第5回 自動車組み立て現場でのRFID利用
 〜RFIDは既存システムの援用か、独立した新システムか


西村 泰洋
富士通株式会社
ユビキタスシステム事業本部
ビジネス推進統括部
ユビキタスビジネス推進部
担当課長
2006年9月9日

 さまざまなケーススタディから学ぶ

 それでは、具体的なケーススタディを見ながら、既存システムとの連携と新システム構築の違いに関する理解を深めていきましょう。といきたいところですが、その前に、どのような問題意識を持ってケーススタディを見るべきか整理しておきましょう。

 これまで本連載では、RFIDシステム構築の最初のフェーズでは、

  • BPOE(業務:BP、対象物:O、環境:E)視点で現場を見る
  • フィージビリティスタディの総合評価の結果としてハードウェアの選定をする

ということを徹底して解説してきました。今回および次回に紹介する事例においてもこのポイントを押さえて、どのような過程をたどって最終的にはどのような運用になったのかというところを確認してください。

 紹介する事例は、既存システム連携として自動車製造業と流通業、新システム構築として位置管理システムを取り上げますが、誌面の関係上、今回は自動車製造業の事例のみを紹介し、残りの2つは次回に回したいと思います。

 自動車製造業ケーススタディ

 自動車製造業のALCライン(組立工程ライン)では、RFIDシステムの導入が進みつつあります。ここでは同様の事例が多い典型的なケースを紹介します。

●フィージビリティスタディまで

 ユーザーの要求は車両の組立工程で利用したいということで、RFIDシステム導入後の利用シーンは以下を想定していました。

車台が各工程を移動していくときにさまざまな部品が組まれていくラインにおいて、

  1. 車台または車台を載せている物流機器にICタグを貼付して、
  2. 各工程に設置したリーダ/ライタにより車両の製造番号などを読み取り

ながら組立作業を実施する。

 つまり、RFIDシステムを導入し、ICタグから製造番号や作業指示などのデータを読み取りまたは書き込みをすることで、迅速な作業指示の伝達と各車両のステイタスの情報の管理をすることが目的です。

 現場である工場敷地内には無線LANが導入されていることが分かっていたので、この時点で2.45GHz帯は対象外となりました。フィージビリティスタディは、それ以外の周波数帯を使う据え置きタイプのリーダ/ライタで実施されました。

 さて、結果的にどのようなRFIDシステムの導入になったでしょうか。周波数帯、リーダ/ライタ、ICタグ、システム構成、モードなどを予想してみてください。

●システム導入

 ここで基本に立ち返って見てみましょう。BPOEの視点です。この事例を整理すると、

  • 業務:自動車の組立工程
  • 対象物:車台またはライン関連機器
  • 利用環境:すべてが金属製で、温度は常温

となります。ケーススタディを参考にするときも、必ず3つの視点で見るようにしてください。このように整理することが実際のシステム構築でも役立ちます。

 実際のシステムは以下のようになりました。

 周波数帯は、UHF帯(952-954MHz)を導入しました。事例企業の場合、13.56MHzでもよかったのですが、将来における後工程での利用をかんがみて、通信距離のあるUHF帯を選定しました。

 リーダ/ライタは据え置きタイプ、ICタグは標準的なカードタイプとし、各ハードウェアはネットワークで接続されたシステム構成となりました。エア・インターフェイスは、ISO 18000-6 TypeBを採用しています。その理由は、製造番号、作業指示番号などのデータの書き込みをするためにユーザーメモリが十分にあるものが適していたからです。

 このシステムを導入した結果、作業の迅速化と精度向上が図られました。具体的には、バーコードスキャンよりも作業が早くなり、ICタグに作業指示が収められていることから作業精度が向上しました。

●金属の影響への対策

 ここまでの解説で「あれ、標準のカードタイプのタグでいいの?」と思った読者もおられるでしょう。この事例の現場は、対象物ならびに利用環境がいずれも金属という厳しい環境です。ICタグ自体はプラスチック製のカードタイプを利用していますが、ICタグと対象物の間にスペースを作ることで金属による性能の減衰を抑えるようにしています(第4回参照)。

●システムエンジニアが迷う2つのモード

 第3回でモードが2種類あることを解説しました。エンジニアの中には、実際のシステム構築においてどちらのモードが適しているか迷う人もいます。

 この事例におけるモードは、

  • 対象物が通信範囲内に入ってくるタイミングが事前に分かること
  • 作業者の作業開始の確認があること

から、コマンド発行後に読み取りまたは書き込みをするモードを選択しました。

 さて、皆さんの予想はどこまで当たったでしょうか。次回は、流通業と新システムの事例を解説していきますが、BPOE視点で諸条件を理解したら、どのようなシステムと運用になるかを想定できるように訓練してください。必ず実際のRFIDシステム構築の場で役立ちます。

2/2
 

Index
自動車組み立て現場でのRFID利用
  Page1
既存システムにおけるRFIDシステムの位置付け
新システムとしてのRFIDシステム
RFIDシステム構築における課題
Page2
さまざまなケーススタディから学ぶ
自動車製造業ケーススタディ


Profile
西村 泰洋(にしむら やすひろ)

富士通株式会社
ユビキタスシステム事業本部
ビジネス推進統括部
ユビキタスビジネス推進部
担当課長

物流システムコンサルタント、新ビジネス企画、マーケティングを経て2004年度よりRFIDビジネスに従事。

RFIDシステム導入のコンサルティングサービスを立ち上げ、自動車製造業、流通業、電力会社など数々のプロジェクトを担当する。

著書に「RFID+ICタグシステム導入構築標準講座(翔泳社)」がある。

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