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連載:IFRS時代の新リスク管理入門(1)

内部統制に対応した企業はIFRSで何をすべきか

河辺亮二、伊藤雅彦(監修)
株式会社日立コンサルティング
2009/10/1

日本版SOX法対応を行った企業は次に何を行うべきか? IFRSとリスク管理との関係を解説し、IFRS適用初年度をどう迎えるべきかを解き明かす(→記事要約<Page 3>へ)

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「情報と伝達」のあり方

 IFRSでは、事業業績の変動を測定することに加え、財政状態の変動をタイムリーに測定する目的で、四半期ならびに月次の決算が位置付けられる。そのため、事業拠点やグループ会社からのレポートの内容がこれまでの業績報告(損益)にとどまらず、企業の保有する財産の価値変動にまで及ぶことが求められる。さらに、業績変動や事業価値変動からくる危険の兆候(リスク)を認識し、適確にコントロールするために、適切なKPIの設定と判断を行う上でのしきい値の設定(ならびに定期的な見直し)が求められる。

 そのためには、グループレベルで統一された経営方針の設定と、情報収集体制の確立が必須となり、かつマネジメントアプローチのもと、当該情報収集体制は、経営意思決定の単位(DMU:Decision Making Unit)で、整然と事業セグメント単位で割り振られ、定期的な報告により価値の変動がモニタリングされていることが望ましい。いわば、経営情報システムは、企業の神経経路として、あまねくグループ全体に張り巡らされ、自己免疫としての内部統制システムに守られつつ、経営目標である企業価値の向上に寄与することが求められる。

 これにより、ビジネスへスピードが求められる業界においては、情報の鮮度は高いことが求められ、より現場に近いところで意思決定を行うことで機会損失の最小化が図れるであろう。また多額の投資が必要なビジネスでは、中長期での資産価値の変動をコントロールすることで、ビジネスリスクの最小化を実現してゆくことにつながる。

 さらに、IFRS時代のグループ経営の視点としても、統合リスクマネジメントの視点が重要となる。これまで、単独の企業の保有する個別事業の連結として捉えてきた事業価値や事業リスクの測定を、シナジー効果を含めたグループレベルでの事業価値や事業リスクの測定として捉えなおす必要がある。従って、IFRSを導入するということは、既存の内部統制に加えて、グループ事業の運営方式、ならびに業績評価ルールなど、経営の基本構造にメスを入れることにほかならない。

IFRS時代のグループ会計(クリックで拡大。出典:日立コンサルティング)

 以上本稿では、IFRS時代のリスクマネジメントの基本的な考え方について論じてきたが、次回は、より具体的に業務プロセスレベルでIFRSの各基準に対応するうえでの取り組み課題について検討を行う。さらに、IFRS時代に求められるグループでの統制環境の確立と対応に向けた取り組みについても論じてみたい。

筆者プロフィール

河辺 亮二(かわべ りょうじ)
株式会社日立コンサルティング
マネージャー 米国公認会計士

日立製作所 ビジネスソリューション事業部を経て、2007年に日立コンサルティングに入社。これまで大手メーカー、金融機関、公共機関などの、経営マネジメントシステムの構築、連結決算対応、内部統制対応などのグループ経営支援に関するプロジェクトを担当し、現在IFRS導入サービスを手掛ける。共著書に「グループ企業のための連結納税システムの構築と運用(中央経済社)」「ITコンサルタントのための会計知識(SRC出版)」などがある。


伊藤 雅彦(いとう まさひこ)

株式会社日立コンサルティング

シニアディレクター

会計事務所で税務を担当後、外資系企業の韓国法人と日本法人でCFO(最高財務責任者)を10年間務める。VCF(Value Create Finanace)をコンセプトに決算早期化、シェアードサービス設立、経営情報充実化、会計システム導入などを担当し、現在に至る。

日立コンサルティング

要約

 日本版SOX法対応を行った企業が次に何を行うべきか、内部統制評価にどのような影響を及ぼすのか、IFRSとリスクマネジメントとの関係をどう考え、IFRS適用初年度を迎えるべきかについて解説する。

 米国トレッドウェイ委員会は2004年、「全社的リスク管理の統合フレームワーク」 (Enterprise Risk Management:COSO-ERM)を公表した。COSO-ERMは、IFRSという会計制度を企業の目標実現の仕組みとして導入する際の欠かすことのできない内部統制の仕組みであると再認識されている。

 COSO-ERMの目的は、企業の戦略を踏まえた目標の設定と、目標を達成するうえでのリスクの識別、さらに経営判断としてのリスクへの対応という、企業価値の向上にベクトルを合わせたものとなっている。内部統制の構成要素である、統制環境、リスクへの対応、統制活動、情報と伝達、モニタリングの各機能は、経営目標と達成するうえの重要な手段(経営管理の仕組み)だ。

 IFRSの基本的な思考パターンは、これまで企業会計において主流であった損益計算中心のアプローチではなく、企業の純資産の増減を投資家の立場から評価する「資産・負債アプローチ」で、バランスシート重視の基本姿勢が貫かれている。資産と負債の差額であるところの純資産の変動をリスクとして捉え、コントロールしてゆくことが、企業経営の命題となり、翻ってはERMの目標となる。

 IFRS時代の内部統制の役割を一言で表すと、「保有する資産・負債の評価プロセスを会社の仕組みとして確立するとともに(統制活動)、事業・財務上のリスクをできる限り正確に認識し(リスクの評価)、連結グループも含めて予算・決算などの経路を明確に定義して(情報と伝達)、安定的な運用にむけたガバナンス体制を確立し(モニタリング)、一方で、経営者が事業戦略と経営目標を明確に示しつつ、自ら戦略実現に向けた行動規範を示すこと(統制環境)」と考えられる。

 すなわち、IFRSのアダプションと内部統制の整備は一体であり、別々に整備する種類のものではないのだ。

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