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月刊IFRSフォーラム(4)

3月:IFRS時代の不正会計/記事ランキング

垣内郁栄
IFRS 国際会計基準フォーラム
2010/3/31

内部統制報告制度が導入されても減らない不正会計。最新の事例を紹介し、そこから学べる課題や解決策を示します。原則主義に基づくIFRSでは不正会計はどのように変貌するのでしょうか。

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 企業の不正会計が相次いでいます。古典的な資金の使い込みから、子会社を使った不適切な会計処理など、手口はさまざま。原則主義を取るIFRS(国際財務報告基準、国際会計基準)の時代にはどのような不正会計が起きるのでしょうか。IFRS適用会社ではありませんが、グループ子会社の会計処理が問題となったケースを紹介します。

海外の販売子会社で不正会計処理

 日本ビクターとケンウッドが統合し、2008年10月に誕生したJVC・ケンウッド・ホールディングスでは、2月に子会社である日本ビクターの欧州販売子会社を中心とする過去の不適切な会計処理を公表しました。3月29日付で東証に提出した「改善報告書」によると、不正会計があったのはスペイン、ドイツ、オーストリア、中国の販売子会社のほか、ドイツのサービス子会社、オプティカルコンポーネント事業部、そしてビクター本体などです。期間は2005年3月期から2010年3月期第2四半期です。

 スペインの販売子会社では販売促進費などの営業関連経費を先送りし、売掛債権の滞留や未計上債務が発生していました。また、ディーラーの倒産などによって回収が困難になった売掛債権や、製品在庫の引当不足がありました。ドイツの販売子会社でも同様に営業関連経費の処理先送りが発生。オーストリアでは委託加工先との取引形態を変更したにもかかわらず、それに合わせた会計処理を行っていませんでした。これによって回収困難な滞留債権の引当不足や、為替差損の未計上が発生しました。

 オプティカルコンポーネント事業部では利益を計上する一方、その子会社では費用を先送りするなどの不適切な会計処理を行っていました。それによって債権の過大計上が発生しました。ドイツのサービス子会社では、ドイツの税法に従って計上した退職給付引当金を、IFRSに基づく退職給付債務に訂正する必要があることが判明しました。この未処理費用の処理や、退職給付引当金の訂正などで損失が発生しました。

 これらの損失処理の影響額は約171億円。ビクターとJVC・ケンウッド・ホールディングスは2005年3月期以降の過年度決算を訂正しました。また、経営統合で発生した約32億円の「負ののれん」がビクターによる過年度決算の訂正で約62億円の「正ののれん」となりました。負ののれんの償却額の取り消し(営業外収益の減少)と、正ののれんの全額損失処理により、影響額は合計で約148億円となりました。

内部統制システムに問題

 不適切な会計処理が5年にわたって放置されていた原因は「ビクターにおいては、金融商品取引法が前提とする内部統制システムが適切に運用されていないこと」と報告書はまとめています。欧州の販売子会社ではそれぞれの現場が利益を上げるために勝手な会計処理を行い、定められていた会計処理のルールを逸脱していたようです。これに対するビクター本社の定期的な監査やモニタリングも不十分で、内部統制システムが働いていませんでした。

 JVC・ケンウッド・ホールディングスはこれらの原因を受けて、コンプライアンス教育の強化や「経理部門に業績達成に対する連帯責任を負わせるような企業風土」の改善、海外販売子会社や事業部経理のダブルチェック体制、本社経理部門とのクロスチェック体制の確立などを行い、モニタリングについても強化するとしています。

原則主義に基づく会計処理

 子会社による不適切な会計処理、もしくは不正経理については近鉄やローソンなどでも発覚し、損失の計上や関係者の処分に追われました。IFRSでは連結についての考え方が変わり、本社はよりグループを意識した経営が必要になります。また、グループ全体で統一した会計処理のルールを定めないと効率的なIFRSの会計処理は難しいといわれています。会計処理がグループできちんと行われているかどうかはモニタリングで確かめる必要があります。IFRSは、漏れが考えられるような処理やプロセスを見直すよいタイミングになりそうです。

 一方、IFRSが採用する原則主義の考えが企業の会計処理の判断にどのような影響を与えるのかについても議論が必要なように思います。ある1つの取り引きを会計処理した場合、その判断は原則主義に基づくはずです。しかし、別の判断で別の会計処理が行われる可能性もあります。原則主義に基づいて行った会計処理が外部から不適切と指摘された場合、それに反論できるだけの強い論理性を企業が持つことができるのでしょうか。日本公認会計士協会が公表している欧州での事例(参考記事)のような過去事例の確認が必須になるように思います。

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