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連載:IFRSとは何なのか(2)

これだけ違う国際会計基準と日本基準

伊藤久明
プライスウォーターハウスクーパース コンサルタント株式会社
2009/7/6

国際会計基準(IFRS)と日本の会計基準との主な違いは「収益」「固定資産」「連結」が挙げられる。連載第2回では、それぞれの影響を簡潔に解説する。実際にIFRSを適用する場合に必要になる財務諸表とロードマップの考えも示す(→記事要約<Page 3>へ)

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IFRS適用の判断

 IFRSを早期適用するのか強制適用まで待つのか、いつから準備を始めるのかについては、様々な要素を勘案して決定することになる。ここではその一部の要素についてみてみよう。

(1)いつから適用するか

 強制適用の前に、海外での資金調達やクロスボーダーのM&Aのニーズがあれば、IFRSを早期適用することがある。なお、現在米国に上場している日本企業は、米国においてはすでにIFRSを適用することができるが、米国でだけIFRSが認められても日本で認められていないとIFRSに移行しづらかった。しかし、日本版ロードマップによれば、2010年3月期からIFRSの任意適用が認められることとなるため、IFRSへの移行の障害が取り除かれることとなった。

(2)いつから準備するか

 前回指摘したように、IFRSの適用は企業内の様々な仕組みの見直しが必要となるが、加えて企業内の様々な取組みにも影響を与える。

 例えば、前者については、IFRSを理解し業務に適切に当てはめることができるような人材を継続的にグループ会社に配置することが難しい場合、シェアードサービスセンターを設立するといったケースが挙げられる。また、後者については、システムのバージョンアップまたは新規導入が予定されている場合、IFRSの要件を取り込んで設計を行いたいというニーズが生じるケースが挙げられる。

 このようにその取組みに長期間要する場合は、その期間を見積もり、別途検討している適用時期から逆算して準備を始めることになる。

(3)準備に必要な財務諸表

 適用初年度におけるIFRSに準拠した財務諸表は、その適用初年度1期分だけではなく、過去分についても必要となる。日本版ロードマップでは、初年度において何期分の比較財務諸表が必要となるかは明示されていないが、IAS1号(財務諸表の表示)およびIFRS1号(IFRSの初度適用)に従うとすれば、3期分の貸借対照表(財政状態計算書)、2期分の損益計算書(包括利益計算書)、キャッシュ・フロー計算書、持分変動計算書が必要となる。

 仮に日本で2015年3月期からIFRSの強制適用が開始された場合、2015年3月期・2014年3月期の貸借対照表に加え、2014年3月期の期首(2013年4月1日)の貸借対照表の作成も必要となるため、2012年度中にIFRSベースへの業務・システムの見直しと期首貸借対照表に係る日本基準からIFRSへの修正項目の洗い出しを完了させ、2013年度から見直し後の業務・システムを稼働できるように、準備開始タイミングを設定するのが望ましい。

2015年3月期からIFRSを適用する場合に必要となる財務諸表

終わりに

 IFRSの適用は、企業内外の関係者とのコミュニケーションが促進されるという点で企業にとってはチャンスといえる。まず、グローバル市場でIFRSという同じ会計基準で財務諸表が比較されるようになるので、業績のよい企業はより多くの投資家から評価されるようになる。M&Aの機会も増え、事業拡大のチャンスをつかむことにもなろう。

 コミュニケーションが促進されるのは企業外部の投資家とだけではない。グローバルに展開している企業において特にその恩恵を受けることになるが、グループ会社の経営層から現場に至るまで、IFRSという共通言語により会話できる環境を得ることになる。

 IFRS適用を単なる会計基準の変更対応と狭くとらえず、社内体制を変革するチャンスとして、関連する諸課題に取り組んでいただきたい。

筆者プロフィール

伊藤 久明(いとう ひさあき)
プライスウォーターハウスクーパース コンサルタント株式会社
ファイナンス&アカウンティング シニア マネージャー 公認会計士

大手監査法人を経て、朝日アーサーアンダーセン株式会社(現プライスウォーターハウスクーパース コンサルタント)に入社。連結決算システム・グループ経営管理システムの導入、決算早期化、ソフトウェアの原価管理制度の構築、会計基準のコンバージェンス対応、IFRS対応等のプロジェクトに従事。著書に「スピード決算マネジメント」(共著、生産性出版)など。

要約

 国際会計基準(国際財務報告基準、IFRS)と日本の会計基準の主な違いは「収益」「固定資産」「連結」にある。収益では検収基準への見直しが必要となり、固定資産では減価償却についての考えが変わる。また、連結ではのれんを償却しないなどが違いに挙げられる。

 これらの差異に対応するには会計処理を変えるだけでなく、業務プロセスやITシステムの変更も必要になる。のれんや子会社売却についての会計処理が変わることで、企業の業績にも影響することが予測される。

 海外でのM&Aや資金調達を行っている企業、米国市場に上場している企業では2010年3月期のIFRS適用も検討できる。社内での十分な人材確保が難しい場合は、会計業務を集約するシェアードサービスの導入も検討すべき。

 IFRSへの移行には、3期分の貸借対照表(財政状態計算書)、2期分の損益計算書(包括利益計算書)、キャッシュ・フロー計算書、持分変動計算書が必要となる。強制適用が予測される2015年3月期にIFRSに移行する場合は、2013年4月1日の貸借対照表の作成も必要となり、2012年度中に準備を終えるのが望ましい。

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