まだ起業家が足りない。なぜ?

「日本のWeb 2.0」でオライリーとジョーイが対談

2007/11/15

 11月15日から2日間の予定で、東京・渋谷で「Web2.0 EXPO Tokyo 2007」が開幕した。Web2.0関連技術やサービスを持つ企業が会して展示を行っているほか、技術セミナーやトレンド情報のレクチャーなどが行われた。

 1日目の15日、朝一番に行われた基調講演には「Web 2.0」というキーワードの名付け親で、技術系出版社「オライリー」の創業者CEOであるティム・オライリー(Tim O'Reilly)氏が登壇。「Bringing Web 2.0 to Japan」と題してネオテニー 代表取締役社長の伊藤穣一氏と対談を行った。

web201.jpg 対談するティム・オライリー氏とネオテニー 代表取締役社長の伊藤穣一氏

Web 2.0が生まれた西海岸と、生まれなかった東海岸の違い

 対談はオライリー氏が伊藤氏に対して“日本のWeb 2.0”の現状と今後の見通しを聞くというスタイル。伊藤氏は日本のインターネット黎明期からデジタルガレージやインフォシークなどのIT関連事業を興し、現在はベンチャーキャピタリストとして日米のベンチャーの橋渡し的なビジネスを行っている。最近ではテクノラティ・ジャパンの取締役、シックス・アパートの日本法人会長、ICANN理事、モジラ・ファウンデーション理事なども務める。

 日米双方の動向に詳しい伊藤氏の目から見た、現状の日本の状況は「方向性としては、確かにWeb 2.0の方向に進んでいる」(伊藤氏)ものの、Web 2.0の本格的な波がやってくるための環境が徐々にできつつある状況だという。

 日本にWeb 2.0が入りづらい条件として伊藤氏が挙げるのが、大企業や規制など既存の“エスタブリッシュメント”の存在と、日本のドメスティック市場の大きさ。

 「若くて才能のある起業家がたくさんいて新しいことにチャレンジするという環境があることを、シリコンバレーの人々は当然のことのように思いがちです。しかし、日本をはじめとする多くの国や、米国でも東海岸のようなところでは、大きなエスタブリッシュメントが多く存在します。eBayやGoogle、Skypeといったサービス、あるいはLinuxなどは、そうした地域ではなく、すべて規制が非常に弱い地域から出てきました」。

 「世界第2位のGDPという日本市場は十分に大きく、国内向けサービスの提供だけで満足しがちです」。

 伊藤氏は、こうした状況に変化の兆しが見られるという。

 「歴史的な逸話で、Web 2.0といくぶんパラレルな話だと思うのがTCP/IPの普及です。村井純氏がインターネットを持ち込んだころ、日本ではまだCCITTのプロトコルが使われていて、『日本でTCP/IPを使うのは違法だ』という論文を発表する人もいました。ただ、ヨーロッパでTCP/IPが実験的にさえ使われることがしばらくなかったのに対して、日本ではゲリラ的に、アンダーグラウンドでTCP/IPを使い始めました。それで結局、実用上の観点から注目を集めるようになりました。Web 2.0でも同じことです。徐々に変わっていかざるを得なくなるでしょう。mixiのようにSNSが米国でブームになっているのを見て、似たようなものを作るという例も出てきました」。

次のイノベーションはモバイル分野

 オライリー氏は次に大きなイノベーションが起こる領域はモバイルだとし、米国では旧来のテレコム業界が「瀕死寸前の状態」だと指摘。WiMAXやiPhoneなどの登場で、キャリアが垂直統合で独自サービスを提供するのではなく、「インターネット+PC」に似たプラットフォームとしてのモバイル環境が登場しつつあるという。

 そのオライリー氏の話に対して伊藤氏が指摘したのが、日本の端末メーカーが持っている「非常に大きなチャンス」だ。

web202.jpg

 「つい最近、mixiではケータイからのアクセスがPCを上回ったというニュースがありました。米国で始まったイノベーションが日本に来て、ローカライズされ、それがモバイルで普及するというのが1つのパターンです。NTTドコモのケータイ向けセカンドライフもそうです。

 日本は先進的ユーザーを多く抱えています。そうしたユーザーの声を聞いて、非常に先進的なサービスが誕生している。アプリケーションレベルでは多くのアイデアやイノベーションが生まれています。ただ、そうしたサービスの多くは特定の領域に特化したもので終わってしまうことが多く、そこが米国のWeb 2.0サービスとの違いです。

 日本の端末メーカーは、現在はNTTドコモのようなキャリアにコントロールされていますが、モバイル分野ではハードウェアレベルで非常に大きなチャンスがあると思います。カシオやソニーなどの家電系メーカーはWeb 2.0やUGMを使ったサービスで非常に有利なポジションにあると思います」。

日本にはまだ起業家が少ない

 日本のモバイル分野では既存キャリアの支配力が強く、新規参入も少ない。ソフトバンクの孫氏や、イー・モバイルの千本氏の名前を挙げつつも、伊藤氏は「日本にはまだ起業家が少ない」と指摘する。理由の1つは日米の社会構造の違いにあるという。

 「日本に起業家が少ないのはもっともなことです。なぜなら、つい最近まで大企業に入ってリタイアするまでに得られる報酬は、そこそこの成功をした起業家より多かったからです。リスクがほとんどなく、かつ高収入が得られる道というのがあったのです」。

 起業するよりも大企業に入るローリスク・ハイリターンの選択をするのには、日本では失敗のリスクが高いという事情も挙げられる。

 「たとえ話として私が良く使うのはサーフィンです。アメリカでは、波に乗ろうとして失敗したら、また波に乗ろうとする。日本で可能な唯一のサーフィンは津波に乗るということです。波から落ちたら、それでおしまい」。

 現在では大企業に入るのもローリスク・ハイリターンとは言い難いが、それでもまだ大企業を去って起業しようという人は少ない。最大のバリアは「自分たち自身の中にあるリスクを取ろうとしないメンタリティだ」と伊藤氏はいう。だが、その状況も氏には少しずつ変わりつつあるようだ。

 「変わりつつあるのは確か。大企業はゆっくりと、少しずつ弱体化しています。慶応大学SFCのようなところからアントレプレナーシップを持った新世代が登場してきてもいます。1つ前の世代である孫さんや三木谷さんが外国に行ったのと違い、日本育ちの人たちです。日本でも一種のエコシステムができつつあります」。

 大企業がかつてほど魅力的に見えなくなれば、学生の考えも変わってくる。気概と才能のある学生に語りかけでもするかのように、伊藤氏はこう語った。

 「卒業して大きな会社に入ろうと考えるか、それとも起業しようと考えて何かを学ぶか。そうしたことを考えるという意味で、大学は人生で非常に重要な期間です。

 日本ではいったん会社に入ると40才になるまで本当の意味での責任を持つことがありません。貿易商社では40才になるまで自分の予算を持てません。テレビのプロデューサーも40才になるまで自分の枠をほとんど持てません。これはもちろん一般論ですが、会社に入るとリスクを取って自分の責任で何かをやるという経験を40才になるまで積めないわけです。でも、学生時代に始めれば20代で経験が積めます」。

 オライリー氏も、あまり触れられることのないシリコンバレーでの起業の失敗について言及。「シリコンバレーにも失敗は多いのです。失敗して、それで学校教師をしている人もいる。でも、起業の過程で多くを学ぶのはいいこと。少しも恥じることではないのです」。

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(@IT 西村賢)

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