費用を区別し、当該部分については、修繕が必要となるまでの期間にわたり減価償却を行なうこととなる。従って、構成部分の配分に関するルールを検討する必要がある。
税法耐用年数は使えない
IAS16号(有形固定資産)では、耐用年数・残存価額・減価償却方法は、企業独自の見積りにより行うとしている。
耐用年数については、いわゆる経済的耐用年数を用いなければならず、同一資産であっても利用状況、将来の使用可能期間等が異なれば、異なる年数を設定しなければならない。
この経済的耐用年数と税法耐用年数との乖離が大きい場合は、IFRS適用後は、それぞれの耐用年数に応じて2種類の減価償却計算と原価計算を行い、その結果をそれぞれ会計システムで保持するような二重帳簿の検討・システム改修が必要である。
借入費用を資産に計上する
IAS23号(借入費用)では、適格資産の取得・建設・製造に直接帰属する借入費用は、当該資産の取得原価に含め、償却しなければならない。借入費用の固定資産への配分ルールが必要となる。
(3)連結
子会社株式売却損益は計上されない
日本基準では、連結上、子会社株式の売却損益が計上されるが、IFRSでは、当該会社への支配が継続している場合は、子会社株式の売却損益は計上されない。
従って、含み益のある上場子会社の株式を売却しても、支配が継続する間は利益計上できなくなるため、子会社上場の是非を含め、グループ戦略の見直しの契機となる。
のれんは償却しない
日本基準では、のれんは償却することとなっているが、IFRSでは負ののれんは一時期に利益として計上するものの、正ののれんは償却を行わない。
従って、合併・買収後ののれんの償却負担がないため、合併・買収が活発になる。他方、経済環境の悪化により減損損失の計上が必要となった場合、のれんは償却されない分、取得原価が当初発生額のまま据え置かれるため、減損損失が巨額になりやすくなる。(経済環境が)よいときは(財務数値も)よいが、悪いときはもっと悪くなる会計基準といえる。
内部統制の評価範囲が変わる
内部統制の評価は連結ベースで行なうが、IFRSでは連結の範囲が拡大することがあるため、評価範囲の変更と新たに範囲に加わる可能性がある会社の調査・文書化整備が必要となる。