Insider's Eye

加速するマイクロソフトのコミュニティ支援。その狙いは?

デジタルアドバンテージ 小川 誉久
2005/01/29

 ここ数年、マイクロソフトは開発者コミュニティやユーザー・コミュニティの育成に大規模な投資を実施している。コミュニティでの精力的な活動を行なったリーダーを表彰する「MVP(Most Valuable Professional)プログラム」や、ユーザー同士でパソコンに関して助け合うQ&Aサイト「答えてねっと」、開発者コミュニティで構成され、コミュニティをさまざまな面で支援する組織「INETA Japan」、Microsoft .NET開発者のためのオンライン・コミュニティ「GotDotNet Japan」など、枚挙にいとまがない。

 こうしたコミュニティの開発と支援の背景には何があるのか? 昨年末に開催されたコミュニティ・リーダー向けイベント「2004 Japan Community Open Day」に来日した米Microsoft社のコミュニティ担当ディレクターであるショーン・オドリスコル(Sean O'Driscoll)氏、開発者向け製品担当の責任者であるマイクロソフトの鈴木協一郎氏、日本でコミュニティ・プログラムをリードしている沼口繁氏の3名にお話を伺った。

MVPプログラムで世界のコミュニティ育成を拡大中

 現在、マイクロソフトのMVPプログラムは、73カ国、18種類の言語圏で実施されている。MVPプログラムとは、積極的なコミュニティ活動を行った人物を表彰する制度で、「Windows Serverネットワーク」や「セキュリティ」など、分野ごとに前年の実績を評価し、毎年アワードを授賞している。MVP受賞者は、開発中の製品を早期に入手して評価したり、開発中の製品に対する仕様要望をマイクロソフトの開発チームに伝えたりすることができる。またMVPだけが参加できるクローズドなオンライン/オフラインのコミュニティ・イベントが用意されており、MVPとマイクロソフトの技術者、あるいはMVP同士の横の情報交換が支援される。

Microsoft Corporation Director, MVP and Technical Community PSS Global Community
ショーン・オドリスコル(Sean O'Driscoll)氏

 MVPプログラム自体は11年以上前から存在するが、この2年ほどで急速に規模を拡大している。それまでは各国でバラバラだったプログラムを全世界で統一し、世界規模のプログラムとして再構築したからだ。「現在、全世界で2700人がMVPとして活躍しています」とMVPプログラムのディレクターであるオドリスコル氏は胸を張る。世界のコミュニティから有能なエキスパートを見つけ出し、評価し、優れたエキスパートとマイクロソフトとの良好な関係を築くのが仕事だ。「テクノロジ産業におけるイチローを探したいね」とオドリスコル氏は笑う。

 マイクロソフトにとってMVPの存在価値とは何だろうか? 「優れた批判を得るため」とオドリスコル氏は語る。「マイクロソフトは製品開発でネガティブな意見に注目します。この意味で、中立な立場にいるMVPの意見は貴重です」。批判を重視する企業風土があればこそ、MVPプログラムのような活動がうまく機能するのだとオドリスコル氏は述べる。

国内のコミュニティ育成。課題はITプロフェッショナルとアーキテクト

マイクロソフト 執行役 デベロッパーマーケティング本部長
鈴木協一郎 氏

 日本国内でも、開発者向けコミュニティのGotDotNet JapanやINETA Japan、エンドユーザー向け情報交換コミュニティの答えてねっとなどに加え、最近はマイクロソフトの社員によるブログなども次々と開設されている(答えてねっとは日本独自のサービス)。国内でのコミュニティ活動が急速に活発化したのはここ1年ほどのことだ。活動の結果として、マイクロソフトは何を得たのか。「かつては得られなかった、優れた製品フィードバックから実に多くを学びました。この成果は必ず顧客満足度の向上につながるものと確信しています」と鈴木氏。

 しかし日本国内では、GotDotNet JapanやINETA Japanなどソフトウェア開発者向けのコミュニティは活発なものの、情報システムの運用管理を担当するITプロフェッショナル向けのコミュニティはあまり見掛けない。「ソフトウェア開発者は、会社の垣根を越えて自分の知識をシェアしたいと考える傾向が非常に強く、またそれが可能です。これに対してITプロフェッショナルが扱う情報は企業機密に属するものも多く、会社を超えてシェアするのは難しいようです」と沼口氏。

マイクロソフト デベロッパーマーケティング本部 コミュニティプログラム&マーケティング部 部長 兼 MVPリジョナルマネージャ
沼口繁 氏

 米国では、INETAのITプロフェッショナル版のようなコミュニティのCulminis(Culminisのホームページ)があり着々と規模を拡大中だが、日本版Culminisを始めるかどうかは未決定だ。「ITプロフェッショナル向けのコミュニティをいかに日本で構築するかは大きな課題の1つ」(沼口氏)、「日本では、米国などとは異なる独自のITプロフェッショナル向けのサポートが必要だと考えています」(鈴木氏)とハードルの高さに口をそろえる。

 ほかに、日本独自の今後の展開としては、ソリューション・アーキテクトを支援するコミュニティ構築を検討中だ。「試算では、国内に数千人のアーキテクトがいます。今後情報システム開発のオフショア化が進むと、従来の実装/構築部分から比較して、ますますシステム開発の上流工程が重要になります。それが市場のニーズでもあり、マイクロソフトとしてこの分野のコミュニティ支援を積極化する方針です」と鈴木氏は述べた。

 「製品やテクノロジごとにMVP受賞者を選出していることから分かるとおり、これまでのコミュニティ・リーダーは、特定の製品やテクノロジに精通した人たちがほとんどでした。しかしソリューション・アーキテクトは違います。特定の製品やテクノロジを狭く深く知っているというよりも、さまざまな製品やテクノロジについて幅広い知識が必要です。さらにマイクロソフト製品だけでなく、他社製品への理解も不可欠。この意味でアーキテクトはこれまでのコミュニティ・リーダーとは異質です。当面はマイクロソフトのアーキテクト担当エバンジェリストとコミュニティ活動を融合したいと考えています」と沼口氏。

 ITプロフェッショナルとソリューション・アーキテクトのコミュニティ構築と育成が2005年の目標のようだ。

10年前はショップ、いまはコミュニティ

 コミュニティでの情報交換が活発化して、ユーザーが求める情報の質と量が拡充するのはうれしいことだ。しかしいまや情報量が多すぎて、必要な情報にたどりつくこと自体が困難になっているように見える。今後ますますコミュニティが活発化すると、この問題も大きくなってしまうのではないか。これに対しオドリスコル氏は「まったく同感です。現在私たちは、複数のコンテンツ・サイトにまたがって情報を検索できる『フェデレーテッド・サーチ(federated search)』の仕組みを開発中です。また次のLonghornでは、コミュニティへのアクセス機能を統合するというアイデアもあります。問題を回避すべく、マイクロソフトとしてさまざまな投資を実施しています。ただしまだ道半ばで、どれが最終的なサービスとして残るかは分かりません」と述べた。

 MVPプログラムやINETA Japanの活動などに加え、こうした次世代のコミュニティ・システムへの開発投資など、マイクロソフトのコミュニティ育成に対する投資は明らかに突出して見える。企業活動の一環として投資する以上は、それが何らかの形で企業利益に貢献しなければならないはずだ。この疑問をオドリスコル氏にぶつけてみたが、残念ながら建前論で逃げられた。しかし来日途上の飛行機の中で次のように考えたという。「2週間前に新しいデジタルカメラを買いました。10年前なら、まずはお店に行って実物を見たり、店員に聞いたりしてどれを買うか決めたものです。いまはどうか。まずデジタルカメラのオンライン・コミュニティに行くのが早道です。そこには本当のことがたくさん書いてあるから」とオドリスコル氏。マイクロソフトのコミュニティ戦略の本質に触れる発言なのかもしれない。End of Article

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