近未来の百貨店像を探る―化粧品とRFIDの親和性


柏木 恵子
2007年2月7日


 化粧品フューチャーストアをバーチャル体験(続き)

●カウンセリングを受ける(Memory)

 化粧品売り場の特徴にカウンセリング販売がある。これは、顧客別にカルテを作って、それまでの購入履歴や肌の状態などを販売員が把握して接客するものだ。

 これまでのカルテは、病院のカルテ同様に紙媒体であり、保管するのにそれなりの広さの場所を必要とする。最近では個人情報保護の観点からセキュリティも重要視されている。また、どのようなサンプルをいつ渡したかといった細かい情報までは記入されていないケースが多い。

 カウンセリング販売では、カルテのほかにカウンセリングブックと呼ばれるサポートツールも使われる。この2つを電子化し、タブレットPCに呼び出すようにしたのが「eカウンセリング」だ。

 カルテを電子化することで保管場所とセキュリティの問題を解消できる。また、サンプルを渡すときにタグをリーダに読み込ませることで、細かい接客履歴をログとして残すことができる。eカウンセリングによって得られた情報は、SCMシステムと連携させることも可能だ(「ソースタギングSCMシステム」実験)。

eカウンセリング
タブレットPCで情報を見せながら、 テスターをRFIDリーダにかざしてカルテに記録している

●使い方を確かめ使用する(Action)

 実際のところ、化粧品の正しい使い方というのは難しい。売り場でサンプルを受け取って、使い方を教わっても、家に帰ると忘れてしまうこともある。そこで、貼付したタグを家庭のPCで読み取って情報を提供することを、消費者がどのように評価するかを検証するのが「電子タグ@ホーム」実験だ。

 なお、今回の実験では、売り場の一角にシミュレーションブースを設置して、デパート内でアンケートを実施する。まだまだ、自宅PC用RFIDリーダが普及していないことやプライバシー保護の観点から、化粧品に貼付されたタグは販売時に外されることになっている。

 タグのトラッキングにより、どのサンプルのデータが参照されたかを把握することもでき、消費者の声をダイレクトに受け取れる新しいマーケティングツールとしての可能性をうかがわせる。

電子タグ@ホーム
シミュレーションブースを作って実験。化粧品に付けられているRFIDタグも販売時に外される

 これまでRFIDは、工場内やSCMなど縁の下の力持ち的な使われ方が多かったが、消費者がじかに触れる利用法を試すものとして、今回の実験は非常に注目される。

製配販一体のソースタギングで世界の先頭を走る日本の百貨店

 百貨店における電子タグ活用拡大実証実験は、三越以外の百貨店でも同時に実験が行われている。婦人靴にRFIDタグを貼付する作業をメーカーの段階で行う「ソースタギング実証実験」は、京王百貨店、小田急百貨店、東急百貨店、井筒屋、三越、高島屋、阪急百貨店の7百貨店19店舗で展開中だ。

 三越、高島屋、阪急ではすでに婦人靴でのRFID利用が実運用されているが、それぞれ個別にシステムを構築している。新たに参加した4百貨店では、共同利用型のプラットフォームを利用し、導入コストの削減やタグ情報の共有によるマーチャンダイジング(商品戦略)の高度化を狙っている。

 京王では、店頭100点、ストック1000点の合計1100点の婦人靴にRFIDタグを貼付する。対象となるのは、ソニアリキエル、マリーファム、ナチュラルビューティの3ブランド。このうち、ソニアリキエルとマリーファムは卸業者がRFIDタグを貼付する従来型のリユース型タグを使うが、ナチュラルビューティはメーカー内でJANコードと一体型のRFIDラベルを貼付するソースタギングを実施する。

 ソースタギングにより、従来型では卸業者が行っていたJANコードとRFIDタグの紐付け作業が省略されるほか、メーカー出荷時から効率的な検品が行える。

左:靴箱に張られた一体型RFIDシール。
  店頭陳列時には一部分を外して値札に張り付ける
右:靴に値札として付けられたRFIDタグ

 婦人靴の場合、店頭に陳列されているときにRFIDタグが壊れる可能性がある程度で、リユース型の方がコスト的には有利だ。それでも使い捨て型のRFIDラベルを採用したのは、製造・配送・販売にまたがるサプライチェーンマネジメントと、タグ情報の共有によって得られる付加価値が高いROI(投資対効果)を生み出せると期待しているからだ。

左:目視を伴う検品作業では、短い通信距離で事足りる
右:消費者がサイズや色を選択して在庫や類似商品を検索できる

 実証実験を推進している経済産業省の担当者が、「米ウォルマートなどの導入事例が先行していたサプライチェーン分野のRFID利用だが、ここに来て日本が世界中で一番進んだものと確信している」と語ったのが印象的だった。(@IT編集部 岡田大助)


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Index
近未来の百貨店像を探る―化粧品とRFIDの親和性
  Page1
なぜ化粧品がRFID実証実験に選ばれたのか
7種類の実証実験に意欲的に取り組む
 
  Page2
化粧品フューチャーストアをバーチャル体験
Page3
化粧品フューチャーストアをバーチャル体験(続き)
製配販一体のソースタギングで世界の先頭を走る日本の百貨店


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