Linux導入事例 (2)
跡見学園女子大学

Linuxの学習を通して
学生の情報リテラシーを向上

宮下知起
株式会社グルージェント
2000/8/24

跡見学園女子大学は、文科系の大学でありながら情報教育に非常に熱心に取り組んでいる。昨年からは本格的にLinuxの教育もスタートし、学生の関心も非常に高いという。今年度に入り、メーカーの協力を得てマルチメディア教育センターに本格的なLinuxの環境を構築した。Linux導入の成果は学生の積極的な取り組みに大きく表れた。一方で、今回の導入はLinuxであるにもかかわらず、コスト面での問題を残したという。

文科系の単科大学でありながら
情報教育に力を入れる

 跡見学園女子大学は、今年で創立125周年を数える跡見女子学園に、1965年に設置された。文学部のみの単科大学だが、情報教育に非常に熱心な取り組みを行っており、情報技術(IT)に対する学生たちの意識は非常に高い。「学生たちは、最近のITブームや企業の情報化に遅れてはならないという、ある意味で危機感を持っています。情報技術を身に付けることは就職に有利であるという意識が強く、学習意欲も非常に高いのです」(跡見女子大学 マルチメディア教育センター長 文化学科教授 工学博士 松村幸輝教授)

 同大学では、一昨年前まで、選択科目として情報リテラシーの講座(WordやExcelの実習)を設けていた。非常に競争率が高く人気があったため、昨年度から情報教育に関する科目をさらに拡充し、必須講座を設けることにしたという。その内容だが、1年次の講座として「情報処理基礎」を、情報処理基礎を修了した後に2年次以降に受講できる講座として「情報処理応用」を設置した。

 講座の内容は、MOUS(*1)の受験も睨んだマイクロソフトオフィスの学習からPhotoshopを使ったCG(Computer Graphics)の実習、Excel/VBAプログラミングのような高度なものまでと幅広いが、中でも注目されるのがCプログラミングの科目があることだ。

*1:MOUS(Microsoft Office User Specialist):マイクロソフトオフィスの利用能力を証明する、マイクロソフトが行う世界的な資格認定制度。PCのエンドユーザー向けの資格。

C言語教育がLinux導入のきっかけ
学生の反応は予想以上

 マルチメディア教育センターには、現在PCが設置されている実習教室が5つと、自習室が1つある。そのうち2つの教室にLinuxが導入されている。ところで、情報リテラシーを高めるためとはいえ、何故、文科系の女子大学の授業にLinuxを導入したのだろうか? その理由は、前述のCプログラミングの科目を設置したからだという。「Cプログラミングを教えたいというのが最初の動機です。マイクロソフトのVisual C++などもありますが、C言語はUNIXと密接な言語ですから、UNIX環境で教えるのが非常に効率が良いと考えました。そこで、UNIXに限りなく近い環境を実現しているLinuxの採用を考えた」(松村氏)

 「ソフトウェアのプログラミングの世界では、文科系や理科系といった区別がありません。文科系の学生でも将来プログラミングの世界で充分に活躍できる可能性を持っています。本学の学生からもプログラマがどんどん誕生してほしいというのが願いです」(松村氏)

マルチメディア教育センター長 松村幸輝教授(工学博士) (左)と、マルチメディア教育センター 江連昭雄氏(右)

 C言語教育は、実際には「情報処理応用」の中に「Linux環境とCプログラミング」という科目を設置し行われている。Linuxの基本的なコマンドからCプログラミングの基礎までを受講することができる。「毎期定員20名のクラスですが、学生達には非常に人気が高く、私たちも驚くくらいに熱心に学習しています」(松村氏)。実習では、Cプログラミングのコンパイラにはgccを、エディタにはX-Emacsを使っている。

 松村氏は「我々の熱意と教え方によって、学生が食いついてくれると立証できた」と話す。具体的な成果も出てきている。初級システムアドミニストレータ(*2)の受験を希望する学生が増えており、合格者も増える傾向にある。

*2:通産省が主催する情報処理技術者試験の中の1つ。エンドユーザーがコンピュータシステムを有効に活用できる能力が試される。コンピュータの導入計画、表計算、データベースなどが出題される。

Linuxそのものを学生に教えたい

 ところで、UNIXやC言語を学習させるためであれば、UNIXマシンを1台入れて、PCからtelnetで接続する方法もあるはずだ。だが、Linuxを導入した理由は「ただ、コマンドやC言語だけでなく、UNIX環境を教えたいのはもちろん、それ以上に、やはりLinuxそのものを教えたいということがあったのです。あたかも1人1台のワークステーションがあるかのように教えたかった」(松村氏)からだという。

 Linuxの導入は、マルチメディア教育センター長の松村氏自身の選択だ。同氏はPC-UNIXの経験が長く、FreeBSDやLinuxに長年触れてきたという。とくに、PCがPC-AT互換機全盛の時代になってからは、FreeBSDではなくもっぱらLinuxを使ってきた。前職では、茨城大学工学部システム工学科で情報工学を教えた。「Linux環境でCプログラミングを組み、技術計算を行っていました。個人的に、かなり前からLinuxの使い勝手の良さを高く評価していました」(松村氏)という。「UNIX環境を忠実に教えるには、本当はUNIXマシンそのもので教育するのが良いのでしょう。しかし、Linuxはやろうと思えば自宅のPCでトライすることもできます。しかも、非常に使いやすいところが良い」(松村氏)

マルチメディア教育センターの教室は、学生がいつでも自習できるように開放されている。この教室には40台のPCが設置されており、こちらもLinuxとWindows NT 4.0がデュアルブートできる。学生のモニタの隣には先生の画面を映し出すモニタが設置されており、これを見ながら実習できる環境が整えられている

 ところで、センター長の松村氏がLinuxを高く評価していたとしても、オープンソースであるLinuxへの信頼性の不安等から、周囲の反対の声はなかったのだろうか。マルチメディア教育センターの江連昭雄氏は「UNIXとC言語を教えたいと聞き、当初、私自身はUNIXマシンを導入すべきではと思いました」と語る。松村氏は同氏にLinuxを採用する理由を説明し、お互い納得の上導入を進めたという。「UNIX環境をPCで教えられるので非常に低コストで済む。しかも、PCなので学生に非常に親しみやすい。ネットワークの教育にもよい」(松村氏)

 Linuxの導入が決定すると、昨年度はPCが40台設置された既存の教室にLinuxを導入した。各PCの既存のWindows環境は変更せず、VMware(*3)を使いLinuxを導入した。インストールからネットワークの構築まで、全て自分たちの手で行ったため、金銭的なコストはまったくかからなかったという。昨年度は、この1教室でLinuxの授業を行った。

*3:Windows NT 4.0/2000上に仮想PC/AT互換機を構築し、LinuxなどをゲストOSとして導入できるソフトウエア。

メーカーが実際の導入作業を行ったが
コスト面で問題が残る

 今年に入り、新たに30台のPCを新規教室に導入する機会に合わせ、PCメーカーに2教室へのLinuxの導入を委託した。メーカーには、技術的なコンサルティング、PCの設置からLinuxのインストール、各PCのコンフィグレーションまでを委託した。

今年新たに30台のPCを導入した教室。この教室でCプログラミングの授業が行われている。PCは、LinuxとWindows NT 4.0がデュアルブート可能なようにセッティングされている。インストールされているLinuxのディストリビューションはRed Hat 6.2である

 既存教室の40台と新教室の30台を合わせた70台のPCへのLinuxのインストールは、ネットワークインストールで行った。そのため、各PC毎の設定を含めてわずか2日間で全ての作業が終了した。

 各教室には1台のLinuxサーバが設置されており、このサーバでユーザー管理が行われている。各PCは、LinuxとWindows NT 4.0がデュアルブート可能な環境に設定されている。ユーザーのホームディレクトリは、サーバ上のディスクをマウントして利用するよう設定されている。ローカルディスク上にはLinuxの基本システムとgccのコンパイラ環境、エディタ、Netscape Navigatorなどのアプリケーションがインストールされている。また、大きな障害が発生した場に備え、教室のPCの構成に合わせて作られたリカバリCD-ROMが用意されている。このリカバリCD-ROMでPCをブートすれば、インストールの初期状態に復旧できるというわけだ。

 UNIXではなくLinuxを採用した最大の理由は、低コストに導入したいということだった。だが実際は、予想以上にコストがかかったという。「昨年、自分達で導入したときはタダだっただけに、余計に高いと感じました」(松村氏)

2台のLinuxサーバで、それぞれの教室のLinuxクライアントのユーザー管理を行っている。ユーザーのホームディレクトリもこれらのサーバの上に置かれている。

 この辺り、メーカーとユーザーの間の論理の違いが見える。Linuxはオープンソースなのだから安く抑えたいというユーザー側の論理と、OSは安くてもサービスの部分でしっかり利益は得たいと考えるメーカー側の論理の間にギャップがあるようだ。

 アフターサポートに関して、メーカー側の対応は充実しているという。「アフターサポートに関しては充分な内容の契約を結びました。実際、導入後に動かないPCがあったり、X-Emacsが動かないなどのコンフィグレーションのトラブルがあったりしましたが、直ちに対処していただきました」(松村氏)。導入後の細かなトラブルの対処には、意外に多くの時間と労力を消費する。アフターサポートが手厚い分には、メーカーに導入を依頼するメリットが大きい。

 今後の展開だが、やはり、導入コストについて今回以上に厳しく考えたいという。「Linuxを導入した最大の理由は安く導入できる点でしたから、コストは今後の最大の課題です。UNIXとC言語を学習させるためだけを考えたら、UNIXマシンを1台導入し、各PCにはエミュレータソフトを入れるだけでも良いわけです」(松村氏)

 「UNIXはプロ指向のOSですが、非常に良い部分を持っています。とっつきにくくはありますが、うまく教えてあげれば誰でも使えるということをわかっていました。ですので、今回の導入の成果には満足しています。UNIXは発展性のあるOSですので、これからも紹介していきたいです」(松村氏)

 

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