第5回 スラップ&シップでRFID張り付け要求に対応する


伊東 英輝
日本オラクル株式会社
システム製品統括本部
Fusion Middleware技術部
RFID&EDAグループ
シニアマネージャー
2006年2月2日
RFIDの技術的な理解は進んだ。これからは、RFIDを使ってどのようなシステムを構築していくべきかが問われる。RFIDシステム構築エンジニアに必要なスキルと知識を解説する(編集部)

 近年、日用品、医薬、家電の物流分野において、輸送物にRFIDタグを張り付けることが盛んにトライされています。欧米ではウォルマート(Wal*Mart)など小売業者が先導し、RFIDタグを張り付けて商品を納めるサプライヤ(納入業者)が増えているのが事実です。そのため、コストを掛けずにRFID張り付け要求に対応するソリューションとしてスラップ&シップ(Slap & Ship)が盛んに行われています。

 グローバル化が進んだ現在、海外で事業を展開する日本企業も小売業者のRFID張り付け要求に応えなければならないケースが増加しています。そして、この流れは日本の小売業界にもいずれ来るでしょう。そのときに対応できるよう、本稿では小売業者からのRFID張り付け要求を実現するスラップ&シップを説明します。

 RFID張り付け要求がある背景

 スラップ&シップの説明をする前に、小売業者とサプライヤが行うべき課題の中でスラップ&シップがどの段階のソリューションであるかを理解する必要があります。実際は複数の次元に分類されますが、簡単に考えるために3つのレベルに小売業者とサプライヤの課題を分類します。

 レベル1は、小売業者がすぐにROI(投資対効果)を出せるもので、小売業者内物流業務の効率化や流通過程での紛失物削減が含まれます。ここではサプライヤ側のメリットは少なく、サプライヤとしてはできるだけコストを抑えてRFID張り付け要求に応えたいと考えます。ここに今回説明するスラップ&シップのソリューションを適用します。

 レベル2は、サプライヤもメリットを得られる段階です。ここでは、サプライヤを含んだ物流の効率化や小売業者との情報交換によって生じるさまざまな価値を見いだすことができます。例えば、小売業者ときめ細かな商品売上データを共有するなど、製造から販売に至るまでの物流改革によって在庫の可視化と適正在庫の管理を行うことができます。その結果、欠品率削減による売上機会損失の最少化だけでなく需要に応じた製造計画が可能になります。

 このレベルでは、サプライヤの物流をRFIDに対応させるために、既存システムをRFIDミドルウェアと連携する必要があります。小売業者とリアルタイムに情報を共有するためには、既存システムをイベント駆動型アーキテクチャ(EDA)に移行する必要も出てきます。

 レベル3は、小売業者とサプライヤが「1:1」の関係ではなく「N:N」の関係を構築し、業界全体でメリットが得られる段階です。例えば、EPCglobalネットワークを利用したシステムを構築して商品のトレーサビリティを行うことや、GDS(Global Data Synchronization)のような単一なデータレポジトリを複数の企業が活用して商品の同期化を行うことです。このレベルでは業界標準技術を採用することが重要であり、EPCglobal規格ではEPC ISとの連携が重要になります。

 将来的には、RFIDタグの利用が商品を販売で終了せず、販売後にも応用されると思われます。例えば、製品に安全上の瑕疵(かし)があっても流通経路を特定して消費者の安全を確保することや、修理、リサイクル分野にも適用することにより環境に優しい循環型社会に貢献できます。

 例えば、家電業界では、小売業者との相乗効果も視野に入れながら、家電電子タグコンソーシアムを設立しました。この団体は、電子タグのユースケースの標準モデルを作成し、積極的に国際標準化に関与し国際競争力を高めることを目指しています。

【関連リンク】
家電電子タグコンソーシアム

 レベル3まで考えると、検討ばかりで時間が経過するだけで終わってしまいます。そこで、コストをできるだけ抑えスモールスタートで始めて、前に進むという考え方が重要です。スラップ&シップは、スモールスタートで始めて大きく育てるのに最適なソリューションです。

 スラップ&シップの意味

 スラップ&シップはなじみがない言葉だと思います。そこで、英和辞典で調べてみました。

Slap ‐ 平手打ち
Ship ‐ 船

 平手打ちと船? 船を平手打ち? 全く意味不明ですね。名詞ではなく動詞で調べてみましょう。

Slap ‐ (平手で)ぴしゃりと打つ
Ship ‐ (トラック、列車などで)送る、輸送する、出荷する

 どうやらスラップ&シップとは「ぴしゃりと打ち、輸送する」ことだと分かりました。「ぴしゃりと打つ」をさらに理解するために英英辞典で調べてみました。

Slap ‐ to put or stretch something quickly onto a surface:

 slapとは「表面上にすばやく何かを置くことや伸ばす」という意味です。何か(Something)をRFIDラベル(RFIDタグを含んだシール)、表面(Surface)を梱包箱や輸送パレット、かご車の表面と理解すると、スラップ&シップは「RFIDラベルをすばやく梱包箱やパレットに張る&出荷する」となります。

 つまり、スラップ&シップとは、本格的にRFIDシステムを導入するのではなく、RFID対応を求めている納入先向けに、倉庫や配送センター内で、RFIDタグが埋め込まれたラベルシートを張って出荷することです。RFIDタグは、バーコードラベルの中に含まれていて製品を運ぶパレット、ケースや商品箱に張られます。

 タグの張り付けは、業務上、製造過程で自動化すると効率的ですが、製造システム側の変更が求められます。そのため、コスト、スピード、リスクの観点から、多くの企業は出荷段階で対応できるスラップ&シップを採用しています。

 以下の図は、商品物流の中におけるスラップ&シップの適用範囲を図で示したものです。RFID張り付けを要求している小売業者向けに配送する販売物流センターなどで実施します。

 
1/2

Index
スラップ&シップでRFID張り付け要求に対応する
Page1
RFID張り付け要求がある背景
スラップ&シップの意味
  Page2
業界標準のEPCを使う
スラップ&シップを実現するためのポイント
スラップ&シップに必要なソフトウェア


RFIDシステム構築エンジニアへの道 連載インデックス


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