「社員を大切にして32年間成長」、SASのグッドナイトCEO日本人エンジニアも活躍

» 2008年10月30日 00時00分 公開
[垣内郁栄,@IT]

 「一言で言うと社員を大切にする会社だからだ」。1976年の設立以来、増収増益を続けるソフトウェアベンダ 米SAS InstituteのCEO ジム・グッドナイト氏は10月29日(米国時間)、@ITなどの取材に対し、成長し続ける理由をこう答えた。世界でトップ10に入るソフトウェアベンダでありながら、株式非公開を続けていることも、継続的な成長の理由だという。

 SASは米国ノースカロライナ州キャリーの本社に社員と社員の家族のためのフィットネスジムや病院、教育施設など豊富な福利厚生を備えるなど、社員に優しい会社として有名だ。「働きがいのある会社」ランキングの常連でもある。社員を手厚く扱う姿勢が、社員のやる気を高めて強豪に打ち勝つ製品やソリューションを生み出してきた秘訣とグッドナイト氏は語る。「ハッピーな社員が顧客をハッピーにする」(同氏)。本社ではフィットネスジムのトレーナーやカフェのスタッフ、プライベートジェットのパイロットなど一般的にはアウトソーシングするような業務のスタッフもSAS社員。「ゲートセキュリティ担当以外はすべて社員」(米SAS)だという。社員を家族ととらえる日本企業的な経営とも言えるだろう。

SAS InstituteのCEO ジム・グッドナイト(Jim Goodnight)氏

 21億5000万ドルの売り上げ、世界で1万人の社員を抱えるソフトウェアベンダでありながら、株式の非公開を続けているのも成長に貢献しているとグッドナイト氏はいう。四半期ごとの数値に追われる公開企業と異なり、非公開企業は長期的な視野で新規開発ができるメリットがある。グッドナイト氏は「定期的な社員調査では毎回、90%以上が非公開でいることを望んでいる」と話す。非公開企業であることを承知して入社した社員が対象なので、当然の結果かもしれないが、彼らは大きな現金を得られるストックオプションではなく、安定した会社員生活を求めたということだろう。

 SASが今後も成長を続けるための課題の1つは「スキルを持ったエンジニアの確保」(グッドナイト氏)だ。豊富な福利厚生と恵まれた開発環境をそろえるSASだが、本場ともいえるシリコンバレーから遠く離れたノースカロライナ州に本社を置き、ストックオプションはない。すべてのエンジニアがSASで働くことを希望するとはいえない。グッドナイト氏は「最近の子供は理数系に興味を持たない」とも指摘し、米国内でのエンジニア確保を心配する。「将来的には中国やインドでのエンジニア獲得も考えられる」

 そのSAS本社では12人の日本人エンジニアが働いている。本社と日本、中国を行き来しているという萱野真一郎氏は日本法人設立前の25年前からSASで開発に関わり、現在は2バイト対応の総責任者。グッドナイト氏は「世界でもベストなエンジニアだと思う」と評価する。日本法人についても「この2年間で営業部隊を強化し、ツールではなくソリューションで顧客の経営課題を解決できる体制を整えた」と評した。

 景気後退が明確になり企業のIT投資が冷え込むことが予想される。これまで大きなIT投資を行ってきた金融機関がダメージを受けているため、売り上げの42%を金融機関に依存するSASにとっても先行きが不透明だ。しかし、SASのシニア・バイスプレジデントのジム・デイビス(Jim Davis)氏は「ERPなどのオペレーショナルシステム、Microsoft Officeのような生産性向上ツールへの投資は少なくなるかもしれないが、SASが提供するBusiness Analyticsソリューションは、企業がよりよい成果を得るために逆に投資が増えると予想している」として明るい先行きを強調した。グッドナイト氏も「よりよい意思決定のためにデータ分析の重要性が理解されている」と成長に自信を見せた。

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