制作、配信、再生までのフローを全面強化

ネット映像市場でプレゼンスを強めるアドビ

2007/09/14

adobe01.jpg アドビ システムズ マーケティング本部 ビデオソリューション部 部長 古村秀幸氏

 米アドビ システムズは9月初頭にアムステルダムで開催された国際放送展「IBC 2007」でストリーミングサーバソフトの最新版プレビューとして「Flash Media Server 3」の新機能を発表した。ベータ版以前のプレビュー版を公表したのは「ユーザーからの非常に関心が強かったため」(アドビ システムズ マーケティング本部 ビデオソリューション部 部長 古村秀幸氏)。IBCでは、Flash Media Serverのほかにも、今秋にベータ版公開が予定されている無償のメディアプレーヤー「Adobe Media Player」(AMP)や、Adobe Premiere Pro CS3の追加新機能などのアップデートが発表された。

 アドビ システムは9月14日、IBCでの発表内容を国内向けに説明する記者会見を行い、同社の戦略を明らかにした。

Adobe Media PlayerはAIR普及の起爆剤

 Adobe Media Playerの配布には、アドビが提供するRIAプラットフォーム「AIR」(Adobe Integrated Runtime)を広く普及したい狙いがある。「理由なくユーザーにランタイム単体をインストールしてもらうことは期待できない。AMPのようなアプリケーションがあれば同時にランタイムを入れてもらえる」(古村氏)からだ。

 AMPは既存コンテンツプロバイダーや広告業界の人間を納得させるだけのコンテンツ配信プラットフォームを目指している。番組をカタログ表示したり、オーバーレイ表示による広告機能、クリッカブルな商品広告などが可能。また、YouTubeのようにコンテンツを評価したり、コメント、タグを付けるなどのソーシャル機能も備える。オフライン視聴であっても、どのコンテンツをどこまで見たかといった詳細な効果測定ができることもウリだ。

 AMPはオンラインかオフラインかを問わず、Flash Videoファイル再生が可能であることから、Flash Videoフォーマットの普及にも一役買うことになる。

adobe02.jpg 今秋にベータ版公開が予定されている無償のメディアプレーヤー「Adobe Media Player」

 AMPが戦略的なプロダクトであるのは間違いないが、アドビとしては「コンテンツの企画、制作から管理、パブリッシュ、配信、再生までを一気通貫で行え、課金も出来るプラットフォームを提供する」(古村氏)のが戦略のグランドデザインだ。そのため、再生環境についてはAMPだけにこだわらず、個別のコンテンツプロバイダやシステムベンダがAIRで実装した独自プレーヤーも歓迎する。すでにサイバーエージェントは「Skimee」(スキミィ)と呼ぶプレーヤーを開発したことを7月に発表している。

課金システムをクロスプラットフォームで提供

 Adobe Flash Media Server 3では「コンテンツ保護機能の強化」「H.264とAAC+コーデックのサポート」「約2倍のパフォーマンス」「Flash Lite 3搭載モバイル端末へのFlash Videoのストリーミング配信」の4つがポイントになる

 これまでのDRM機能に加えて、独自プロトコル「RTMP」(Real Time Messaging Protocol)を拡張して暗号化に対応した。また、データのハッシュを取ることでコンテンツの改ざんを検出可能とした。オリジナルと異なるもの、別ホスト上に置かれたフラッシュコンテンツは再生不能とすることができる。他社製品と比べて弱いとされていたDRM関連の機能を一気に強化した形だ。

 新たにFlash Lite3へのストリーミング配信機能も搭載した。PCのWebブラウザ上と同等の表現力を提供でき、オンデマンドライブストリーミング配信も可能になる。Flash Lite 3搭載の携帯電話端末は年内にも発売されると見られており、高速な無線データ通信の普及と合わせて、大きな市場を生み出しそうだ。

映像業界の一大変革期に、全工程サポートの強み

adobe03.jpg Panasonic P2フォーマットに対応した業務用ビデオカメラ。8GBと16GBのPCカードタイプのフラッシュメモリを利用する

 映像関連市場全体を見れば、業務用のオーサリング環境に大きな変革期が訪れているという。業務用ビデオカメラのテープレス化の波と、PCを用いたノンリニア編集の一般化だ。

 2003年4月にソニーが発表したデジタル映像フォーマット“XDCAM”を嚆矢として、松下電器の“P2”フォーマットなど、従来のテープ媒体の代わりに専用のメモリ媒体を利用する例が着実に増えているという。アドビではAdobe Premiere Pro CS3のアップデートを行い、P2コンテンツをダイレクトに編集可能とした。

 マルチメディアコンテンツの企画・制作を受託して行うトランス・デュース 代表取締役 樋口実氏によれば、テープレス化は撮影現場での煩雑なテープ交換や、スタジオでの編集時の映像取り込み作業をなくすばかりでなく、これまでVHSテープやBlu-Rayディスクで行っていたコンテンツ制作過程での確認用映像の受け渡しまでも変えてしまうのではないかという。「コンテンツをPremiereで編集してFlash Videoで出力すれば、Webサイト上で公開できる。将来、そういったスタイルで確認用の映像をやり取りできるかもしれない」(樋口氏)。

 従来、1億円以上もする専用機材を用いて編集していた作業が、数十万円のカメラとPCで完結するようになる。資本力のない中小の映像プロダクションでも、撮影だけでなく編集まで終えた“完パケ”と呼ばれる完成品の納品が求められる機会が増えているという。そうしたとき、ワークフローの上流である制作から、配信、再生までを貫く、ビジネスのインフラを提供しようとしている。急激にユーザーの認知が進んだFlash Videoや、既存オーサリングツールユーザーの層の厚みなどを武器に、今後アドビはネット上の映像市場で台風の目となっていくかもしれない。

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(@IT 西村賢)

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